第24話 街行き異世界弾丸ツアー(物理) 後編
【
これなら思っていた以上に効率的に計画を実行に移せるね。
それじゃあ必要な魔法を用意したので、街を目指して高速移動計画「異世界弾丸ツアー作戦」を実行するよ!
まず垂直跳びの要領で高くジャンプします。かつては40cm浮けば良い方だった私も、今や軽く15mを飛び上がれてしまう。やったね宮子ちゃん、オリンピック総なめできるね! 技術面でダメそうだけど。
そして途中から『エアスラスト』を使い姿勢制御しながら更に高度を上げていく。すごい高さだ。異世界に来てから木と空しか見えてなかったのに、遠くに山脈が見えるよ。あそこもいつか制覇したいね。
足元の木が豆粒ほどに小さく見える高さになったら、ほんの少しだけの加速にして上昇を続けながら周囲を見回す。
できれば長時間同じ高さで滞空してじっくり見ていたいけれど、加速があって進行ベクトルも一致している安定した上昇時とは違い、滞空はすごくバランス制御が難しいのだ。
ちょっと理屈は違うけれど、自転車が走行時と静止時で安定感に差があるのと似ている感じ。
迂闊に『エアスラスト』で姿勢を維持しようとして力を加えると途端にバランスが破綻し制御不能になり錐揉み落下する。低空時でテストした時にびっくりしておもらししそうになったことはナイショだ。
あっ、東の方に大きな都市がある! その都市を中心にしてぽつぽつと町や農村の存在も見て取れる。
これどれくらいの距離なんだろうな……。うろ覚え豆知識の「地上に立った時に見える水平線は5km先」だったと思うけれど、計算式とかは知らないから今の高度から見た距離はわからない。
腕を伸ばし親指を立ててそのサイズとの比較を元に対象との距離とか大きさを測る方法もあった気がするが、よく覚えていないし何十何百キロレベルまで測るには尺度が足りてない気がする。
まぁとりあえず東に向かっていけばいつかは人と会えるってことだし、行き先が明確になったからOK!
念願の異世界ファーストコンタクトに胸を膨らませつつ、遥か上空から地上に向けて自由落下していく。これも制御できれば浮遊魔法がいけそうなんだけどなー。
落下方向に加速するだけなら簡単なんだけど、微出力で減速は錐揉みフラグなので難しく滞空なんて以ての外。明後日の方向に飛んでいく可能性すらある。
なので私は諦めて落下。それが自然の摂理なのだ。異世界でも重力は健在のようでなにより。
達観しつつ地面が近づいてきたタイミングで耐ショック姿勢! 丸くなり頭を保護つつ、『ロックシェード』を身に纏う!
「あだっ」
地響きが生まれるほどの衝撃と共に、私は無事に大地へと帰還を果たした。身体へのダメージはほぼ皆無だ。
生身だったら落下地点に棘状の岩とか金属とかあったらちょっと怖いけれど、強固な岩の外殻で守られた中身には打撃ダメージしか伝わってこないので問題ない。まだ試せてない肌の防御力はともかく肉体の頑強さ自体はもはや人類を超えているのだ。
程よく呼吸を整え、次に走り幅跳びの要領で東に向かって大ジャンプ! 垂直ジャンプもそうだけれど結構方向がズレる。如何に高い器用があるとはいえ、全く運動の経験値がない状態では補正も効きづらいようだ。
『エアスラスト』で更に空へと羽ばたき、ベクトル制御が手に負えなくなってくるくるしてきたら落下フェーズ、『ロックシェード』を展開して慣性と重力に沿って落ちていく。
こうして前話の冒頭に至る。
鳥たちも迷惑だろうけれど許しておくれ。私は早く街に行きたいんだ。
叫び声を上げる私入りの岩玉はそこそこ大きなクレーターを作りつつ大地へ着弾し、横方向への運動エネルギーのままゴロゴロ転がる。
岩玉が転がるのは計算に入れてなかったけど、意外とこれもいい距離稼ぎになってる気がす痛ァっ! 木に当たって変に飛んだ! 思わぬ方向転換に関節をちょっと捻ったけれど【ヒール】で即時回復だ!
なぜこんな荒っぽい着陸をしてるかと言えば、当然私が普通の着地をできないからだ。
高まった『能力値』のお陰でこんな人間離れした人力ミサイルみたいな真似ができているけれど、“滞空”はまだできないのだ。
飛び続けるにはMPも制御力も足りてないし、かと言って着地時に障害物や落下コースを判断して危機回避できるだけの瞬間的な行動選択の経験値もない。
瞬時に判断するだけなら向上した精神の影響でできそうだけど、そこから複雑な命令を身体に送り動かすのはまた別のようだ。
なので、諦めて防御態勢を整えた上で身体を張って勢いを止めるしか選択肢がないのだった。
なお落下地点やその先に人がいるかはしっかり索敵している。
初期地点からしばらく移動した時に【狩人の直感】がLV3になったので30m先まで察知できるようになったため、余裕を持って回避運動を取れる。そのための余剰MP確保もだいぶ必要なので連発できない難点もあるけど。
それにしても【狩人の直感】がレベルアップしたのは正直予想外だった。だって昨日は一切そんな兆しがなかったから。
でもよくよく考えるともし索敵の熟練度蓄積条件が鑑定系スキルでよくある「新しい多くのものを鑑定する」と似たようなものなら確かに上がる訳はないのだ。昨日はずっと同じ場所に留まっていたからね。熟練度を稼げる新しい気配の察知ができなかったんだろう。
他のスキルのレベルも『アップグレード』以外では変化がなく、てっきり【伐採師】とかが文字通り特殊なだけで、通常職のスキルは熟練度では変動しないかと思ってたけど……ってよく見たら【魔力操作】がLV2に上がってた。
使い込みが甘いだけだったんだね……。昨日結構葉っぱ落としたのに……。
まぁいいや! これからガンガン使ってレベルアップさせればいいだけだね!
数時間の間、アトラクション感覚で飛翔と墜落と、合間にMP回復を兼ねたクリック&ウォーキングを繰り返し、落下時に関節を捻るなどのアクシデントも何度かあったけれど概ね無事に目的の街まであと3分の1といったところまで移動できた。幸い轢き殺した人は0人だ。
まだ太陽の位置も高いのに、すごいスピードで移動したなぁ。方向確認で上空から見た時は遠目でも結構距離があったはず。
やはり異世界はちょっと強気なくらいがちょうどいいのだ。そうに違いない。
これからの私は物怖じせずに体当たりでぶつかっていくよ! タックル宮子の誕生だ!
そんな馬鹿なことを考えつつMP回復がてら歩いていると、最初の大ジャンプでは遠くに見えていた大きめの川がやっと【狩人の直感】にヒットした。
おぉ! 異世界で初の森以外のロケーションだ! 自分で作った草原と荒野の間の子はカウントしないものとする。
上手く行けばお風呂とかも入れると思うと思わず足取りが軽くなる。
ダメージがないとは言えアトラクション疲れしたし、今日は川辺で心の洗濯だよ!
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