第41話 ゴブリンスタンピード
「ごっごごごごごごゴブリーーーーン!!! 大量のゴブリンに囲まれてます!!!! 起きて!!!! 起きてーーーー!!!!」
びっくりし過ぎて大声で叫んだ。
「えっゴブリン!? 囲まれてるの!? ちょっとグリン! ハンス!! 早く起きて!! アイシアを守って!!」
お陰でみんなびっくりだ。しまったな、落ち着いて情報共有してから先手を取ったほうがよかったかも、と叫んでちょっと冷静になった頭で後悔するけどもう遅い。
徐々に方位を狭めるように蠢いていたゴブリンの気配は一気に動き出して私達を圧殺しようとしている。
ちなみにアイシアさんはまだ昏倒していてテントで横になっている。寝ていた二人が側にいるので彼らが起きればまだ安全だ。
「わっ! なんか飛んできてる!」
暗闇から矢や石、その他その辺で手に入る諸々が四方八方から投げつけられているようだ。
「気をつけて! 石でもたまに当たると痛いのあるから!」
なるほど、やっぱり『
ステータス的には取るに足らないゴブリンだけど、『
「ゴブリンか、大量とはどのくらいだ?」
グリンさんが装備を整えて合流してきたようだ。
さっきまで寝ていたのに目がしゃっきりしてて飛んでくる諸々を切り払っているのは流石冒険者。
「とにかくいっぱいです! 少なくても見えてない範囲から30m先まで全方向隙間が無いくらいびっしりいます!」
「そんなに!? それは不味いわよ!!」
たしかに不味いね。
昼間のゴブリンですらこの2割にも満たないのに『サイラスの剣』は壊滅しかけていたからね。
まぁ最初は強いユニークモンスターがいたらしいから、同じとは限らないけれど……。
でもステータスの優位が下がる『
「包囲の薄いところ……いや、その量では期待できないか。とにかく浅部へ向かって道を切り開くぞ!
アイシアは俺が抱えていく! 持てる荷物だけすぐに持って東へ突撃だ!!」
「了解だぜリーダー!!」
「わかったわ!」
「わかりました!」
即座に方針を決めてルートを定めた私たちは持てるものだけ持って会敵を前に走り出した。
グリンさんは素早くテントに戻りアイシアさんを背負いながら、背嚢から取り出したランタンに火を灯す。
「光源なら任せてください! むむむむ! 『ライトオブジェクト』!!」
私の周囲を漂う人魂サイズのホタルの魔術を即席で創り出す。
「いいぞミヤコ!」
一瞬で周囲が照らされ、迫ってきていたゴブリンの波があらわになった。
おぉう、これは多いな。実際に見ると凄まじい。
元の世界なら混んでる時の都会のスクランブル交差点くらいゴブリンが殺到している。
「ゲギョギョ!?!」
闇に慣れていたゴブリンたちの目は突如顕れた強い光で潰され姿勢を崩し、勢いのまま後ろから押された最前列が崩壊した。
しかしその倒れたゴブリンを踏み潰して後方から次々にゴブリンが迫ってきている姿はまさに”
「グリンさん! これってスタンピードってやつじゃないですか!?」
「俺たちは元々その調査の依頼で来てたんだが、これはもう始まっているな! 速やかに帰還し報告しなければリーメイが呑まれる!!」
ああー、これは私へのペナルティじゃなかったのね、そこだけはよかったね! よくないけどねチクショウ!!
「接敵するぞ!! 気張っていけ!!」
グリンさんが大きな盾を突き出し、剣を深く構えながら鼓舞の声を上げる。
「リーダー! こんな武勇伝は安酒じゃ語れねぇぞ! 街に帰ったらリングデンの酒を奢れよ!」
ハンスさんがなんか死亡フラグ立ててる!? やめろやめろ!
