第51話 チュートリアル:コスプレ

 十月末。東京・池袋。


 日常的に騒がしい池袋だが、この日はなおの事騒がしく、若者で溢れていた。


 右を向けば仮装。左も向けば仮装。世界的に有名なキャラクターの仮装からニッチな層のキャラクター。モデルガンを持った部隊の仮装も居れば色物枠な仮装も居る。


 時は年に一度の祭り、ハロウィン。


 古代アイルランドに住んでいたケルト人が起源の祭りで、現代ではアメリカの民事行事として定着。祝祭としての意味はほぼ皆無となり、若者の一大イベントとなっている。


 スマホで自撮りする者。カメラを持って配信する者。ポーズをとってサービスする者。


 世界よ、これが敗戦国の末路だ!!


 と、書いてあるプラカードをもつ色物も居る始末。


 時間は日が落ちてくる十七時頃。


 カメラを持つ人や、談笑する人。一人、また一人と、横に列を成す存在達に気づき始めた。


 エントリーナンバー1!


 派生作品を含めば那由他の数! 抜いた男も那由他の数! 人気は衰えないがそろそろ年齢がキツイストリートファイターからの登場!


 ジャッキーチェンもコスプレした!!


 春麗ィイイイイイ!!


「ごめんね!」


 エントリーナンバー2!


 快楽主義にして嗜虐性! その鋭い眼光は獲物を狙うジョロウグモ! 蠱惑的な雰囲気を隠さない妖艶さ故、一部のドMが抜きまくったストリートファイター!!


 後ろ蹴りでキンタマ蹴られたい!!


 ハンンンンン・ジュリィイイイイイ!!


「ほぉんと蹴られるのが好きだなぁ……お前」


 エントリーナンバー3!


 暗躍する秘密結社、ネスツ。その脅威の改造人間が今、この池袋に出現!

 ぴっちりスーツを着こなす無邪気な笑顔! 水色の髪は戦闘状態を意味! 幼さからかけ離れた抜群のスタイル! ゲーセンで抜きまくった男多数! キングオブファイターズからの登場!


 男子のココロもカッチコチ!!


 クーラァアア・ダイアモンドオオオオオ!!


「ラ☆カチョーラ!」


 エントリーナンバー4!


 誘拐犯を叩きのめしたその快感……。以来、快感を求めて明け暮れるストリートファイト! 美人でお金持ちのお嬢様! 仕事を選ばずデジモンにも登場! 抜きまくったお嬢様厨は大多数! 鉄拳からの登場!


 モナコが生んだ金髪美女!!


 リィイイリィイイイイ!!


「あなたは何発で壊れるの?」


 エントリーナンバー5!


 小悪魔サーバントはキャッチコピー! 揺れる金髪ツインテは男の視線を奪う! 本業は召使だが侮るなかれ、近づいた男はシステマでボッコボコ! スク水バトルスーツで悩殺だ! 抜いた男は星の数! 合法ロリとは私の事だ! デッドオアアライブから登場!


 乳揺れは確かに存在する!!


 マリィイイイイ・ロォオオオズ!!


「血の薔薇、咲かせてあげる!」


 エントリーナンバー6!


 命を賭す愛国心は己の肉体を強くし、やがて世界が認めるヒーローになる!

 自由・平等・博愛を胸に戦い続ける! 持ち前の盾は象徴そのもの! アメリカによる、アメリカのためのアメリカ! 抜きまくった男は盾の構成組織以上! マーベルVSカプコンから登場!


 日本も守れよアメリカンスピリッツ!!


 キャプテン! アメリカァアアアア!!


「アベンジャーズ……アッセンブル……!!」


 エントリーナンバー7!


 ハロウィンは代名詞? え? 違うの? でも私がハロウィンでしょ!

 ハロウィンも好きだがバレンタインも好き! 精神状態はカボチャ仮面でカバー! 理系的発想はマジで死ね! SNSでバズらせたポーズは伊達じゃない! 尻で抜いたらドラインされる! ギルティギアから登場!!


 ジャスティスも驚くドスケベ衣装!!


 ジャックッ・オォオオオオオ!!


「ハッピー! ハロウィン!!」


 エントリーナンバー8!


 存在自体が謎。謎。謎。いや、アスカ君は知っている!? 陰気のようで軽快。だが人懐っこいようで破壊的! 中に沢山いすぎて逆に空っぽ! 知性は世界すら変えるあの男! 全次元的に抜かれた数は計り知れない! 同じくギルティギアから登場!


 格ゲーでシューティングするな!!


 ハッピィイイイイ・ケイオスゥウウウウウ!!


