第39話 チュートリアル:おい、デュエルしろよ

「法術とは何か。それをまず知ってもらおうかナ☆」


 中華服を着こんでいるリャンリャンが指示棒でホワイトボードを指している。


 そのボードには既に色々書かれていて、リャンリャンが乗り気だと一目でわかった。


 場所は学園都市にある修練所。通称トレーニングステーション。一応例外もあるが、現攻略者と学生が使用許可されている施設だ。

 ジムみたいに筋力トレーニングもできるし、体力を付けたいならそれ用の部屋の設けてある。


 そして今みたいに座学ができる部屋もあって、結構便利な施設だ。初めて入ったが、いろんな人がいていい刺激になりそうだ。


 リャンリャンの案内でここに来たが、この仙人は俺以上に学園都市を知っているかもしれない。


「世の中の攻略者には法術以外にも魔術、呪術、妖術、邪術、と色んなすべが確認されてる訳ダ☆」


 指示棒でペシペシと順序良く叩いている。俺の隣で瀬那がノートをとっているし、ボイスレコーダーも準備してるもんだから、真剣そのものだ。

 それに相変わらず丁寧な字だ。俺なんてミミズかってくらい汚いぞ。


「はい師匠!」


「瀬那ちゃん☆」


「その中で一番強いのはどれですか!」


 何だその質問……。俺より頭のいい瀬那なら愚問だと分かるのに。アレか。ノリってやつか。

 一応俺も学ぶ立場でここに居るが、講義中は師匠と呼ばないとリャンリャンが拗ねるとか意味不明すぎる。


「いい質問だネ☆」


 いい質問なんだ……。


「答えはね、全部強い☆」


「おおぉぉ~」


 ……ふざけてんのか? 全然答えになってねー!


「瀬那ちゃんはこう思ったでしょ、もしかして法術って無限の可能性あるかも~! っテ☆」


「はい! 思いました師匠!」


「大哥も思ったでしょ、無限の彼方へさあ行くぞっテ☆」


「いや全然……」


 二人ともテンションが高い。元気いっぱいな感じで瀬那は質問やらしてるし、リャンリャンにいたっては身振り手振り海外のコメディドラマかってくらい動いてる。しかもバズの真似して顎出てるし。


 つか二人とも声デカすぎ……。普通にトレーニングしてる人もいるし、まわりの視線が突き刺さる。


「法術は~~!」


 その場で高速回転するリャンリャン。


「無限の可能性~~!」


 とびっきりの笑顔を俺らに向けた。


「ありませぇえええええん!!」


「えええええええ!!」


「いや無いんかい! 思わせぶりの溜めは何だったんだよ!?」


 この仙人ロボット真面目に教える気が有るのか無いのか……。


 それにしても法術は無限の可能性ないのか。じゃあ他のやつ、魔術やらはあると?


