第40話 罪名:私なんかやっちゃいました

「今日はここで野営をしよう」


 昼食後、逃げるように移動を開始してから数時間が経った。

 体感的には弾丸ツアー時の飛翔2、3回分くらいの距離な気がするから思ったより進まなかったけれど、ルートを警戒しながら整地されてない森を歩くというのはとても大変だから仕方ないね。

 見えない草木や凸凹で足を取られたり滑らせたり、先を見通せない地形というのは慣れてない私にはとても厄介だった。


「ミヤコ、野営は早めに始めるのがコツよ。ギリギリまで移動してると暗くなってから場所を探すことになるかもしれないし、野営の準備も時間が掛かるからね」


「わかりました、覚えておきます!」


 やっぱり野営一つでもコツがたくさんあるんだろうなぁ。万が一の時に備えてちゃんと覚えていかなくちゃ。



「ここからだとリーメイまではあと2日ってところだ。明日には魔境の浅部に入るから、今日ほど警戒は必要なくなるぜ」


「まぁ、だからといって気を抜くと命を失う。魔境とはそういう場所だからな。明日も気をつけて移動してくれ」


「はい!」


 舐めて掛かればすぐに死ぬ。ゲームでも現実でも一緒だね。

 私は死にたくないので舐めプはしないよ。




「夜番は俺とハンス、ケイとミヤコでいこう。女性同士の方が気が休まるだろうしな。

 先にケイとミヤコが見張り、月が登りきったら交代でいいか?」


「ありがとうございます、それで大丈夫です。夜番って一人でするものじゃないんですね」


「ああ、ミヤコは経験がないか。パーティで夜番をするなら二人以上が推奨されるから覚えておくといい」


 WEB小説だと一人ごとに交代するのが多かったけど、そういうものなんか。


「警戒しながら夜を一人で過ごすってのはすげぇ神経削るんだよ。小さな木々の擦れ、小動物の蠢き、虫の囁き。

 そんな当たり前のもんでも全部怪しく聞こえちまう。後で休めるにしてもストレスはバカにならねぇ。

 兵士とかは翌日しっかり休日を割り当てられてるし緊張感が保てていいからって一人でやらされてる事が多いが、俺としてはありゃ金とかの問題だと思うぜ」


「それに一人だと敵の奇襲を受けやすいのよね。死角はあるし先手も取られる。万が一奇襲が成功して一撃で行動不能にされちゃったら全員そのまま寝込みを襲われるのよ。

 二人いれば奇襲の成功率はぐっと下がるし、失敗の危険を考えて敵も慎重にもなるわ。

 それに話していれば時間が過ぎるのもあっという間だしね。一人で夜番ってすごくしんどいのよ」


「なるほど、勉強になります」


 確かにそう考えると夜番というのは大変そうだ。

 私は一人でいることに慣れているけど、それは時間を潰せる手段が豊富だったからだ。


 むしろそういう意義のある時間の使い方に慣れてしまっているから、周囲に気を配り神経を尖らせながらじっと待つというのは耐え難い苦痛になりそうな気がする。

 現代文明の利器であるスマホは出せないし暇つぶしできるものもない。


 あ、クリッカースキルの情報整理はゆっくりできるか。でもそれに夢中になって敵に気づきませんでした、じゃ本末転倒だしなぁ。

 特殊すぎるスキルの仕様上当面ソロ活動の予定だけど、こういう不測のパーティ行動もあるかもしれないから覚えておこう。




「では俺はテントを設営する。ハンスは周囲の確認、ケイとミヤコは夕食の準備をしてくれ」


「おう!」「はぁい」「はい!」



 そうして各々やることをこなしながら準備した夕食は地味なものになった。

 派手に料理すると匂いで魔物が寄ってくるということなので質素なスープだけを作り、保存食用のパンを分けてもらってそれを浸して食べた。

 異世界ラノベで定番の堅焼きパンだったので興奮を隠しながらいただきました。

 

 硬くてぼそぼそで味もエグみが強い控えめに言って不味いパンだったけれど、マンガ肉やでっかいミートボールスパゲティみたいな憧れのロマン食の前には些細なことだった。

 こういうのは味じゃなくて雰囲気を楽しむんだよ!



 夕食後、夜番後半に備えてグリンさんとハンスさんはテントに潜り込み、私とケイさんは焚き火を囲む。


 そしてケイさんと他愛無い会話をしながらクリッカーシステムの通知ログを確認していたけれど、どうやら私はやらかしてたようだ。

 なおクリッカーシステムは意識していれば指で操作しなくても考えただけで動かせるみたいだった。これ思考とかまで読まれてないよね……?


