第20話 この世界で生きてゆく
ハイパー宮子ちゃん改めウルトラ宮子ちゃんにランクアップした私は、レベルアップ作業で発生した怒涛の情報に翻弄されていた。各種職業を一定の区切りまで上げたので『アップグレード』やら新たなスキルやらが一気に生えてきているのだ。色々衝撃すぎて、つんつんしてる間は考えることを放棄していた。
夕焼け色だった空は薄っすらと紫のグラデーションが掛かっている。一日ももう終わりだから、今日は野営の準備をしたあとでゆっくり確認しよう。問題の先送りとも言う。
まずは燃えそうな枯れ枝を【
ちなみに生木だから出してないけどハーギモースも枝やら丸太やらと部位破壊で得た素材を収納している。
乾いた枝の両端を持ち軽く力を入れる。パキッという小気味いい音がなる。うんうん、よく乾いてそうだね。
それを積み重ねて、ちょっとした小山を作る。キャンプ作品に書かれていた空気の通り道を意識してみたけれど、まぁそれっぽくなったかな。
そして偉大なる異世界文明の利器、『生活魔法』で着火しまーす! わくわく!
「うーん、【フリント】!」
腰を落とし安定させてから魔法を使う。枯れ木の小山に種火が付くイメージ、思い浮かべるのは点火棒、いわゆるチャッカ○ンだ。それぐらいは実際に見たことある。誕生日ケーキのロウソクに火を付けたくらいだけどね。
念じた通りにシュボッっと爪先程度の火が指に灯る。
「うわぁ……!」
言葉にならない感動だ。すでにいくつかの魔法は使っている。でも、やはり魔法と言われて思い浮かべる王道といえば火の魔法だろう。
その魔法の火を、私が生み出したのだ。
私は異世界ラノベにハマる前は現実からの来訪者が主人公ではない普通のファンタジー作品を読み漁っていた。
異世界人は出て来ない、その世界出身の勇者が魔王を退治する定番の英雄譚から魔族側が人間の蛮行に抗うダークヒーローモノ。他にも魔法の学校に入学したり、魔法のお店を経営したり。
とにかく魔法やそれによって出来上がる想像を超えた不思議で魅力的な文化に、私は強く、とても強く恋い焦がれていたのだ。
その私が、魔法で火を灯した。それは幼い時に、そしてこれでずっと夢見てきた光景だった。
つうっと頬を涙が流れていく。
気付いたら異世界に転移していて元の世界での生死すらわからない。この世界で絶対生きていけるとも限らない。
気丈に振る舞って気にしないようにしても確実に心に差していた暗い影は、指先で揺れる優しい明りが消し去ってくれた気がした。
ああ……私はこの世界で生きていきたい。
未練も迷いもさほどなかったといえばなかったけれど、これですっぱりと割り切れた。
私は、この世界で生きていく。生きてこの素敵な世界を満喫するのだ!
夜の帳が下り冷えてきた私を、魔法の灯火がそっと温めてくれたのだった。
しばらくしっとりした時間を過ごした私は、立ち上がって頬を叩いた。落ち込むのはこれでおしまい!
一日働き詰めで景色も真っ暗になりちょっとナイーブになっていたけれど、浸るのも程々に色々と確認しようそうしよう!
情報が出てきた時はクリックもしながら素材採取も並行して慌ただしかったのであわあわしちゃったけど、どっしり構えた今ならなんでも来いだよ!
よ-し、まずは新しい職業候補だ!
【見習い鑑定師】を取得したことで新たにアンロックされた職名は【見習い盾使い】。盾か……。スキル内容によっては有用だし、HPや防御の補正も大きいのでやはり道すがら道草(木)食んでいこう。
まさかここにきて本物の盾の装備は要求されないだろう。きっと耐久系スキルだ!
初期からはだいぶ上がったとは言え、まだ私の耐久面は低い。今やほぼ全てが3桁にまで伸びた『能力値』の中で唯一の2桁だ。
向上した身体能力の制御に失敗しすっ飛んで転んだ程度では傷もできないけれど、これが敵からの攻撃でもそうなるかはわからない。
リスクを放置するよりも、早めに対策を取るのが正解だね。
これは明日の優先事項に決定。『アップグレード』との兼ね合いで順番前後させるけれど、明日中にはなんとか取得するぞ!
お次は各種『アップグレード』。
まずは【見習い魔術師LV10】で出た【属性魔術の使い方 初級編】。
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【属性魔術の使い方 初級編】
ソーラリス大陸で一般的な属性魔術の教本。
これを修めれば属性魔術のうち1つは身に付くと言われている。君に才あらんことを。
【
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ついに属性魔法が使えるようになるみたいだ。【
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【
全ての魔術の基盤となる魂の器。
その在り方と願望に沿って拡張される魔力回路が魔導の奇跡を顕現させる。
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ふぅん。つまりマザーボード的な? 依然よくわからないままだけど、まぁ概念的に近いものって考えたら精神を病むぞって聞くしね。量子論とか。
とりあえずこれは絶対取得。【インスタンスマジック】以外も使ってみたい!