「ドラマ……。ドラマだよ!!」


 うん。


 ここまで妄想した!! これが現実逃避したくなる陰キャの思考回路……。もう嫌だ。ゲームしたい。


「みんな見てるみんな見てる!」


「ツヤコいい仕事するぅ!」


「でしょ? 金貰ってるからねぇ」


「キャラ詳しくないけどかわいい!」


 春麗とクーラとマリーがジュリを褒め称えている。ちなみにギャルたちの名前は知ってる。不本意だがグループラインに属してるからだ。白ギャルのジュリがツヤコ。


「大吾くんかっこいいね! 本当に映画の人みたい!」


「だろ? 今日の俺は蕾、もといリリを守るキャプテンなのさ!」


「素敵!!」


「っへへ!」


 なんだこのラブラブ空間は……。鉄拳のリリがキャプテンアメリカと腕絡めて歩いてるぞ……。見せつけてきやがって大吾。花田さんのリリはマジで美人だ。思わずおっふしてしまいそうになる。


「意外と見えやすいよコレ。息も苦しくないし」


「でしょー瀬那。結構力作だから、その仮面」


 ツヤコが制作したコスプレ衣装はマジでレベルが高い。特にジャック・オーのクオリティとハッピーケイオスがヤバい。


 外側が赤、内側が白のロングウィッグと、仕組みがわからない発光する欠けた天使の様な輪っか。特徴的な前が開いた衣装にまた特徴的な足の鉄球。


 もう、もう凄いとしか言いようが無い。


「ちょっと胸キツイかも」


「育ちすぎ」


 ジャック・オーのおっぱいが。


 コスプレ元のジャック・オーとはかけ離れたお瀬那さんの褐色お胸。今にもこぼれそうでひやひやする。って言うか、カメラのシャッター音がうるさい。仮面で顔は割れてないからいいが、いや良くは無いが非常に暴力的なおっぱいだ。


「萌もなんか凄いじゃん! 人間じゃないみたい!」


「……遠からずってとこだね」


 このジャック・オー、ノリだけでキャラの設定当てやがった……!


 今の俺は悪目立ちする真っ青な地肌。黒く光る天使の輪っかに頭の角。オレンジ色の×型メガネに二丁の拳銃が腰に下げられている。肌から直接着崩してる服、手のひらと足の裏は白色だ。


 そう、俺は裸足。裸足で現代社会を歩いている。


 ここまで行くともう俺はハッピーケイオスなんじゃないかとも思えてくる。普通に日本壊滅させたりできそうだ。


 既に言動がハッピーケイオス寄りになってる気がする……。


「イェーイピース!!」


 クーラが自撮り棒を伸ばして俺たちを撮った。瀬那……、ジャック・オー含む女性陣とキャプテンアメリカは瞬時に反応してポーズをとったが、俺は顔だけ向けた。場なれしてる奴らは早いこと。


「で? これからどうするんだい。まさかボスが無計画な訳無いよね」


 みんながワイワイとはしゃいでる束の間、隣のジュリに問うてみた。


 写真を撮ったり撮られたり、徘徊してはコスプレを楽しむのか、正直このイベントの終着点がわからない。そもそも終着点が有るのかさえ怪しい。


「は? そんなのは自分で決めるんだよ。インスタに載せて反応楽しんだり、そこら辺のカメラ持ってるブタに撮らせるのもいい。所詮は自己満した者勝ちなんだよ」


 このジュリ、僕と同じでキャラに似せてくる。


 色々と言葉並べたけど、まぁつまりは無計画って事だ。


「うぅうう! このポーズはキツ過ぎるぅぅうう!!」


「アッハッハ! 頑張れ頑張れ!」


「ジャック・オーなのにジャック・オーチャレンジ出来てないじゃん! ウケるんだけど~♪」


 春麗とクーラとマリーがジャック・オーを笑っている。つかジャック・オーチャレンジって体柔らかくないとできないだろ。また無理しちゃって……。


「リリは俺が守る!!」


「私も守られてばかりじゃないわ!!」


 カップル二人はよろしくやっている。カメラにポーズをとって背中合わせだ。もう放っておこう。


「……ちょっとそこらへんブラブラするよ。他のコスプレも見たいし」


「あそ。後で合流な」


 ジュリに一声かけてこの場を立ち去る。決してカメラに撮られたくないからじゃない。今はハッピーケイオスだし。

 ただ、平気で存在感アピールできる陽キャたちが眩しすぎたからだ。僕はそう、陰キャだから。実際に閉じこもってたし、ハッピーケイオス。


「ふんふ~ん♪」


 一応ハッピーケイオスらしい鼻歌を奏でながら徘徊する。さっきから思う事は、裸足だとやっぱり痛いだ。けっこうアスファルトって砂利とかあって痛いんだなコレが。


「ふ~ん」


 マリオファミリーだったり、APEXだったり、FGOだったり、みんな煌びやかだ。この日のために努力したんだろうなぁ。まぁ僕はお金だけだけどね。


 ユーチューバーだったりが配信しているのか、喋りながら徘徊してる人たちもいる。俺は関わらないぞと早足で移動。映るくらいなら別にいいや。


 そう思っていると、クオリティの高いコスプレをしている人が目に入った。


 淡い青色のボディにメガネの様な赤い目。背中にはフライトユニット、首に巻いている長い白のスカーフは後ろから二手に分かれている。


 この正体は、いや、このモンスターは、某メ蟹ックのエースモンスター。


「ジャンク・ウォリアーだ」


「ん?」


 俺の声が聞こえたのか、ジャンク・ウォリアーがこちらを向いた。


 お互いに近づき、止まる。


「……」


「……」


 無言。だが目は離さない。そして。


「かっこいいよね、ジャンク・ウォリアー」


「そっちこそ本物かと思った。ハッピーケイオス」


 互いに褒め合う。しかし、俺はジャンク・ウォリアーの声に聞き覚えがあった。

 それはジャンク・ウォリアーも同じの様で、首をかしげている。


 しばらく熟考した後、同時に言った。


「優星さん?」

「萌くん?」


 蟹が蟹のエースに擬態していた。

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