第19話 因縁、決着。
またインフレのステージを駆け上がってしまった。
『能力値』の暴力は私に安心感を与えてくれる。中身のスペックが未だクソザコな私は、高い身体能力があって初めてまともにモンスターと対峙できるのだ。ちゃんと戦えるとは言っていない。
そういえば【見習い商人LV10】の『アップグレード』は【商人の嗅覚を鍛える特製鼻薬】だった。なんだそれ。商人で鼻薬って言われると賄賂の方に感じる。いずれにせよ真っ当な薬ではないことだけは確かだ。『アップグレード』に物質的な形がなくてよかった。
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【商人の嗅覚を鍛える特製鼻薬】
商人として生きるなら金を嗅ぎ分ける嗅覚はなくてはならない才能です! この鼻薬を使えば貴方もすぐにモノの違いがわかるひと味違う商人の仲間入り! 今ならなんとたったの55000
周囲(商人LV×1)mの範囲内にある(精神×器用×幸運)までの『価値』を知覚できる。
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『価値』がわかるみたい。人里に行くならぜひとも欲しい。ぼったくられたくないしね。ただひたすらにフレーバーテキストが胡散臭い。やめてくれないかな、余計なフレーバーで判断を鈍らせるの。
価値はたしかソールとかいう単位だっけ。システム上で表示されるくらいだから統一通貨や普遍的な概念なのだろうか。お金は好きだけど細々した両替とか為替とかは嫌いなので、是非とも世界を制した最強貨幣であって欲しい。
そしてこのスキル、恐らくかなり強い隠れチートスキルな気がする。8
ハーギモースの葉は
私が唯一持つ索敵スキル【狩人の直感】は個体が持つ
この『価値』というパラメータは人にとっての恩恵や人間社会の相場が影響してるっぽいからね。
それでもモノが持つ人間社会での『価値』を知れるのは、この世界を何も知らない私には非常に有利に働くだろう。
そう信じて私はこれを取得することにした。お値段なんと55000
そして新たな職業は異世界では必ず取得するべきアレだった。
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『職業修練』 消費
【無職LV30】 246.1
【見習い冒険者LV20】 266.2
【見習い狩人LV10】 537.5
【見習い商人LV10】 7679.2
【見習い魔術師LV5】 6324.4
【見習い僧侶LV3】 9742.9
【見習いシーフLV1】 1万4千400
【見習い鑑定師LV0】 14万7千
【???】 115万8千
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どうやら鑑定は単体で職業になっているようだ。スターターセットでくれればいいのに……これはこれで気分が上がるからいいんだけどね。
【見習い商人】の『アップグレード』然り、まるで街へ行こうという私への餞別のようだ。人と対する時に鑑定があるのとないのでは天と地ほども状況が変わる。
情報を制するものは戦いを制する。必須スキルの所以だ。
そして次の【???】は115万。今の稼ぎのペースじゃまず届かない。やはりここらへんで外に出て行けという啓示なのだろうか。
とりあえず、まずはこの飛躍的な成長のテストといこう!
さて……。ついにこの時が来たか……。
今こそ新たな一歩を踏み出す時!
私は【
ふーっ……っと息を吐き、カッと目を見開く。
「ほあちゃちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!!」
静から動へ。残像すら生みそうなほどクリックを叩き込む相手は"今まで歯が立たなかった樹木"だ。全長6mほど、幹の太さは私が3人いてやっとぐるりと囲えるくらい太い。生命力を形にしたような自然の結晶だ。
コイツを倒さなきゃ私はこの森から出ることなんてできねぇ! ハイパー宮子ちゃんとなった今、逃げて背を向けるのは死だけなのだ!
