人、街、冒険者! ~異世界社会でのし上がれ!~
第23話 街行き異世界弾丸ツアー(物理) 前編
「うああああああああああああああああああ~~~~~!!」
新天地を目指し、異世界転移の初期位置である森を出た異世界への来訪者、私こと神崎宮子は文字通り飛ぶ鳥を落とす勢いで上空を爆進していた。
風を切り、流れていく風景を背に、空を駆ける弾丸となっていた。
「へぶしっ!」
どがーーーーーん! という大きな騒音で周囲の木で寛いでいた鳥たちが一斉に羽ばたいていく。
離れ離れになっていた愛しい地面との再会には痛烈な返事が帰ってきた。
なぜ私がこんな仕打ちを受けているかといえば、それは朝の反省会から説明を始めなければいけない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
新しい朝が来た。冒険の朝だ。
何食わぬ顔で初期エリアから足を踏み出した私は、一歩踏み出したあと風のように走り出した。決して犯行現場からの逃走ではない。
しばらく走って、距離を稼いだらまた何もありませんでしたよという顔で朝ごはんのハーギモースの葉を取り出してもしゃもしゃと食べだした。
お行儀悪いけれど歩きながら食べちゃおっと。あそこから少しでも離れたい。
はむはむと葉っぱを2枚食べ終わったら、歩みを緩めずに遠距離クリックと直接クリックを交えて木を伐採しつつ移動し続けた。
ふぅ。とんだ冒険の始まりだ。清々しさの欠片もないや。
罪の意識から逃れるように、クリックして歩きながら昨日の失敗を思い返す。
慎重な選択をしながらところどころで危険な暴走をしていたのは非常に危険ではあったけれど、今にして思えば悪いことではなかった。勿論安易に繰り返すべきではないけれど。
私の選んだ安全重視の指針としては失敗だったし、余計な危険を招いたかもという危惧はある。でも、せっかく異世界に来て自由に過ごせるのだから、あまり臆病になりすぎず流れに任せるというのもいいのかもしれない。
異世界ラノベのテンプレとかに囚われすぎて"この世界"をちゃんと見ないのも失礼だ。
多分それなりに強くなっているし、これからは無茶にならない程度に強気でいくことにしよう。
それくらいじゃないとこのチートスキルは持て余しそうだしね。これで普通とか言われたら生きていく自信がない。
あとは知識面かな。
何事も経験なんだよなぁ、というのが昨日で得た教訓だった。
漫画やラノベから触発されてサバイバル知識とか色々齧ったつもりだったけど、実際にそれが必要な環境に置かれると全然身に付いてなかったのがよくわかる。
行動の優先順位とかは実際に体験してみないと逆に混乱の元にもなっただろうし。
不幸中の幸いと言うか、私には知識を活用するための基礎体力がなかったから迷う必要すらなくチートにかけるしかなかったんだけども。
とはいえ昨日の焚き火一つ取ってもダメダメだった。本来なら枝を積むだけじゃなくその下に
テンションが上がって忘れたというのもあるけれど、やはりいざという時に抜け落ちる程度の齧った生知識では十全な力を発揮しないのは火を見るより明らかだね。
この調子だと、知識チート方面も自信がなくなってくる。
知らないモノはどうやっても生み出せない以上、"知識の概念"というただどういうモノかを知っているかどうかだけでも有益ではあるけれど……。
チートスキルや魔法で細かいところは誤魔化せるかも知れないが、それではチートありきのことしかできない。
例えば科学ベースの産業チートをしたいなら、産業科学の基礎である"知識さえあれば誰でも扱えるテクノロジー"でなければならない。
それをチートという個人技能でしか再現できない私は、この時点でカードを一枚失っているのだ。勿論言葉の例えで、この損失はカード一枚で済むレベルでもない。
異世界行きに備えてせめて簡単なDIY程度でもやっておくべきだった。いやまぁそんなありえない可能性に備えるのはただの変人だけどさ。
人は失ってからその大切さに気付くんだね。その言葉すら、高度な文化から切り離された今だからこそ身に沁みるというのがなんとも皮肉だ。
便利なチート能力を手に入れたけれど、そればかりに頼らずに少しづつ知識を実践していくのもいいのかもしれない……きょ、拠点ができてから……。失うことを知ってなお、怠惰な精神は変わらないようだ。
まぁその辺はおいおい矯正するとして。
反省と今後の方針を決めたあたりで、そうと決まれば早速強気でいこうとある計画を立てた。
必要な
――――――――
【
全ての魔術の基盤となる魂の器。
その在り方と願望に沿って拡張される魔力回路が魔導の奇跡を顕現させる。
――――――――
『アップグレード』やスキルの詳細を見ても魔法名が表示されたりはしなかった。
フレーバーテキストで『ソーラリス大陸で一般的な属性魔術の教本』って書かれるくらいだから、てっきりファイアとかウォーターとかそういう魔法の固有名も覚えられると思ったんだけど。
【
まぁ言われてみれば確かに、イメージで形ができるものを「ファイア」とか言葉だけで説明されても上手くはいかないよね。そういうのが有効なのは言葉自体に魔法を発動させる力があるいわゆる"言霊"みたいな世界の理があるタイプだけなんだろう。
なんとなく納得したところでスキルのアシストを頼りに炎をイメージする。やはり魔法の具体的なイメージといえばこれだろう。私にとっての魔法そのもののイメージとすらいえるのかもしれない。
手のひらに握りこぶしくらいの火の玉が浮かぶ……そう、それはまさにファイアーボールといえるような……こうっ!
「『ファイアーボール』!」
イメージした通りに、手のひらの上にボワッっと丸く揺らめく炎の塊が出現した。半分くらいは【
やはり【魔力操作】はこの世界の魔法システムの根幹に根ざす重要スキルなのかもしれない。【インスタンスマジック】はハーギモース収穫で結構多用したから、もう慣れっこだ。
思わず言葉が出てしまったけれど、やはりイメージに対して直結する言葉を口にしたりするのは想像を堅実にする効果がある気がする。
感覚的には無詠唱もできるという気はするけれど、逆に意識だけで暴発する感じもした。
言霊タイプの魔法が「言葉を口にするだけで発生してしまうデメリットがある」ように、イメージ重視の魔法も意図しない暴走があるのかもしれないね。
ちょっとした検証を交えつつ、その後も少し魔法の練習をする。と言っても、昨日のクリック地獄ほどではない。
「『ロックシェード』! 『エアスラスト』!」
『ロックシェード』は自分の周囲に球状で数cmの岩の殻を纏う土魔法をイメージした。
『エアスラスト』は任意の方向に推進力を発生させる風魔法だ。
どちらも数回で問題なく具現化された。
初めての属性魔法が上手く行きすぎている感はあるけれど、そもそもこの計画のためにパパッと【見習い魔術師LV30】【見習い僧侶LV20】まで上げた今の私の魔力は514もある。想像力に補正が掛かっている感じがある精神に至っては865だ。
私換算の想定常人値が15であり、もし仮にそれが100だったらという元の世界からすると超人的異世界基準で考えたとしても、それの5倍以上の『能力値』があるのだ。
人類最弱だった私は、もはや超人どころではない新人類になっているのだ!
シンプルな魔法の一つや2つは造作もなく使えてしまう。これがスキル・ステータス制のもたらす凶悪な現実というやつだよふはははは。
ほんとクリッカーのインフレ様々だね!
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ご報告
第一章完結記念として近況ノートに【神崎宮子】のキャラ設定イラストを公開しました。
よければご覧ください!
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