第43話 ゴブリン迎撃戦準備

 『サイラスの剣』と分かれて反転し私は歩く。

 10m…20m…30m…よし、そろそろ私の索敵範囲からも外れるな。


 ふぅ〜、なんとか自然に別行動できたよ!

 いい人達だったからただ私が特攻かましますとかじゃ納得してくれなかっただろうし、いい感じで切り抜けられてよかった!


 私のクリッカースキルは多分最強だ。

 筋力と魔力を掛け合わせるというバグったダメージ計算な上にHPに直接ダメージを与えるという防御貫通性能があるため、当てられさえすれば現時点でもかなりの格上に下剋上を果たせるだろう。


 そう、「当てられさえすれば」ね。

 今の私の最大の弱点は“私自身”なのだ。


 ゴブリンの大波を突っ切る時も私は早歩きだった。

 何故なら走ると転ぶから。

 なお早歩きでも『サイラスの剣』より早い。その異常さは彼らが私の単独行動を許す決断にも影響していたはずだ。

 事実を知ればかえって却下されそうだけど結果よければすべてよしだね!


 つい昨日まで人類最弱レベルだった私は、未だに超人と化した今の私の体を制御しきれていない。


 普通こういう大襲撃イベントは泥臭いトレーニングで跳ね上がった身体能力を把握してからでしょ!?

 生まれ変わって1日目ってくらいの私には戦いながら動き回るなんて無理なんだよ!!



 恐らく当面の戦術は棒立ちから迫る敵をひたすらクリックしていく捨て身のスタイルになるだろう。

 まぁステータスが上がっているので弾丸ツアー中の普通なら大怪我必死な激しい墜落でもほぼ無傷で済んだし、ゴブリンの攻撃ではダメージをほとんど受けないだろうと思う。


 それでも、『装備』を持った個体からの攻撃は危険なはずだ。

 回復さえできれば何とかなると思いたいので、注意しながら戦わなければいけない。



 そんな単身でも危険な中で、もしヘイトが分散したら?

 とてもじゃないがまともに戦えないだろう。


 今の【破壊の指先デストロイ・フィンガー】の射程は2mだ。

 その範囲内に敵がいなければ私が動かなければいけない。

 運動能力に問題がある私が動くのは明確な隙になるだろうし、その上味方を守りながらなんて言われた日には無理ゲーと言って試合放棄せねばならないだろう。


 つまりこのゲリラ戦は「私一人でもなんとかなる」ではなく、「私一人でないといけなかった」のだ。



 それにクリッカースキルそのものも問題だ。

 このスキルは強い、強すぎる。


 ただ指を差し、指先を動かしだけで対象が消滅する。

 それだけ。それだけで命を奪えてしまうのだ。


 もしこのスキルが露見した場合、確実に私は大きな行動制限を受けてしまう。


 常識的に考えて、指で指すだけで人を殺せる人間の正面の立ちたいと思うだろうか?

 思うわけないんだよなぁー。


 銃を常に手に持ち銃口を容易く人に向ける奴がいたとしたら、たとえそいつが温厚で優しいと分かっていても警戒してしまうだろう。

 冒険者がいるなら街中で凶器を持ち歩く人も多いはずだが、手で武器を持ち、抜剣し、振りかぶるといういくつものステップを踏まなければそれは人に害をなさない。


 だからこそ先に剣を抜くという言葉にマイナスの側面があるのだ。

 攻撃する意思を見せる、それだけで人間関係はおろか社会的地位まで大きく損なわれる。


 だというのに、クリッカースキルは非常にトリガーが緩い。

 指で差指してつんつんする。

 たったそれだけで必殺の攻撃ができてしまうのだ。


 うん、危険人物確定だね。

 このスキルが周知された日には、私の一挙手一投足が注視され、その行動全てが他人を威圧しかねない。


 動くたびにビクつかれる異世界生活なんて私は嫌だね!


 というわけで、ヘイト管理とクリック解禁のためにも私が単独行動するのは必須条件だったわけだ。

 ちなみに魔術は補助で使うけれどメインウェポンにはならない。


 さっきの襲撃だけでも数千匹のゴブリンがいたはずだ。

 先遣隊でそれなら想定される敵の量はあまりに膨大で、魔術で戦うには流石にMPが足りないからね。




「よし! じゃあ陣地構築!」


 状況の把握と戦術の確認ができた私はさっそく決戦のバトルフィールドを作っていく。


「むむむ…『創造クリエイト』フラットグラウンド!! 『創造クリエイト』ゴールウォール!!」


 MPを練りゴゴゴという地響きと共に作り出したのは平な地面とサッカーゴールのような形の壁だ。

 一人で戦う以上死角は多い。

 それを補うため正面以外を強固な壁で塞いだのだ。


 本当は狙ってくる飛び道具の射角を制限もしたいので洞窟のように奥行きも持たせたいのだけど、スタンピードを引きつける以上は敵が私に喰いつかないといけないため私という賞品が見えやすいようにした。

 飛び道具は気合でなんとかしよう。



「『創造クリエイト』ストーンフェンス!」


 さらに正面方向の離れた位置に柵を3列ほど、直進を妨げるようにジグザグと生成。

 これは迫る敵の勢いを削ぐためのもので、棘などはつけていない。


 スタンピードのような密度の敵集団相手なら棘付きフェンスに押し合い刺さってくれるはずだが、ここは「クリックでHPを削らないと存在因子リソース吸収率が大幅に下がる」というクリッカースキルの仕様のために泣く泣くただの柵にしておく。


 危険はあるけどここは絶好のレベリング機会だからね、1ゴブリンすら無駄にはできないよ。



 あとは『サイラスの剣』と出会ってクリックを封印してからもひっそりこつこつと【モラトリアム】くんが稼いでくれていた存在因子リソースを割り振って準備完了!



「来いよゴブリンども! 武器なんて捨ててかかってこい!!」



 さぁ準備はできた! 1匹残らず経験値に変えてあげるよ!!

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