第36話 打ち上げといえば焼肉っしょ!(1)

 『サイラスの剣』の皆さんがご飯の準備をしてくれてる中、私は悠々とお風呂で今後の生存戦略を練った。

 まぁそれまでにしっかり働いたからね! 罪悪感はおいしいお肉の提供で相殺しよう。



 風呂上がりの一杯に冷たい水をゴクゴク! うーん、うまい!

 【モイスチャー】で出す水は飲料水としての範囲なら冷温どちらも出せるので便利だ。

 

 よく魔法で出した水は魔素が含まれていて飲水に適さないという設定の異世界ラノベがあるけれど、これは元々飲水専用の魔術なので大丈夫みたい。

 これまでの何度かお世話になっているけど体調に異常はきたしていない。私が独自で使っている『ウォーター』は未検証だからお風呂のお湯にはしても飲みはしないよ。わざわざ飲水魔術があるのはちょっと怪しいしね。



 身体を新たに作った乾燥魔術『ドライ』で乾かしたら服を着てみんなと合流だ!


 ……知ってたけど、この服ももうボロボロだなぁ……。

 私を薄汚い視線から守ってくれてたお気に入りのカーディガンと制服はもはや傷だらけで大破脱衣も待ったなしだ。

 ストッキングと靴は弾丸ツアー初期で大ダメージを負っていたのですぐに脱いで【存在因子リソース保管術】に保管していたので、この川辺で人と会うまでは素足だった。お陰で損傷は多少マシだ。


 元の世界の名残はもうこれしかないから、街に付いたら早めに替えの服を手に入れて制服たちは記念品扱いで【存在因子リソース保管術】に安置しよう。


 とりあえず今だけはもう少し耐えてくれ!



 寂寥感と共に着衣完了した私は、頭を切り替えて念願の美味しいご飯を食べるためルンルン気分でお風呂小屋を出て調理スペースに向かった。


「お待たせしました! お風呂上がりました!」


 沈着冷静でクールなデキる女を演じてきた(個人の感想です)けれど、もう頭は人間性のある文明の食事でいっぱいだ。思わず声もハキハキしてしまうね。


「ああ。言い遅れたが風呂に入れさせてくれて感謝する。いい湯だった」


 お風呂の礼を言うグリンさん。うんうん、お風呂って言ったら目が輝いてたもんね。喜んでもらえたなら用意した甲斐があったよ。


「そうそう、お風呂なんて滅多に入れないもんねー。ありがとねミヤコ!」


 やはり異世界テンプレよろしくお風呂は庶民には馴染みのない文化の世界なのか。ちょっと衛生面が怖いな。

 これは私がなんとかしてお風呂を普及させなくてはいけないね! ……錬金術のスキル、なんとか狙えないかな。


「いえ、嫌なことはお風呂で洗い流すのが一番ですからね。いい気持ちでご飯を食べましょう!」



 さぁ、念願の焼肉だ!




「解体は終わっている。ブロックにまではしたが、ここからどうする? 丸焼きにするのか?」


 解体テーブルの上には素材と食材に分離された元イノシシくん。美味しくいただくから成仏しておくれ。

 ブロックサイズを丸焼きか、ワイルドで夢がある。ローストビーフやドネルケバブ? みたいにクルクルしながら削いで食べるのもアリだ。


「あー、それもロマンがあっていいですね……。余裕があったらそうしましょう。

 でも今回はまず、焼肉用にカットします!」


 しかし今は焼肉なのだ! 私の気分が!!


 早速お肉を最終加工しよう。焼肉専用の魔術を構築だ! イメージは工場でカットされる食品! 生産現場の裏側特集のバラエティで何度も見たからありありと浮かぶよ!


「むーん! 『ブッチャーカッター』!」


 食肉加工工場なら『ミートプロセッサーファクトリー』という方が適切なんだろうけれど、如何せんそこまで機械化された工程は完全再現できない。まだね。

 だから、肉屋ブッチャーだ。鋭く吹き付けるウォーターカッターで個人消費レベルのお肉の裁断処理ができる水魔術になっている。


 実はイメージ元は野菜の工場だったりする。知っているお肉加工映像は金属刃でカットだったからね……。


 厚さは贅沢に1cm、縦横7×4cmの黄金比サイズで統一だ! キレイに整ったお肉ってすごい高級感あるよね!


 集中して一気に複数の水圧の刃を通し、規定サイズになるよう縦横をカット!


 達人が宙に投げた食材を一瞬にして細切れにするかのように、イノシシ肉はあっという間に理想的な焼肉の肉へと姿を変えた。

 廃棄部位や形を整えてカッティングしたわけじゃないからスジや肉の表情など実際のプロの仕事には遥かに劣るけれど、パッと見だけなら超高級焼肉だ。


「そして『ドライ』!」


 あとは微量に付着したウォーターカッターの水と、お肉の余分な水分を取り除く。

 熟成は酵素の働きでタンパク質がアミノ酸に分解されることで行われるからこの魔術ではできないけど、血や肉汁が溢れてしまうドリップなどは防げるだろう。味の凝縮だ!


 うーん、カットされたお肉は美しい。程よい油がキラキラと輝いてて、見るだけで美味しさが感じ取れるね。



「すごーい! 一瞬でお肉が綺麗に切れたわ! ミヤコは料理もできるの!?」


 できないんだなぁそれが。私は美味しいものが好きだから料理雑学的な知識は蓄えたけれど、実際に調理はしてない口だけグルメ評論家タイプなのだ。

 ケイさん的、というかこの世界的に肉をキレイに切るだけで料理の鉄人とかは言わないよね? 私は料理をこの世界の人に賭けてるんだぞ!! 頼むよほんと!!!


「相変わらずすんげぇ魔術をホイホイ使うねぇ~。こんなのモンスター相手に使ったらどえらいコトになるぜ?」


 ハンスさんが茶化してくるけどこれはお肉用なんですぅー。MP使用量が多いわけではないが、広面積へ分散しているためMP消費の割に威力は低いからね。

 もし攻撃に使うなら、複数出したウォーターカッターを一つに集中させ水圧を上げるよ。将来的にはダイアモンド的な硬度の高い微粒子を混ぜて工業仕様に凶悪化させたい。


「お肉の準備もできたので、配膳して皆さん席に着いてください!」


 スープもサラダもできてたからあとは運ぶだけだ。

 網焼き台のサイドテーブルにそれぞれ食器を置いていく。



 準備は万端。待ちに待ったこの時が来た。

 焼肉大会、はっじまっるよー!!

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