第11話 チュートリアル:ダンジョン

「こいつが入口か」


 学園都市の海岸方面に位置するここは、攻略施設。俗にいう、ダンジョンの管理……違うな。厳密にはダンジョンの入り口を管理する建物だ。


 いわゆる初心者ダンジョンだが、難易度が緩く、一般人でも踏破可能。そして攻略してもゲートが消滅する事も無い。この消滅しない理由も調査対象になっているが、このシステムをいい事に国連は利用している。


 国連に所属する大国の学園都市や、ここ日本の学園都市も、この初心者ダンジョンが存在するからこそ、ここに学園都市を築いたと言っても過言ではない。


「……」


 楕円形のゲート。俺が入ったダンジョンの入り口と変わらない印象を受ける。もしかすると、他のゲートの入り口も、きっと同じなのかも。


「そう心配すんなって。出てきたら三か月後とかならんから」


「流石にわかってるわ。このダンジョンの攻略時間は、平均三時間なんだろ?」


「まぁみんな大きな怪我無く帰って来てたから、本当にそれくらいかもね」


 別に心配はしていない。チームで攻略するし、事前情報である程度は把握している。


 それに。


『チュートリアル:ダンジョンをクリアしよう』


『始まりの丘 グリーングリーン』


 始まりの丘って言うゲーム序盤さながらなダンジョン名。もはやここまでくると安心しかない。


「始まりの丘。簡単らしいが、油断せずに行こう」


「出鼻挫かれたらカッコ悪いし」


 ポーチを腰に巻き、指定のジャージに着替えてきた二人。難易度の低いダンジョンだからと言って、制服がダメになるかもだしな。まぁ学校に申請すればすぐ貰えるけども。


「よし、行こう」


 大吾、瀬那の頷き。それぞれの顔を見合うと、大吾が確かな足取りでゲートに入る。続く瀬那。ちらりと俺を見てから入った。


 そして俺も、後を追う様にゲートへと脚を運んだ。



 一瞬濡れた様な感覚。白い靄が視界を覆うが、数歩先に進むと視界が晴れていった。そして感じた。ダンジョンは別世界だと。


「……風だ」


 頬を優しく撫でる少し冷たい風。心地よさを感じながら、目の前の自然に感動する。


「わーーおぉぉ」


 優しい風になびく草むら。遠くの方を見ると、草むらのなびきが綺麗な絨毯を思わせる。


 青い空。のんびりと雲が泳いでいて、胸いっぱいに深呼吸してしまいそうになる。つかした。


 所々に存在する低い丘。今立っているここも数ある丘の一つだろう。人の手が付いていない自然、ここがダンジョンだと言う事が忘れそうな程、清々しく、綺麗だ。


「ん~! 空気が美味しい~!」


「へっへへ。情報通りだな!」


 三者三様の反応。瀬那は空を仰ぐように深呼吸し、大吾は辺りを見回し口を吊り上げている。


「さっそく進もうぜ。道は追い風が示してる」


 可視化した風のエフェクト、まるでゲームみたいな印象を受ける。


 大吾が先導する。前方に大吾、後ろに俺と瀬那が横並びで歩き、フォーメーションをとって進んでい行く。


「マジでいい所じゃん。ピクニックしたい気分」


 気分が良いのか、瀬那は笑顔だ。


「ピクニックってお前、かわいい女子か」


「はあ!? アタシが可愛くないっての!?」


 そう言えば、こういった二人のやり取りを見た事がない。ここはツッコまず様子を見よう。


「はっはー冗談はその品のない乳だけにしてくれ。俺はおしとやかで清楚な乳が好きなんだー」


「聞いてないよあんたの性癖! キモ! セクハラしてくんな変態!」


 半目でからかう大吾に自分を庇う仕草の瀬那。


 ダンジョンの中だというのに、緊張感を感じない。……いや、これくらいリラックスしている方がいいのかもしれない。


 と、仲がいいやり取りを見ていると。


「前方にモンスター」


 俺の声に身構える大吾と息をのむ瀬那。


 のしのしと陽気に歩いて来るモンスター。こちらに気づくと、小走りで襲ってきた。


 体色はブラウンで足は濃いブラウン。濃い眉毛と口から二つの牙が剝き出ている。そして二頭身な体型。


 コミカルな容姿のモンスターに、俺は既視感を禁じ得ない。ゲーマーな俺は既視感を禁じ得ない。だってそれは!


「ク○ボーじゃん!?」


「クリクリー!」


 しかもなんか言ってるし! そのセリフは同じクリボーでもカードの方のクリボーだろ!


