第10話 チュートリアル:チーム

「ふぁ~あ」


 大きな欠伸が出たわ。朝からいつものチュートリアルをこなして、やっとこさ登校。


 予定されていた検査やら戦闘試験やらが終わって、今日からみんなと混じって授業を受ける事になる。


 ここの授業方針は、攻略者の育成に重きを得て居るけど、普通の高校の授業だって当たり前にする。


 俺は学び場に通う事を決めたけど、学園の方針の一つとして、攻略者育成限定の道もあった。


 主に成人の覚醒者が選ぶ道。一応、義務教育を終えている十五歳以上は、高校生みたくの授業を受ける必要は強制ではない。


 攻略者育成限定は、初っ端から実戦方式。ある程度の訓練を受け、一足先に本格的なダンジョンへと潜り、攻略していく。


 世間の目はその育成方針に白い眼を向けるが、現実はその育成方針の道に行くのが後を絶たない。


 比率で言うと、いかにも優等生で無い、いわゆる不良たちが多いが、中にも真剣に攻略していくものもいる。

 政府としては、ダンジョンの謎を早く解いてくれた方が都合がいい……らしい。


 ちなみに、学園には指定の制服があるが、必ず着用しなくてもよいとなっている。これも時代の流れなのか、俺はその恩恵を大いに使って、指定のジャージで登校している。だって動きやすいし。


「……」


 なんだろ。妙に周りから視線を感じるのは気のせいだろうか。ジャージで登校している生徒なんて、別に珍しくもないだろうに。


 廊下を歩いているが、やはり視線を感じる。って言うか、完全に俺を見ている。なんなのいったい。


 そう思いながら教室がある角を曲がると、入口が人でごった返しになっていた。


「あ! いたぞ!」


「え?」


 その言葉で群がる人が一斉に俺を見た。そして大群で迫りくると、口を揃えて言ってきた。


「花房くん! 俺らとチーム組んでくれ!」


「俺たちのチームはいい所だぞ! こっちに来てくれ!」


「私のチームに入って! 後悔させないから!」


 俺は訳も分からず、まるで記者に囲まれる政治家の気分を味わった。


「ちょ、なになに!?」


 チームに入ってくれって、それスカウトですか? 間違いなくスカウトじゃん。でもこれは……。


「おい、じゃまだどけよ!」


「こっちが先だっつーの!」


「レディーファースト! レディーファースト!」


 なんで俺が朝からもみくちゃにされなきゃならん。


「あの、教室に入りたいんだが……」


「先に目を付けてたのは俺らのチームだ!」


「あんたらのチームは既に四人じゃないのよ!」


「花房くんカモ―ン!」


 アカン。誰も聞いてくれへん……。っと、思わず関西弁になってしまった。


「よっとぉ」


 人ごみを掻き分けて俺の肩に腕を回す人物がいた。


「悪いね君たち」


 梶 大吾だ。


「うちのもえちゃんは、既にこっちのメンバーなのさぁ」


 わざとらしくからかう様に、しかも俺の顎周りを摩りながらそう宣言した。


 俺と大吾が親しい間柄と伝えても、周りは諦めきれないでいる。今にも声をあげようとしていると、大吾が遮った。


「課題の一つ、学園が管理している初心者ダンジョン。攻略者を目指すには、まず必ずそこをクリアしなきゃならない」


 半目でわざと大きな声で言う。


「でも既にクリアしてる君たちと違って、俺たちのチームは誰もクリアしていない。なぜ? 簡単なのになぜクリアしないの?」


 まわりの心情を言ったのか。


「理由は簡単。俺たちは萌ちゃんの帰還を信じて待ってたわけだ。あんたら見たく即戦力が欲しいって邪な考えじゃないんだよ!」


 さあ帰った帰った! と手を払って梅雨払いさせる。図星を突かれた記者たち(生徒)はずるずると解散していった。


「ふぅ」


 息をつく大吾。


「ありがとな、大吾」


 素直な俺の気持ちだった。いきなりで訳も分からんし、混乱の中、大吾は助けてくれた。元々大吾と朝比奈さんとチームを組む予定だったが、大吾が声を大にして言ってくれた。それが妙に、嬉しかった。