「ふぅぅ! へぁっ! ほぁっ!」
1分……2分……3分……。低木を1分でシバけるようになってからここまで連打したのは久々だ。しばらく忘れていた疲労感が身体にまとわりついてくる。
突いている部分的には本来ならもう削れまくってぽっきりと倒木している。部位破壊状態だね。でも今回私が狙うのは完全勝利、この木のHP全損だ。木の生命その中心奥深くに響くよう、クリックパワーを浸透させていく。なおクリックパワーがどんなものかはわからない。感覚だよ感覚。
そして無心でクリック連打すること3分40秒ほど。ついにその時が訪れた。
大きな木の全体から淡い光の粒が生まれ、やがて木そのものが光に包まれ、その場にいた大きな穴という証を地面に残して消滅した。
「やっっっ………………ったーーーーーーーー!!!! 勝ったぞーーーーーー!!!」
私は力の限り勝利の叫びを上げた。心を温かい満足感と達成感が満たしていく。
異世界に転移してから自らの弱さを再確認させられ、その非力さで不安にもなった。
その象徴の一つがこの大きな樹木だったのだ。木にすら勝てないという、よくよく考えると人間としては当たり前だけど、それでもモンスターなどの存在を考えればこの程度なら勝てなければ生き残れないという生存ラインの壁。
それを打倒した今、私はやっとこの世界に生きる最初の権利を得た気持ちになったのだった。
あの木も思えば呆気ないものだったな。ふふふん。私は生きるぞ! この世界で!
深い感慨に浸りながらステータスを見て得た
ふむふむ、大体32000
4分弱で得られる数値としては美味しい。すごく美味しい。
なによりこの大きな樹木は正体不明の凶暴なモンスターに荒らされ半壊したように見えるこの初期エリアでもまだ一杯残っている。移動も考えれば2、30本くらい伐採しても大丈夫ではなかろうか……?
あんなに強かった大きな木ももはやただの餌である。
実際に倒してみて、かつて現在の10分の1くらいのCDMGだった時に「今の自分の4,5倍も強ければ勝てそうだなぁ~」とかずいぶんな計算違いをしていたことも気になどならない。勝てたからいいのだ!!
どうする……? やっちゃう……? やっぱり旅立つにももう少し安心材料欲しいし……。
森林破壊は気になるけど、完全に滅ぼすわけじゃないから大丈夫だよね!!!
というわけで自分に甘い言い訳をした私はこれまで超難敵だった大きな樹木をばっさばっさと突き倒していった。
《
おぉっ! なんか出てきた! いきなり電子音とアラートが出てくるのは心臓に悪い。
伐採に集中してたらどうやら10本目でなんらかの条件を達成したみたいだ。隠し職業的なやつなのかな?
――――――――
【伐採師】
木こりとして生きることを決めた者の職。
木を切り倒すことにかけて右に出るものはいない。
LVUPボーナス HP+17 筋力+6 防御+4.5 精神+3 器用+2.2
――――――――
ありがたや~! HPが大幅に上がる! 今の私に足りないフィジカル面を補ってくれるのはとても助かりますよ!
そしてこれ、どうやら特殊職業という分類のようで手動レベルアップはできないみたいだ。
戦闘職じゃないから……? いやでも商人は? 商人は日々戦ってるって? そんなエコノミックアニマルは高度経済成長期の日本人くらいだけだぞ! 過労死文化は続いてるけど!
ちょっとモヤッとしながらも職業スキルも追加されてたので確認する。
――――――――
【自然特攻LV1】
自然を切り拓くのはお手の物。人の罪を顕した技能。
『植物』に対してダメージが(S.LV×10%)上昇する。
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久々に辛辣なフレーバー来たな。現在進行系で罪を重ねている自覚がある私にぐさっと刺さったよ。
効果は最高だ。まだこれから手を染める罪はいっぱいあるからね。エルフなり何なりが断罪しに来る前に返り討ちにできるよう強くなってやる!!
貯まっていく罪の贖罪は明日に放り投げて、
また10本ほど木を切り倒してステータスを見てみると伐採師のレベルが2に上がっていた。
うーん? 木を切って得た
まだ判断材料が少ないのでよくわからないけど、また楽になったのは確実なので意気揚々と森を侵食していく。もちろんハゲ山もといハゲ森にはしてないよ、バランスよく薄毛になる程度に残している。意外とヘアスタイリストの才能もあるのでは?
