第34話 ハーギモースで冒険者を釣る

 美味しいお肉を無事に持ち帰れて、解体も任せられるということに。

 お肉の処理が決まったところで作業分担は続く。



「じゃあ私は野菜担当ね。でもせっかくのハーギモースまでスープにしちゃうのはもったいないわね……川も側にあるし新鮮なら洗えば生でいけないかしら……」


 ケイさんはスープづくりか。でも全部スープにしちゃう感じ? まぁ死と隣合わせの人類の生存圏外では、万が一に備えて生食のリスクは避けたいのはわかる。

 ただ私的にはバーベキューの具材なので、半分くらい残して欲しい。


「野菜は【クリーン】を使って清潔にするので半分は生と焼きで食べようと思ってます。

 私の【クリーン】なら生でも安全に食べられるようになる……はずなのですが、もし嫌だったら無理はしないで大丈夫ですので」


 【クリーン】はイメージ依存型でしかも説明文にしっかり『汚れの指定を精密にするほど効果が上がる』と明記されている。

 ここまでお膳立てされていて察せない異世界ラノベ好きもいないだろう。


 私の【クリーン】なら汚れはおろか寄生虫も病原菌も抹殺できる。細かくどの細菌がとか言われたら無理だけど……【ヒール】の時のように、概念の付随だけでも効果は劇的になるはずだ。多分ね。


「えっ、そんなことまでできちゃうの!? ねぇグリン、ミヤコはこう言ってるけど生で食べちゃダメ? ハーギモースなのよ! 高級宿ですら運が良くないとサラダでは食べれないのよ!」


「うーむ……普通なら許可はできないが……。ミヤコがそういうならできるんだろうな。

 まぁいいだろう、ケイとミヤコは生で食べてくれ。俺とハンスは念のためにスープだけにしておく」


 信頼されてるぅー。たっぷりと超人アピールした甲斐がありましたよ。


 判断はまぁ妥当だね。それでも私たち2人がダウンすると最悪アイシアさんと合わせた3人をグリンさんとハンスさんの2人で背負うことになる。

 リスクを鑑みればかなり譲歩してる内容だ。



「おいそりゃねぇぜ! 俺だって生のハーギモースは喰いてぇってのによぉ」


「仕方ないだろう、全滅の憂き目にあったばかりなのにまた危険は犯せん」


 人気だなハーギモース! 私は生そのままを齧るのはもう飽きたよ。なんて嬉しくない贅沢なんだ……。


「あのー、安全な拠点に逗留できたらまた採りにいくので、その時にでも」


 これは提案と言う名の決定事項だ。ハンスさんも茶化しているだけでゴネるつもりではないだろう。

 なら次の機会を提示してこの場を収めよう。


「いいのか? 俺たちはもう散々とミヤコに世話になっているが……」


 グリンさんもこのやり取りの意味はわかっているだろうけれど、やはり恩義が強すぎて申し訳ないみたいだ。今のところもらってばかりだしね。

 でも私としては街への案内で十分なのだ。見ず知らずのよそ者ではなく、実績ある冒険者のお墨付きを得た旅人として街に入れるならこのくらい安いものだよ。


「気にしないでください。その代わり、皆さんの拠点にしている街か、この先の東にある大きな街まで案内してもらえると嬉しいです」


 この人達の帰還先が私の目指す街と同じとは限らないからね。

 どのみち住みよいところにいきたいのだ。この人達の人柄から察するに犯罪都市みたいな治安の悪いところを拠点にはしないだろう。もしそんな場所にこの人達が行ったら犯罪を見過ごせずに一日でトラブりそうだ。

 だから『サイラスの剣』についていく方向でも問題ない。


「うむ、その程度は当然だな。ミヤコの言うこの先の東の街、というのはきっと俺たちの拠点がある街だろう。

 元から案内するつもりだったから、そんなことは見返りにはならないのだがな……」


 よかった。行き先は同じみたいだ。


「いえ、それだけでも十分です。私みたいな田舎者がいきなり大きな街に行ったら何かと不都合がありそうですし。

 少しの間だけでも色々と御指南していただけるだけで私には過ぎたお礼ですよ。情報の『価値』は計り知れませんから」


 それは文字通り測れない『価値』がある。

 物体ならあらゆるものの『価値』を詳らかにする【商人の嗅覚を鍛える特製鼻薬】も、情報という無形のモノには機能しないからね。


「しかし……」


「いいんじゃねーの? どうせこの調子なら他に礼をするっていっても受け取らねぇだろ、ミヤコはよ。

 危険を顧みず俺達を助けて風呂とメシまでご馳走しようってヤツだぜ。

 適正な礼をっつったって、もらった分に見合うような返せるモンなんて俺たちにゃ用意できねぇよ」


 渋るグリンさんに対してハンスさんがナイスアシストだ。


 まぁそうなんだよねー。

 金銭で支払うっていっても、命の『価値』に見合うとなると相当だ。

 救助の相場にしてもそれはあくまで相対的なものであって、絶対的な命の値段ではないしね。


 相対的な『価値』の釣り合わせというならば、それこそ私が求めるお礼を支払うのが適切な折り合いなのだ。



「わかった……では街まで案内するし、しばらくは俺たちが面倒を見よう。

 わからないことがあればいつでも聞くと良い」


 よし。折れたね。


「ありがとうございます。それではしばらくお世話になりますね。

 改めてよろしくお願いします」


「よろしくな、ミヤコ!」


「リーメイのことならなんでも聞いてちょうだい! 結構長く住んでるからだいたい知ってるわよ!」



 目指す街はリーメイっていうのかな。


 ともあれ、これで街までの案内は確約できた。

 海老で鯛を釣るならぬハーギモースで冒険者を釣り上げたよ!


 ハーギモース先輩にはなにかと大変お世話になっているね。

 感謝を表すために美味しくいただこう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る