第12話 チュートリアル:ボスク○ボー

「バッシュ!!」


 大吾がクリボーを叩き伏せる。


「爆焔符!!」


 瀬那が空中のモンスターを焦がす。


「ッ」


 俺がオーラ剣で亀のモンスターを斬り倒す。


 目を×にして消えるモンスター。ここの場所は草原だが、進むにつれて丘が険しくなっていった。


「お、イイ感じに落ちてる」


 大吾が落ちている物を拾ってポーチにしまう。それは牙だ。クリボーの牙。


 モンスターを倒すと、一定の確率でアイテムがドロップする。物としては多種多様で、大きい物もあればクリボーの牙みたいな小さい物まである。


 ではドロップしたアイテムはどうするか。用途は人によりけりで、加工して使ったり、観賞用として所持している人もいる。


 人の営みでもちろん世にでるアイテム。非現実的なアイテムもあるので、専門のコレクターもいる程だ。行き過ぎた収集家も居て、裏オークションとかもあるらしいともっぱらの噂だ。すでに社会問題になっている。


 まぁクリボーの牙なんて子供の小遣い程度のお金しか換金できないらしいけど。


「けっこう奥まで来たんじゃね」


「そうねー。モンスターの種類も増えてきたし、そろそろボスなんじゃない?」


 二人の問答を聞きながら足元にあるドロップ品を拾う。この小さな甲羅の破片がお金に変わるなんてな。そらフリーの攻略者がこぞって拾うわ。


 そう思いながら俺はポーチではなく、ジャージのポケットにしまう。


 なぜポーチじゃなくポケットにしまうのか。理由はこれだ。


『スキル:次元ポケット』


『使用者の意思で開閉できる。使用容量:1%』


 帰還後の公園で手に入れたスキルだ。


 レイドボスを世界で初めて倒した時の特典のスペシャルギフト。それが次元ポケットだった。


 メッセージの説明の通り、俺の意思で開閉できる。見た目は電子の穴と言った表現であってるのか分からないけど、基本的にどこでも場所を選ばず展開できる。


 でも次元ポケットなので、俺はポケットに手を忍び込ませて展開している。その方が俺はしっくりきたからだ。


「ソレ、羨ましい限りだぜ萌ちゃん」


「便利そう……つぅか便利でしょ」


「ゲットできてラッキーかな」


 ハハ、と、笑いながら返答した。


 むろんチームの二人にはこのスキルの存在を教えてある。今見たく羨ましがられていて、ちょっとした優越感に浸った。


 まぁでも、アレは流石に言えないかな。……危ないし。


「少し休憩してから進もう。そろそろボスステージのはずだから、油断せず行こうぜ!」


 流れる川。この川の水は飲んでも問題ないと、研究結果で判明している。


 おいしー。と、水を飲んだ瀬那が笑顔で言っているが、まさにその通りだ。凄く澄んでいて飲みやすい。少し冷たい水が火照った体を冷やす。


「よし!」


 大吾が張り切る。俺と瀬那はフォーメーションを維持して大吾について行く。


 険しくなっていく丘。ダンジョンに入って二時間ほど、美しい草原だったのはもう前の事。丘の峰を下り、しだいに森林へと雰囲気が変わって行った。


 そしてたどり着いた門。門と言っても石造りではなく、草のアーチが大きく曲がっており、それが門と言える。明らかに自然にできたものではない。


 俺たちは互いに目を配らせ、うなずき合い、草のアーチを潜った。


 広いフィールドを数歩前へ進むと、奥の草木が僅かに揺らいだ。それを認識すると一気に激しくなり、黒い影が空に飛んだ。


「来るぞ!!」


 大吾の叫びと共に地面を揺らしてドスンと着地したボス。


 大きな顔に大きな足。体色はブラウンだが、頭に大きな王冠を被っている。二頭身だが、俺たちよりも断然に大きい。


 ボスが眉間に皺を寄せた。


「クリグリーー!!」


「キングクリボーだ!!」


 震えて叫ぶキングにシールドを構える大吾。隣で瀬那が符を出して構えている。


 オーラの剣出して身構えていると、キングが仰け反った態勢になる。いったい何を? そう一瞬思っていると、腕がついていないのにかおを振って振りかぶる。


「グリ!」


 キングの腕であろう付近から岩が出現し、ポ~イと音を立てて投げてきた。


 迫る岩。


 大吾がシールドで防いで岩を弾くが、どこか納得がいっていない様子だ。


「爆焔符!」


 瀬那の火球がキングを襲う。


 着弾するが、収まった炎の後ろから元気なキングがこちらを見ていた。


「グリ―!」


 連続で岩を投擲してきた。早くはない速度で迫って来るが、岩なのでまともに貰うと危険だ。


「ッ」


 オーラ剣で岩を粉砕。隣で大吾もシールドで防いでいるが、やはりどこか納得いかない顔だ。


「大吾、どうした」


「情報どおりなら、アイツには弱点の×テープが張られてるはずなんだ」


 ×テープ? 誰でもわかる様にそこが弱点だよと、ゲームの様に分かる感じのか。


「ッそれが!」


 切り株に向けて投げた盾。それが株に当たると回転しながら弾く。


 縦軸に一瞬回るシールド。鏡の様に反射する盾に映るのは、キングの後ろ姿。そして別の株に弾かれ、大吾の腕に戻ってきた。


「背中にも×がついていない!」


「お前スゲーな! こりゃキャプテンだわぁ」