「え? 萌ちゃんが顔を赤らめてお礼を……!? すまない、ホモは帰ってくれないか」


「……」


 抜けよかな、チーム……。


「ってか何でスカウトされたん俺?」


 席に座って腰を落ち着かせた。


「知らないの?」


 朝比奈さんがタブレットを持って顔を出してきた。


「あ、おはようございます」


「おはようございます。はい」


 挨拶をしてからタブレットの動画を再生させた。


 そこに映っていたのは誰が撮ったのか、昨日のテストの光景が動画サイトにアップされていた。激しい戦闘、周りの歓声。そして先生を倒し、起き上がった先生から終了を貰ったシーンまで映されていた。


「あーあ。こりゃ周りが黙ってねーわ」


「俺みたいなやつなんていくらでも居るだろ」


「いないからあんな事になったんでしょ!」


 お、おう。と、朝比奈さんのツッコミにたじろしてしまう。


「肩を持つ訳じゃないけど、阿久津先生は相当の実力者だ。手加減しているとはいえ、先生を倒しちゃうってのは今のところ萌ちゃんだけよ」


「そ、そうなんだ」


「つかもえ強すぎ? アタシこんな避け方、映画のマトリクスしか見た事ないんだけど……」


 仕方がないとは思う。こっちも必死だったし、あの避け方が次の攻撃へと繋げれた。結果は万々歳だ。


「いろいろと聞きたいことはあるが、俺たちの目先の目標はダンジョンの攻略だ。幸い、今日は十五時で授業が終わるし、手続きは既に済んであるから」


 拳を出す大吾。


「さっそく今日、チームでダンジョン攻略しようぜ!」


 ニヤつく大吾。


「当然アタシは行く。やっとだわーて感じだし!」


 拳を合わせる朝比奈さん。


 ……なるほどね。


「待たせてごめん。それじゃあ、チームの第一歩だ!」


 俺も二人の拳と合わせ、団結を結んだ。


 すこしありきたりでクサイが、こういった行為も必要だと思った。


「あーえーと萌」


「?」


 拳を離すと、朝比奈さんが頬を掻きながら呼んできた。


「せっかくのチームだし、朝比奈じゃなくてぇ、その、名前で呼んでくれてもぉ……よかったり……」


 チラチラと俺の様子を伺うが目が泳いでいる。黒ギャルパリピの朝比奈さんにしてはどうにも歯切りが悪い。


「えっと、名前だから、瀬那さんでいいかな?」


「さ、さんもいらない」


 目を合わせてくれない。俺みたいなゲーマーにも普通に接してくれてるから、オープンなギャルかなと思ったけど……。あの映像の俺、動きキモかったからなぁ。


 よし。じゃあキモイ感じで行こう。


「ん゛ん゛ん。……瀬那」


「!」


 低い声で呼ぶ。


「瀬那……」


「!!」


 決め声で、できるだけ艶っぽく、そして儚さを醸し出して(俺なりに)キモく言った。


 これで嫌われたら知らん。土下座するしかない。


「瀬那――」


「ッ」


 しまった、調子に乗りすぎた、と、後ろを向いて震える朝比奈さんを見て瞬間的に思った。


「あ!」


 そそくさと自分の席に戻って机にうずくまる朝比奈さん。


 マジで土下座かもしれない。


「っぷ!」


「!?」


「プハハハハハ! キッッッモオオオオオ!! アッハハハ!!」


「笑い過ぎだろ大吾!」


 こうなった大吾はうざい。


「せなぁ、せなぁ、って! 思いのほかッいい声でッヤバいぃぃぃ! ヒッハハハハ!!」


「恥ずかしいからやめろ!!」


 大吾の爆笑、朝比奈さんの悶え、クラスメイトの微笑も相まって、俺は二度とやらないと心に誓った。

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