というか、この【
ショボい初心者向けの魔法かと思ってたけれど、意外とこの世界の真理に近いスキルなのかもしれない。超越者になったらシステムの補佐を受けられなくなって一時的に弱体化、みたいな主人公もいるしね。
そして【見習い僧侶LV10】の『アップグレード』は【祈りの聖典】だった。
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【祈りの聖典】
祈りには道標が必要だ。信仰の輩よ、神の教えを遵守せよ。
『MP』を毎分(1+最大MP×0.001)回復する。
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MP回復促進は嬉しい。固定値1があるだけで1時間に60MP回復できるし、変動値も入れると95.1も追加で回復できる。私のオリジナル魔法『飛斬光』換算で19回だ。結構大きい。
まぁ取得に635000
最初は3分40秒ほど掛かったあの元強敵ハーギモースこと生命樹は今や7秒間のクリックで沈んでしまう。生命の塊とは?
人を探しながら木を突いていき、
【見習いシーフLV10】は【隠密LV1】を取得できる【ギリースーツ手作りキット】だった。
盗む系スキルはないのかな?
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【ギリースーツ手作りキット】
一流のシーフはいざという時でも対応できなくてはいけない。
例えそれがみすぼらしい葉の集合体でも、効果があれば立派な仕事道具なのだ。
【隠密LV1】を取得する。
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おお、プロっぽい。
なんでも使う精神は好きだよ。
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【隠密LV1】
隠れることとは生きること。
毎秒『MP』を((最大MP×0.1)/S,LV)消費してS.LV以下の索敵スキル及び感覚ではスキル保持者の存在を感知できなくなる。
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こっちは何言ってるかちょっとわかんないっすね……。
効果は強いけれど、スキルレベルが低いうちはMP消費が激しそうだ。
あと同レベルの索敵スキルも無効化するっていうのは大きいな。私の【狩人の直感】はLV2だから【隠密LV1】なら察知できる。でも【隠密LV2】は無理。
スキルレベル1では1秒毎に最大MPの10%とMP消費が激しいだけに、結構ステルス能力は高いみたいだ。
スキルレベルが上がるほどその上がり方も遅くなるので、常に相手より上の索敵を維持し続けるのは簡単ではないだろう。上位ランクの戦いまでなったら隠密持ちに要注意だね。
取得|存在因子《リソース値は150万。高い。ぐぬぬ。
隠密スキルの重要性は各種異世界ラノベで学んでいるので取るけどね。でも高い。
最後に【無職】。これは新しい区切りであるLV50で出てきた。
予想はしてたけれどやはり実際に出ると安心する。普通のクリッカーだと効果は塵積なことが多いけれど、私のクリッカーは数値の増減だけじゃなく新規のスキルなんかもあるから結構期待してる。
その次なるランクの『アップグレード』は【10歳のための職業一覧】。
【無職】……! お前……!
LV10までは養われるだけだった存在が、自らの手で収入を得ようという意思を見せていた。【無職】のフレーバーテキストにもなっていない部分で謎のストーリー展開がされているようだった。
大丈夫、君はできる【無職】だ! 君ならやれる! がんばれ!
【無職】がいつか【無職】でなくなる日がくる事を祈るばかりだ。
よくわからない暖かな気持ちを抱えながら『アップグレード』詳細を見る。
――――――――
【10歳のための職業一覧】
将来を見据えた若者へ未来の可能性を指し示す本。
人生の選択肢は無数に存在する。その選択は無限の未来に繋がっている。
【自己研鑽LV1】を取得する。
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【自己研鑽LV1】
己を磨き、成すべき大義を見定めよ。
1秒ごとに(CDMG×(S.LV×0.01))の
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有能ーーー!! うちの【無職】くんは非常に有能だよ!
ついに来た割合DPSボーナス! これがあると成長がより早くなる。何より、実際に獲物を狩らなくても100秒ごとにCDMGと同じ
これから街に行って常に獲物を狩るということができなくなる以上、無から
各種数値が小さいのでまだこれだけでレベリングを支えられる程ではないけれど、積み重ねが大事なクリッカーでは将来的にはなくてはならない『アップグレード』なのだ。
【モラトリアム】時代から非常に貢献してくれていたけれど、この【無職】くんはもう実質就職してるレベルの働きを見せてくれている。私からの評価は大企業のエリート社員くらいの業績並だよ。
【無職LV50】の
システム上で描かれるストーリーにも興味が出てきた。
ただ強くしてくれるだけじゃない、様々な面白さも提供してくれるこのクリッカースキルをもらえて本当によかったなぁ。
なお、【10歳のための職業一覧】のお値段200万
私がこの世界で生きていくには、犠牲になるものが多いようだ。
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