「はい話戻すネ☆」


 手を叩いて仕切り直した。


「法術とは何か。それは神なる存在が創った定義を顕現させる術だヨ☆ まぁ簡単にだけどネ☆」


「神……様……」


 一気にファンダジックになったな。あ、今は現実か。


「神って言ったけど、神としか人は言えないから神って言ったるだけネ☆」


「……ん?」


 つまりどういう事だってばよ。


「さっきも言ったけど、法術は決まった定義しか顕現できない。爆焔符は爆焔以上の事は出来ないって事☆」


「……?」


 何を言ってるんだ? そんなの当たり前じゃないか。


「私がどれだけ強くなれーって気合い入れて爆焔を出しても、絶対に上がらないって事でいい?」


「そうだよ☆」


「あ~」


 そういう事か。


「宿る法力……、まぁ分かりやすくを触媒として定義された物に命令。それが発動すると顕現して事象が発生すル☆」


「命令。急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう……ってこと?」


しー。急急如律令、急いでナウ来いよボケ!! ってこト☆」


 いや口調悪いなオイ。そんな感じのニュアンスか。


「……ん?」


 疑問が浮かぶ。


「リャンリャ――」


「師匠☆」


「し師匠。法術を使うのに気がいるんだろ? じゃあ瀬那は気を使えるのか?」


 気を使えるという事は、ドラゴンボールよろしく舞空術からかめはめ波を使えると同義なのか……。知らんけど。


「ドラゴンボールじゃないヨ☆」


 なぜバレたし。


 瀬那も疑問しかない顔をしている。


「でもねそこ! そこなんだよ大哥!」


 そう言ってホワイトボードの気の文字と図を消していく。


「瀬那ちゃんには法術を使う「気」がありません☆ ではなぜ使えるのか!」


「スキルだから使ってんだろ……?」


「大哥大正解!」


 大正解って……。そのまま現実言っただけじゃん。


「法術には法力。魔術には魔力。呪術には呪力と引き出す力が必ず要るんだけど、みんなが持ってるスキルはそれを度外視して行使できるんダ☆」


 なんとなくそんな気はしていた。世間でもスキルの研究が行われてるし、この辺りの話は深堀しても答えはでないだろう。


「私はネ……腹立たしいヨ……」


「師匠……?」


 リャンリャンの声のトーンが下がり、瀬那が不安がる。隣で俺は真顔で様子を伺うと、リャンリャンの細目がッカ! と見開いた。


「私がどれだけ苦労して法力を習得したと思ってるんだい!! 辛い修行も耐え、下げたくもない頭を下げ、空腹で虫子ちょんず(虫)も食べた! それに――」


 発狂したリャンリャン。身振り手振り地団駄を踏み駄々っ子だ。法力を得たのは仙人になってからなのか前なのか知らないが、りゃんの時に苦汁を飲んだのだろう。


「――それにあの禿げ頭、私が一昼夜地面に額を擦り懇願したのにやっと口を開いたと思ったら、「小僧、お前は髪の毛がある。気に食わん!!」とか言い出して! 知らないヨ! 禿げたの自己ずぅじ(自分)の責任でしょ!」


 発狂が終わったのはそれから数分後だった。


 それから講義が進み、法術の話から魔術等の必要最低限の知識を教わった。


 正直俺の頭ではついて行けず、ムーディ勝山ばりに右から左へ受け流していた。瀬那は凄いよ。ちゃんと理解してる。たぶん。


 気付けば後ろにギャラリーが数名いて、どうもリャンリャン教室を聞いている様子だった。


「あなたの話を鵜吞みにすると、法術は確固たる決められた現象しか顕現できないと?」


「そう☆ 法術は魔術の様に応用力は無いケド、その分強力な現象が沢山存在するヨ☆」


「僕は魔術のスキルを持っています」


「そう☆」


「その話が本当なら、強力さに関しては魔術は法術に劣っていると?」


「ん? 劣ってるなんて言ってないヨ☆ 魔術は行使したい術の理解と魔力量で現象の大小が――」


「そんなの知ってるんですよ! 僕が言いたいのは――」


 トイレから戻ってくるとギャラリーが増え、今メガネをかけた成人男性とリャンリャンが討論してる。どんだけ熱くなるんだよ。……いや、熱くなるほどリャンリャンの弁がギャラリーに響いているのか。


「くわばらくわばら」


 首を突っ込むのは止そう。仙人のリャンリャンに知識で挑むとは……片腹痛し。知らんけど。


 俺が離れるのはくわばらだからだ。決して眠たくなるからじゃない。そう、右から左になるからでは無い。何度も言う。くわばらだからだ。


「♪~~」


 口笛を吹きながら施設内を徘徊する。筋トレしてる人、ストレッチしてる人、瞑想してる人。トレーニングする人もいれば、休憩所で談笑してる人たちもいる。


 この施設はジムみたいな器具が置いてるだけじゃない。一番の売りはここだろう。


「ッフ!」


「ック!」


 剣がぶつかり合い火花を散らし、切磋琢磨する男性が二人。割と広めなボックスの中で模擬戦ができるバトルルームだ。


 施設に足を運んだことの無い俺がなぜバトルルームを知っているか。普通に動画サイトで上がってるからだ。

 俺も攻略者を目指す端くれ、さすがに見たことある。


「うおおお!!」


「まだまだ!!」


 剣が幾度も火花を散らす。二人の力は拮抗している様に見える。壁にもたれかかって観戦しているが、やはり人気なバトルルーム。俺と同じ観戦者が多いこと。


「ッ! そこだ!」


「ック! ぐあ!」


 倒れる。隙を突いた一撃が男性の腹部を捕らえると、薄い膜がガラスの様に粉々に割れ、終了のブザーが鳴り響く。

 まばらな拍手がされ二人の健闘を称える。俺もその中の一人だ。


 汗だくで握手。男の友情を見た気がする。


「……」


 二人は成人男性の攻略者。途中からしか見れてないけど、足さばきから視線のフェイント等を入れていた……と思う。斬り込むのに躊躇は一切ない。自信がある証拠だな。


「俺なら……」


 おっと。場の空気に毒されたかも。ついつい勝利した男性を相手に脳内シミュレーションしてしまった。俺もつくづく何とやらだ。


「おい、あれって」


「ゆう――?」


 微かに聞こえた聞いたことのある名前。腕を組んで目を瞑った俺は、ひたすら聞いていないとしらを切る作戦に出た。


 つかマジでやめて。だって聞こえたのって。


「勇次郎じゃね?」


「泡沫事件の勇次郎だよね」


 目を瞑っててもわかる奇異な視線。ひそひそ話が既にひそひそ話じゃなくなっている。


 俺は願った。ひたすら願った。


 誰も声かけてくんなと。


 俺は静かに帰るんだと。


 だが俺の願いは。


「おい」


 砕かれる。


「デュエルしろよ」


 目を開くと、髪の毛逆立った強そうな兄ちゃんが勝負を挑んできた。


「俺はレアだぞ」


「……」


 とりあえずこの兄ちゃんはメ蟹ックに違いない。絆の力が云々言ってきそうだ。

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