 内心ツッコんでいると。


「あいつは踏んでも倒せねーぞ!」


 前に出る大吾。


「バウンド・シールド!!」


 大吾の発声と共に、右腕に円型の盾が光を発して現れる。


 構える大吾。


「クリクリー!」


 突進してくるクリボー。眉を吊り上げ大吾を襲う。


「シールドバッシュ!!」


 突進に合わせたシールドのカウンター。バンパーが弾いた様な音をたて、クリボーが目を×にして吹き飛び、光になって消えた。


「本当に目が×だ……」


 俺が驚愕していると、横の草むらからも三体飛びだしてきた。


「くらえ!!」


 シールドを円盤の様に投げた大吾。モンスターに当たると、ピンボールの様にシールドが弾き、瞬く間に光に変え、最後には腕に戻ってきた。


「まだ来るよ!」


 続くモンスター。今度は五体と団体でのお出ましだ。


「ッム!」


 瀬那が前に手をかざすと指の隙間に光が集まり、薄い赤色の符が形作られた。


如意爆焔符にょいばくえんふ!!」


 符に息を吹きかけると、符から火球がいくつも飛び出し、クリボーを襲った。


「クリ~」


 火球に襲われるモンスターの群れ。炎が収まると、焦げたクリボーが目を×にして光に消える。


「……」


 とりあえずは倒しきったようだ。


「どんなもんよ! これが私の実力ってわけ!」


 俺に向けてピースし、笑顔を振りまく。


「凄いじゃん二人とも。臆せず攻めれるなんて凄いや」


 多少の気後れがあると思ったけど、二人とも果敢に動いていて関心した。上から目線な感想だったけれども、前の俺なら脚が震えていたかもしれないし。


「まぁあ? アメリカのキャプテン気取ってる大吾よりかはアタシ強いしー。チームのナンバー2って事で!」


 このチームに順列なんてあったのか……。


「は? 気取ってねーよ俺がキャプテンアメリカだ! いいか瀬那お乳、そもそも得意分野が違うんだよ」


「……」


 瀬那の額に青筋が浮き出ているが、一応冷静を装って静観している。


「キャプテンな俺は接近戦。一対一のタイマンが得意なんだ。正直、タイマンなら萌ちゃんにも勝てる自信がある」


 そ、そうスか。


「でだ瀬那お乳瀬那お乳は中距離から遠距離が得意な武器だ。あーなんて言ったっけ?」


「法術」


「そう法術。瀬那お乳は近寄られるのが苦手で、俺は遠のかれるとキツイ。だからお互いの苦手を補って、協力して行く。これがRPGの基本。ドゥーユーアンダースタン?」


 半目でにやけてる大吾は正直うざい。この顔の大吾はマジでうざい。からかわれてるお乳ん゛ん゛、瀬那は今にも爆発しそうだ。


「って事で、俺がナンバー2な」


「はあ? なんで租チンな大吾がナンバー2なの!? どう見てもアタシの方が活躍したじゃん!」


 俺は二人とも同じくらい活躍したと思う。つか租チンて……。男の胸にぐさりと来る……。


「おいおいおい、デカいのは態度じゃなく乳だけにしとけってぇ」


「さっきから乳乳うるさいって租チンやろう……!」


 ヒートアップしたら止めよう。これ以上ヒートアップしたら止めよう。


「見ても無いのにその言いぐさぁ。撤回しなよ。さもないとクリボーと間違えてそのお乳をバッシュしちゃうかもよぉ~」


「やってみるぅ……?。その時は丸焼きだからねぇ~!」


 青筋を立てた二人の間に激しいメンチがバチバチと切られている。そう錯覚するほどにブチギレている。


「二人ともそこまでッ」


 この場を収める様声をかけたが、後ろに隠れていたクリボーが対立する二人に襲いかかった。


 気づかない二人。


 「――」


 考えるより先に体が動いた。


 二人の間をスライディングで滑り抜ける。腕で体を持ち上げ、広げた足技でモンスターを攻撃。


「ク――」


 蹴りを受けたクリボーが目を×にして勢いよく吹き飛ぶ。もはや悲鳴すら遠のいて向こうの方で光となって消えた。


「っと。大丈夫、二人とも」


 腕の力だけでジャンプして着地。態勢を立て直した。


 あっけにとられた二人の顔。


「あの、タイマンなら勝てるとか調子こいて、すみませんでした」


もえ。アンタがナンバー1よ……」


 そ、そうスか。


「とりあえず、進もっか」


 どこかぎこちない空気間で進んでいく。

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