第79話 チュートリアル:このまま愛されたい

 小物、ファッション、キャンプ用品などを回ったり、おもちゃコーナーで萌が見ている特撮の変身アイテムを見たりと、しまいにはゲームセンターで百円を溶かす。


 UFOキャッチャーをプレイする萌。ガンバレと瀬那は応援するが無念。苦汁を飲まされた萌はカッコいい所を見せれなかったと気分を下げるが、瀬那は楽しめた事を言ってその場を後にした。


 夕食は老若男女、学生から大人まで足繫く通うイタリアンファミリーレストラン、サイゼリアだった。


 注文方法は口頭での注文ではなく、シート記入形式と変わった方法だが、自分が食べたいものを記入するワクワク感を味わえるスパイス。値段も手ごろでも美味しいと評判がいい。


 ドリアからエスカルゴ。ムール貝にソーセージ、コーンスープにズッパと、いっぱいに広がった品の数々があるテーブルがあった。


「あ、ムール貝とソーセージ食べていいの!?」


「存分に食うのだ! サイゼは安い! なにより沢山食べて強くなろう!」


「いただきます!!」


 動画投稿者なのかと他の客も何かの冗談かと思った。


 ドリアを頬張る男性はコリアンファッション。高身長で中肉だがそれは擬態。時折捲って袖から垣間見える本物の筋肉。

 ソーセージを舌の先端から頬張る女性は挑発的なコーデ。褐色が映える生脚に脳裏に焼き付く殺人的な胸部。

 事情を知らない者は彼彼女らが学生だと思わない。


 だが一つ。確かに分かる事がある。それは――


「「びゅおー」」


 ニンテ〇ドーが誇るピンクの悪魔だという事だ。


 崖際吸い込みで道連れを計るピンクと思われているとも知らず、二人は爆食い。


 ドリアクリームを付けたプチフォッカを頬張りながらおいしーと目を細める瀬那。その細目は水を飲んだ萌をしっかりと見ていた。


 テーブルに乗せている大きな胸をガン見する萌を。


「パクパク」

(きっと大きいとか重いから置いてるとか、まぁそれは事実だけど、大好きな人が私の体に興味あるのってマジ最高じゃん! おっぱい大きくて良かったぁ!)


 ポジティブ。非常にポジティブな考えをする瀬那。萌はその意図した術中に嵌ったが、ほぼ日常的に誰かしらの視線をその夢に注がれている。


 日常的な視線は仕方ないと割り切ってはいるが、意中の視線を注がれるのはまた違った気持ちだった。


「……」


「むー! もえ、どこ見てるのぉ」


「!? ――」


 ジーっと凝視する萌。そろそろ気絶する頃だろうと頬を膨らませて現実に戻す。当の本人は高速で謝り陰キャ童貞特有なキョドリをかます始末。


 内心しめしめと思いながらも怒っていないと伝えると。


「でしょうね」キリッ


「切り替えはや!」


 会計を終え、店員に感謝の言葉を述べ店から出た。


 時間は十九時前。デートの解散には少し早いと言う萌。無論、寮の門限なんて気にしなくていい実家通いでまだ帰りたくない瀬那。否、萌が言わなかったら自分が否応なく連れまわしていたと既に決意済み。


 それ程に一緒に居たくて、離れたくなくて、気持ちを伝えたくて……。


 小物インテリアやハンドクリームなどの化粧品。何でもいいから少しでも一緒に居たいと回った。


 そして気づけば空を仰げる外の庭園へ。


「もうイルミネーションがあるのか」


「綺麗だね……」


 夕方ごろから肌寒い季節。彩る幻想的なイルミネーションが二人を包む。


 歩幅を同じくして光の中を歩く。


 一番星が見える夜のせいか、腕を絡ませるカップルが多いせいか、隣に想い人が居るせいか、肌寒いのに心はポカポカと温かかった。


 ――小指と小指が触れ合う。


(――――)


 気付けば小指が絡み、萌が手を覆い、親指以外包まれるが、瀬那がそれを解き指が触れ合ったまま絡ませた。


 ――これがいい。


 二人の気持ちは同じだった。


 言葉なんて必要ない。


 すでに繋がっているのだから。


(……ドキドキが止まらないけど、自然でいられる。暖かいなぁ)


