第33話 お持ち帰り

 美味しそうなお肉をゲットしたから4人の元に帰還する宮子ちゃんこと私。

 この世界で初めてのお肉だからウキウキしちゃうね!


 そういえば肉はそのままだと痛むから狩ったらすぐに冷まさないといけないって異世界ラノベでよく出てくるけれど、すぐ食べるのでも必要なのかな……。

 まぁ一応冷やしておこう。


 イノシシの肉を【存在因子リソース保管術】から取り出し、冷却の魔術を使う。


 冷却か……冷蔵庫……ではダメみたい。箱がないからかな。

 ならばと思い石の箱を作って冷蔵庫にしようと思ったけれど、複合属性扱いなのかこれもダメだった。


 イメージ万能説があったけど、イメージ次第では上手くいかないことが度々起こるようになってきた。

 これが初級魔術スキルの限界なのかな。



「むむむむ……『クールダウン』!」


 結局、冷たい水風呂に入るイメージで冷水を出して水球で包んで全身ちゃぷちゃぷにしてやった。シンプルイズベストだね。

 普通の水漬けかぁと思ってふと水球に手を突っ込んでみたら一瞬で体温を奪われて焦って引き戻した。しっかり魔術効いてた……危なかった。



 みんなと合流する時は念のため【存在因子リソース保管術】を秘匿するから、このイノシシは手で持ち運ぶ必要がある。あと野菜類もね。


 『創造クリエイト』でイノシシサイズと野菜運搬用の石の箱を創り、諸々の物品を詰めていく。

 イノシシIN水球もばしゃっと入れる。これはOKみたい。それぞれの効果が干渉してないからかな。

 石箱に温度遮断機能とか付けたらアウトになるような気がするな。うーん、奥が深い。



 よし、それじゃあ荷物を担いで宮子ちゃんのお帰りだ!

 5mの無骨な石の箱を片手で持ち上げる見た目小学生の少女……傍から見たらとんでもない絵面だ。


 右手でイノシシ箱、左手で野菜箱。野菜箱も一抱え以上はあるので、なかなか持つのが難しそうに見えるけれどそこは超人的『能力値』。

 今の私の器用はその道の達人にも匹敵するような気がするレベルなのだ。下手なセッティングの機械は余裕で上回るオペレーティングができてしまう。




 まるで大道芸のような見てくれで2つの箱を持ち上げ、ひょいひょいと歩く私。

 それを迎えた『サイラスの剣』の面々の顔はなんとも愉快なものだった。


「ただいま帰りましたー。すみませんがイノシシって解体できたりしますか?

 私はあまり慣れて無くて……」


 誰か解体できないと困るんだよなぁ。下手にやるとお肉が不味くなるらしいし。


「あ、あぁ……なんていうか……お前はいつも凄まじいな」


「ハハハッ、それでこそミヤコだぜ! 解体なら任せろよ、これでも中堅冒険者だからな。動物程度の獲物の解体は大抵経験済みってもんよ!」


 あっ、よかった。少なくともハンスさんはできるっぽい。


「ミヤコがすごいのは知ってたけど、なんか見ていて頭おかしくなりそうな姿ね」


 でしょうね。

 5mの石の箱を持ち上げてるのは140cmもない子供外見なのだ。業腹だけどそれは認めよう。

 しかもそれで左手には別の一抱えの箱だからね、なんとも奇妙だろう。


 それを見た彼らが三者三様で変顔大会をしてくれるお陰で、私は笑いを堪えるのが大変だ。



 まぁそれは置いておいて、箱を良さげな場所にポイ! っとはせず丁寧に下ろす。まずは野菜箱、それから両手でイノシシ箱を設置。

 ふぅ、疲れた。肉体的にはそんなに疲労してないけれど、バランスを取って歩くというのは慣れてないと存外神経を削るね。



「おぉ、これはアングルホーンか? よく一人でこんな大物を捕まえたな……普通はパーティでも結構な被害が出るんだが」


 『能力値』を見るに筋力と敏捷が高いから、面と向かってやり合うと怖いよね。

 まぁ私は意識外からバックアタックで一方的に狩ったため一切敵意すら浴びてないけれども。


「それにしっかり冷やされてるみたいだぜ。血抜きはあんまりされてないみたいだが、この短時間で狩ってきてここまで冷やしてるんならむしろいい味になるかもな。

 時間が経って傷んだ血は肉を臭くしちまうが、痛む前の新鮮な血ってのは結構イケるんだぜ」


 あー、血抜きを忘れてたなぁ。テンプレの一つなのに、これは大失態だ。

 よく見るといつの間にか水球に使ってた水が血で染まっている。グロ断面図や冷却のことで気を取られすぎてたね。


 でもハンスさん曰く対応的には悪くないみたいだ。

 確かに血のソーセージのブラッドプティングとかすっぽんの生き血とかあるし、気持ち悪いのを除けば美味しいのかも……?


 異世界流の洗礼、あまり怯えずにドンと受けてやる! 色々驚かれてるから私の魔術でできたものが異世界として主流なのかはわからないけれど。



「こっちもいいものばっかりよ! わっ、ハーギモースの葉がいっぱい! これ希少な超高級食材なのに、こんなに採れたの!?」


 野菜コーナーもいいでしょー。帰りに採れたものに加えて、手持ちのハーギモースの葉も出しておいた。

 食べ飽きてはいたけど、なんかレタスとかサンチュっぽくお肉を挟んで食べたら最高な気がしたんだよね。


「あれ? これ希少なんですか?」


 でもちょっとタイムだ。ハーギモースはここまでちょくちょく見かけてた気がするけど、希少だったの?

 一応さっきの狩りでもハーギモースの木は1、2本はあったし……。


「あー、ミヤコにはそうでもないのかもしれんな。ハーギモースの葉は頑丈な枝に生え、しかもそれがそこそこ高い場所にある。

 だから初級冒険者は登ったとしても歯が立たず、中級冒険者であっても採取するのが手間で割に合わないためあまり納品しない。

 その割に需要は非常に高いから市場では御用商人などしか扱ってない希少品なのだ」


「なるほど……」


 ありふれてるけど難易度と供給バランス的にレアってことね。

 確かに私みたいに下から魔術で上手く切り落とせないとしんどそうだ。木登りなんて私には考えられないしね。いや、今ならいけるか……?



「ふむ……ここまで大きいアングルホーンは解体したことはないが、まぁやってやれないことはないだろう。

 俺たちがこいつを解体しておくから、ミヤコは風呂に入ってくるといい。流石にすぐには終わらんだろうからな」


 おー、ありがたい申し出だ。ここは素直に受けよう。まだスプラッターグロムービーに耐えられる自信はない。


「すみません、ありがとうございます。それじゃあお願いしますね」


「気にすんなよ、むしろこんな上等な肉のお溢れに与ろうってんだからそれくらいしなくちゃバチが当たるぜ」


 さすがハンスさん、ひょうきんなキャラに外れない物言いだね。私は好きだよそういうの。



 ともかくこれで私が悠々とバスタイムを楽しんでいる間に食材も準備ができるというわけだ。

 ずっと働いてはいたけれど、やっぱりいざ他人が動いてる時に自分だけゆっくりしてるのは気が引けるなぁ。


 まぁこの人達もさっきまでそういう気分だったんだろうけど。

 私は大人しくしてて、みんなが少しでも気持ちよくご飯を食べられるように饗されようではないか、ふははははは。

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