 片眉をクイと得意げにあげる。何げなくやってる技が素直に凄いと思った。


「ちょちょ! いっぱい出てきたんですケドー!」


 瀬那の驚く声に構えると、周りの草木からクリボーやら亀とかがワラワラと歩いて来た。


「グリグリ! グリ!」


 どうやら奮起しているキングが呼び出しているのだろう。


「こんなに出てくるなんて聞いてない! あんた嘘ついたでしょ!」


「チームなんだから嘘なんてつくか! 今回のキングは虫の居所が悪いらしい!」


 二人の額にジワリと汗が滲み出ている。


「喧嘩してる場合じゃないぞ!」


 俺の叫びで我に返る二人。とにかく今はモンスターを倒すしかない。


「瀬那は範囲攻撃で頼む!」


「うんわかった!」


 手に持つのは複数の符。


「大吾はモンスターから瀬那を守れ! 男見せろよ!」


「あいよ!!」


 シールドをもう片方の腕にも出現させ、二つの盾を激しくぶつけ合う。


はじめはどうする!」


「俺か?」


 脚にオーラを纏わせ。


「もちろん、蹴散らしてくる!!」


 踏みしめ蹴った地面が砕かれる。オーラの剣の出力を上げ、剣先が長くなった。


「オラァ!」


 横一線。一薙ぎで複数体にダメージを負わせ、目を×にして倒れた。


 一薙ぎ。


 二薙ぎ。


 三薙ぎ。


 地面を踏みしめる度、風を頬に感じる度、景色が流れる度、モンスターを文字通り蹴散らしていく。


「すっご……。かっこいい……」


「ッ! 何呆けてんだ! 羽生えた亀が来るぞ!」


 横目で見ると二人から離れてしまったが、大吾はしっかり盾役をしているようだ。


「混撃! 爆焔雷符ばくえんらいふ!!」


 吹きかけられた符だから火球と雷が混ざり合いながら発射された。


 飛ぶ亀たちに着弾する法術。燃やされ、撃たれ吹き飛ぶと、


「クエ~」


 と言って光になった。


「俺も負けてられないや!」


 走りに急ブレーキをかけてキングと対峙する。


「グリー!」


 俺を睨みつけるキング。明確な敵意が瞳に宿っている。


「行くぞクリボー!」


 3、4メーター程の迫力ある巨体に、思わずにやけてしまう。


 素早く走って斬り掛かる。


 一閃。


 通り過ぎ間に攻撃を当てるが、体をビクつかせリアクションするだけで、どうも効果が薄い。


 一瞬、アンブレイカブルの物理無効が脳裏に過るが、その心配はないとほくそ笑む。


「グリグリッ!」


 俺に岩の連続投擲をするキング。それをオーラ剣で斬り砕き、隙を見て攻撃を仕掛けた。


 縦に横にと攻撃するが、オーバーなリアクションをするだけでやはり効果は薄い。どうしたものかと考えていると、ふと、リアクションと一緒に荒ぶる王冠を見た。いや、正確には王冠の下だ。


「そこかぁ!」


 荒ぶる王冠から見えた隙間。垣間見たのはちょうど頭のてっぺんに×マークがあった。


 オーラで強化した跳躍なら頭に辿りつけるだろう。たかが数メートルだ。だが俺は渋った。ゲーマーな俺は渋った。


「グリッグリッ!」


 キングは今、俺をターゲットにしている。王冠に近づけば、必ず阻止するために何らかのアクションをするだろう。

 何の確証も無いが、そう思える。


 だったら、今思いつく方法で倒してみるか。


「大吾!」


「ッ!?」


 モンスターを跳ね返す大吾が俺を見る。すかさずキングを親指で指し、そして上へと指さした。


 一秒もない大吾の硬直。すぐににやけた顔になり、自分の胸に親指を指した。


 駆けだす俺。瀬那が雷でモンスターを薙ぎ払い、道を作ってくれた。


 シールドを構える。


「オラァ!」


 片方のシールドを上へと投げる大吾。すぐさま姿勢を低くして身構えた。


 迫る。


「シールドォオオオ! バッシュッッ!!」


 盾に足を乗せた俺を上へと強く弾いた。


 飛ばされる。


 脚に纏うオーラ。


 宙に待ち構える回転するシールド。


「ッフ!」


 投げつけるオーラ剣。


「グリ!?」


 眼前の地面に突き刺された剣に驚愕するキング。目が離せない。


「――」


 盾を足場として蹴り、オーラを拳に纏わせた。


 狙いはただ一点。


「うおおおおお!!」


 王冠の中心に着弾し、ねじ込む様に打ち込む。


 変化は直ぐにあった。


「グリ~! グリ~!! グリ~~~!!」


 潰れたマシュマロの様に縮まるキング。すぐにバネの様にあちこち跳ねると、目を×にして何処か空の彼方へと飛んで行った。


 着地した地面から立ち上がる。どうやら他のモンスターも同時に消えたようだ。


 目を合わす俺たちチーム。二人は息も絶え絶えといったところだが、総じて微笑み、達成感をかみしめているようだ。


「お!」


 空から落ちてきた人間サイズの小さな王冠。それが瀬那の頭にコテンとはまりこんだ。


『チュートリアル:ダンジョンをクリアしよう』


『チュートリアルクリア』


『クリア報酬:運+』


「ッハハ、じゃあ……帰ろうか」


 出現した帰路へと続くゲートに、俺たちは歩みを進めた。

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