そんなこんなで初期エリア内の見栄え良く間引ける木を全て伐採しました! 空がもう赤くなってきているね。異世界転移して半日くらい経った気がする。瞬間的に増える膨大な
仕事終わりに大きく深呼吸。インドア人間が一日よく働いたなぁ~。切り倒した木は全部で27本だ。最初の伐採から合わせて得た
もうね、別次元だね。クリッカーだからいずれこうなるとは思ってたけどさ。結局、私は初期エリアから半径20m以内で森での修行がほとんど終わってしまった。その侵蝕率はボスモンスター並だけど。
随時
まぁ明日はついに人を求めて旅立つとして、歩きながらまだレベリングしよう。できれば解放された次の職も狙いたい。
そして念願の【見習い鑑定師】!
――――――――
【見習い鑑定師】
本質を見極めんと求道を征く者の職。
その眼は世界の深淵へと向かってゆく。
LVUPボーナス HP+12 MP+23.1 CP+6 精神+13 器用+37.3 幸運+12
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正直スキルの有用性からすればからすればオマケ程度の職業補正も結構いい感じだ。
スキルの方は
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【鑑定眼】
真理に目覚めた瞳。
【簡易鑑定】が使えるようになる。
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――――――――
【簡易鑑定】
『MP』を消費してスキル使用者の(最大MP+魔力+精神+幸運)までの
簡易鑑定によって得られる情報は『名前』、『種族』、『年齢』、『身体情報』までである。
鑑定時、スキル使用者の『能力値』参照値が対象の
――――――――
鑑定チートの始まりだ! 簡易というのが惜しいけれど、無いよりはマシ! こっちが強ければ大体みたいところまでは見れるしね!
職業やスキルまで見れないっぽいのが残念だけど、それはそのうち『アップグレード』で強化して解決するんだろう。
というかさらっと『身体情報』とか入ってるし。どうやら私だけへの嫌がらせではなかったようだ。この世界にプライバシーは存在しない!
がんばって
最初に抱いた決意を再確認した。これはもはや使命だ。
この世界の女性への配慮のなさに戦々恐々としながらも、試しに大きな壁だった謎の樹木に使ってみる。
――――――――
【ステータス】
名前 【ハーギモース】
種族 【
年齢 【261歳】
能力値
HP 7537216.2/7537216.2
MP 1293620/1293620
筋力 3
魔力 919.3
防御 107.5
精神 7
器用 2
敏捷 0
幸運 63
――――――――
はぁん!? 化け物か!? 何度も生命力のモンスターと表現していたけれど、まさか本当にその名がふさわしいとんでも植物だったとは……。
そりゃ簡単に倒せる訳ないよね。私が攻撃力の暴力ならこっちはHPの暴力だ。
【
あと何気に魔力面も高い。だからハーギモースの葉はマナに溢れてるんだね。もし彼らに反撃手段があったら私は天に召されていただろう。今度からもっと有り難みを感じながら食べさせてもらうよ。
ライバルの真の実力を垣間見た私は、自分の一日の成果の集大成に目を逸らして気分を持ち直すのだった。
――――――――
【ステータス】
名前 【
種族 【
年齢 【17歳】
称号 【
能力値
総合LV163 (+84)
HP 512/638 (+302.9)
MP 213/377.1 (+219.8)
CP 61/67 (+35)
筋力 121 (+76.9)
魔力 186 (+101.8)
防御 72 (+28)
精神 414 (+246.7)
器用 723.4 (+602.5)
敏捷 387.3 (+299.5)
幸運 137 (+67)
ATEF 100 (+40)
CDMG 2700.7 (+2255.1)
保有存在因子
94503.3 (+90005.7)
総獲得存在因子
1338692.1 (+1239821)
所持金
0
職業
【無職LV50】【見習い冒険者LV40】【見習い狩人LV30】【見習い商人LV10】【見習い魔術師LV10】
【見習い僧侶LV10】【見習いシーフLV10】【見習い鑑定師LV1】
特殊職業
【伐採師LV2】
『スキル』
【
『職業スキル』
【モラトリアムLV2】【初級植物知識+】up【狩人の直感LV2】【
【トーチライト】【クリーン】【フリント】【モイスチャー】【魔力操作LV1】【インスタンスマジック】
【ヒール】【アンチドーテ】【回避の心得】【鑑定眼】【簡易鑑定】【自然特攻LV1】new
『アップグレード』
【親が買ってきた下着】【快適な冒険のための生活魔法 上】【森を畏れる心】【商人の嗅覚を鍛える特製鼻薬】new
――――――――
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