 ――彼は今、どんな事を思ってるんだろう。


 イルミネーションをバックにする横顔はとても素敵で……。


 二人の目に映ったのはこの人工島を一望できる大観覧車。自然と、二人の歩みがそちらに向かう。


「気を付けて乗って」


「うん」


 代金を払った時すら手を放さない萌。さらに動く観覧車に乗りこむ時の気遣い。


 それが嬉しくてとても――


 扉が音を立てて閉まる。


「ぁ」


 対面に座る関係上手を離す。それを仕方の無い事だと分かっていても、残念だと小さな悲鳴を言ってしまった瀬那。


 ゆっくりと昇って行くゴンドラ。静かな空間の中心臓の鼓動だけはハッキリと聞こえる。恥ずかしさからか気まずさからか、自然と景色を瞳に映す二人。


 何か言わないと――――


 むず痒く思考し捻り出そうとするが、この期に何を言うのか……。


 そう思っていると、不意に。


「そう言えばさ、アレってよくよく思い出して見ると、移動中だったよなー」


 彼が話しかけてきた。


「え、えぇ? な、なんの話……」


「ふふ、最初に会った時の話だよ」


 そう言われて思い出す、忘れもしない時間。


「ギャル集団が授業サボってるって思ったけど、あれ体育で移動してただけなんだなぁって」


 危ない!! と、意識外からの死球。あわや顔に当たるその時、萌が見事片手でキャッチし事故を防いだ。


 その時、瀬那に初めて恋の琴線が響いた時でもあった。


「あの時はありがとね……!」


 萌に笑顔を向ける瀬那。同時に笑みを浮かべる萌。


「それとさ、初めて俺ん家に大吾と来た時、二人で部屋漁られたのマジでビビった!」


「あーあの時! エロ本もいっぱいあったし人妻ものとか!」


「う!?」


 萌にグサリと見えない棘が刺さる。


「萌ったらエロアニメ見過ぎぃ! 何だったけ? 確か何かのアニメのキャラでぇ、カテゴリーC――」


「ヤメテクレ。タノム……!」


 これ以上は羞恥心で死にそうだと棘が刺さりまくった萌。思わず懇願した。


「……途中でトラブルもあったね。思わず……」


「あーはは、あったな……」


 絡まる脚。ベッドへ倒れる二人。


 触れ合うまで数センチだった。


 それを思い出した二人は意図せず、唇を舌で少し舐めた。


「それと四人でもデートしたよね!」


「俺・瀬那と、大吾・花田さんペアね。あと海にも行った……。アレは陰キャにとってなかなかの苦行だった」


「でも楽しかったでしょ?」


「まぁうん」


 水着も可愛かった。恥ずかしながらそれを小声で言う萌。


「当然じゃん! だって萌がアドバイスくれた水着選んだしー」


「非常に眼福でした」キリッ


「素直でよろしい!」


 クスリと笑い合う二人。


 ゴンドラは昇って行く。


「……記憶に新しいのはハロウィンかぁ。みんなで仮装たりして」


「アレも楽しかったなぁ。いろんな人も仮装してるから、一体感あったよね!」


「楽しかった」


「うんうん! けっこういろんな所行ったし、いろんな事起きた!」


 そう。海では大吾の彼女が拉致、ダンジョンを攻略しに行き、施設でのトレーニングもした。ギャル友と萌の邂逅や、マーメイドレイド事件。

 起きたのは良い事ばかりではない。


 だが、瀬那はそんな事どうもでいいと、楽しい事を思い出すようにした。


「海でフォト撮りまくってー」


 二人でピースする写真。


「四人で遊んでー」


 ビーチボールで遊ぶ四人。


「みんなで池袋行ってー」


 ポーズをとるみんな。


 瀬那は上を向いて思い出す。


「それからー――」


「――瀬那」


「うん――――――」


 ……。……。


 ……。


 …。



 観覧車のゴンドラが少しだけ、揺れた。


 時が止まったと錯覚する。でもそれは甘美で柔らかく、少しどこか切ない……。


 一秒、二秒五秒……。体感ではもっと長く短い時間、それがゆっくりと、惜しむ様に離れる。


 突然の事だった。だが、初めてだったけど、瀬那は自分が思ったより落ち着いていると感じた。


「……ごめん。我慢できなかった」


 だから――


「もう一回……して――ん」


 次は、確かに感じた感触。


 冷たい様で、熱くて、柔らかくて、甘くて。


 微かに感じた先ほどの柔らかさとは違うのは、自分も受け入れる姿勢に入ったからだと本能で分かる。


 次は先ほどより少し長かった。


 だが、萌の顔は困った表情だった。


「どうしたの……」


「はは、情緒が無い音というか何と言うか……」


 確かに施設が流す音楽が小さく聞こえ、雰囲気にあってないのは分かる。でもそれほど困る事だろうかと思う瀬那。別の事を言っているのだろうか……。


 でも、そんな事より――


はじめ……もう一回――んん――はむ――」


 舌を突き出し、絡ませ、塞ぎ合い、唾液を混ぜ合わせる。


 顎を指で上向かせ、より熱く、情熱的に――


 夢中で味わった。


 そして苦しくなり、離して大きく息を吸った。


 そして。


「――好きです。付き合ってください」


「はぁ、はぁ、順番逆、じゃない? 答えなんて決まって――」


 友達と昇り、恋人と降りてきた。

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