 ゴブ殲滅以降、すっかり人との交流にのめり込んでリアルタイム通知すらも確認を怠っていた。


 その通知の中で見落とすべきじゃない情報が多々含まれていたのだ。


 それが今までスルーしていた実績アチーブメントだ。

 実績アチーブメントは効果こそないけれど、私が何をしたのかは把握できる。

 そのログが示していたのは【神の思惑を超えし者】【チュートリアルスキッパー】【レベリング中毒】【神をも恐れぬ者】。


――――――――――――――――


【神の思惑を超えし者】 


24時間以内に『イレギュラーファクター』を3回以上発生させる


――――――――――――――――




――――――――――――――――


【チュートリアルスキッパー】 


所定イベント以外で保護期間を解除する


――――――――――――――――



――――――――――――――――


【レベリング中毒】


『総合LV』を1日で100上げる


――――――――――――――――


――――――――――――――――


【神をも恐れぬ者】 


神の手を1回煩わせる 


――――――――――――――――



 イレギュラーファクター…例外とかそんなニュアンスだっけ? ファクターは要素だったはずだ。

 つまり文字通り私何かやっちゃいました? を3回もやらかしたってことかな。


 どれがイレギュラーだったのかは正確にはわからないけど、【チュートリアルスキッパー】を見るに異世界2日目で街を目指したのは入ってそう。

 どうやら転移初期位置のあの森はチュートリアルステージだったみたい。通りで危険な敵に会わなかったわけだよ。

 もしかしたらあのまま森を彷徨うのが神様的な正解だったのかもしれない。まぁ、強化される前の私はそんなことをできる自信がなかったから想定が甘かったということだねHAHAHA。



 その【チュートリアルスキッパー】には致命的な副次効果があった。


《チュートリアル外のエネミーと能動的な戦闘を行ったため、保護期間が終了します。以後はエネミーとの遭遇にお気をつけください》


 という警告ログがゴブリン抹殺直後に通知されていたのだ。

 私はゴブリンと戦うまでは魔物避け的な保護をされていたっぽい。

 つまり戦闘後のあのイノシシ狩りと焼肉パーティの間は本来は魔物が襲ってきてもおかしくなかった…あ、あぶなっ!


 運良く何事もなかったからよかったけれど、もし私がいない狩りの最中にみんなが襲われてたらと思うとゾッとした。

 この世界はゴブリンですら侮れないからね。


 これはうっかりどころじゃないので、次からしっかり通知やログを確認する癖をつけよう……。



 【レベリング中毒】はまぁいつかは付くものだったろう。

 中盤を超えれば一日で100LVくらい軽く上げられるはずだ。そう、クリッカーならね。


 ただ『サイラスの剣』の面々やゴブリンのステータスを見るに、いささか上げすぎた感はある。

 異世界一日目で中堅パーティに匹敵どころかそれを超えてるのはやっちゃいましたね。


 これが普通の現実であれば先んじて未来のリスクを軽減できたし無問題! ってなるけれど、私の異世界ライフは神様謹製のゲームの盤面である可能性が高い。

 下手にインフレするとそれに合わせて敵のバランス調整をされるかもしれないのだ。


 現地民とかけ離れたパワーインフレを起こした場合、味方の力を狩りれず一人で全てと戦うハメになるかもしれない。

 一人無双は憧れるものであって、実際にやされるとなると御免被りたくなるよ。ブラック反対!


 早めに味方を強化できる方法を見つけなきゃ……。物量チートができる錬金術とかクラフト系も習得しなきゃね……。



 最後に【神をも恐れぬ者】。


 あー、これはアレだね。管理者、もとい神様けっこうキレてるね。

 そりゃチュートリアル無視された上に早々にバランスぶち壊されたんじゃキレたくもなるよね。ゆるして。



 なるほど、なるほどね。

 私やっちゃいましたね。


 ペナルティすらありえそうな神からのお気持ち通知に顔が引きつる。

 とりあえず私ができることはこれ以上目をつけられるのを避けてひっそり生きることかな……。


 でもなぁ、管理者神様がこっちの都合を考えて全てをセッティングしてるとは限らないから、将来のインフレにも備えたいんだよなぁ。



「どうしたのミヤコ? さっきから面白い顔したりピクピクしたりしてるけど」



「あー、いえ……ちょっと考え事を……むっ……!?」


 パッシブスキルである【狩人の直感】で敵の反応をキャッチ……したのはいいけどこれは不味いかもしれない。



「はぁっ!?」


「えっえっ? 何!? 大丈夫!?」



 【狩人の直感】が捉えたのは、索敵できる辺り一面を埋め尽くすゴブリンらしき気配だった。


「いきなりバランス調整かーい!! 」


 ブチギレすぎでしょ神ぃぃぃぃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る