「あーもう! なにこの量は! 矢が足りないわよ!」
ケイさんは敵が見えると同時に最初に番えていた矢を射ってから、すぐさま弓を肩に掛け短剣を取り出していた。
今視界内にいる分だけでも数十体、下手したら数百体いるからね、たしかに弓矢じゃ対応しきれなさそうだ。
そして仲間の死体を踏み越えてきた第一陣がグリンさんに飛び掛か――って盾でぶっ飛ばされた!
「うおぉぉぉ!!」
そのまま大振りな盾で津波のように押し寄せるゴブリンを押し返し続け、ずんずんと突き進んで空間を作っていく。
背中に気絶した人を背負ってるっていうのに、人間辞めてるよこの人! 私も辞めてる自覚あるけど端から見るとこんな人間離れした感じなのか……。
「ヒュー! やるねぇ! 背中は任せろよ!!」
「私たちだって中堅なのよ! ゴブリンなんかに負けないわ!」
モーゼの海割りのように拓いた道にゴブリンが入り込んでこようとするのを、ハンスさんとケイさんとが見事な短剣捌きで斬り伏せていく。
止まることなく次々と流れるように始末していく姿は美しさすら感じるほどだ。
これが本物の冒険者か……この絶望的な状況でも輝き続ける力強さに、私は憧憬を抱いた。
私もこうなりたいな……そのためには生き延びてやらないとね!
パーティ経験が皆無な私は
「グリンさん! 森って焼いていいですか!?」
横や背後からもゴブリンが溢れているので、もう正面以外焼き尽くしたい!
「いい……が加減はしろよ! 本来はタブーだからな!」
やったぜ! 延焼の危険がーとか言われるかと思ったよ!
「わかりました! 範囲魔術を使うので一応気をつけてください!!」
「俺らぁ自分でなんとかすっからぶちかましてやれミヤコ!!」
「焼けるの!? 魔境の木って火に強いんじゃ!?」
あらそうなの? じゃあ気にせず焼いちゃえ!!
「馬鹿!! ミヤコだぞ!! 万が一延焼する威力だったらあああああああ!!!」
「『ファイアーウォール』!! 『ウィンドオーラ』!!」
強めの魔力を込めて突き進む方向以外の三面を覆うように火の壁を打ち立てる。ゴブリンは背が低いので高さは3mあれば十分でしょ。あと回り込まれないよう側面も伸ばしておこっと。
『
そして私たちの周囲には熱、もといそれを伝播させる空気を遮断するドーム状の風の膜を貼る。不快だったゴブリン臭も若干マシになったのがありがたい。
「グリンさんを中心に熱を遮断しています! 離れすぎないように!」
「わかった! しかし大惨事が見えるんだが!?」
ああー、言わないで。見ないようにしてるのに。
炎の壁は見事に前方以外のゴブリンを抹殺していた。その証拠に今ゴブリンが襲ってきているのは撤退ルート方面だけだ。
ただその3mの壁の上から覗く木々がやばかった。
燃えにくいって聞いてたのに、もはや葉の代わりに炎が生えた品種かな? ってくらい盛大に燃えていた。控えめに言って地獄みたいな光景だ。
『ファイアーウォール』に接してない木も燃えているようにみえるけれど気のせいだよきっと。
とにかくこれで撤退という名の進撃は大幅に楽になった。
しかし二つの魔術合わせてMP消費は400ほど。起こした結果に対してかなりお得感はあるけれど、今回は撃ち切り型で出した『ファイアーウォール』に対して『ウィンドオーラ』は持続型なので維持コストも考えるとあと二発に抑えたい。
スタンピードという何が起こるかわからない状況、想定外に備えて半分はMPを残しておきたいのだ。
「グリンさん! あと二回までなら同じことをできます!」
「承知した! 詰まったところで頼む!」
「はい!」
進んだ距離は50mも届かないが、奥の手を出さずにまずは序盤を切り抜けられた。
このまま絶対に生き延びてやるんだから!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます