第15話 新たなるステージへ


「うぅっ……いたたたた……」


 まだ収まらない頭の痛みに耐えながらゆっくりと目を開ける。

 どうやら意識を失っていたようだ。まさか魔力枯渇現象じゃなくて認識の拡張で気絶するとは……。

 異世界ラノベでも稀に見かけたシチュだけれど、【狩人の直感LV1】の延長でなんとかなると思ったんだよなー。

 トントン拍子で強くなって調子に乗ってたので、ちょっと無警戒過ぎたね……。


 目覚めてからの世界は以前とは一変していた。私を囲むあらゆるものの存在がありありとわかるのだ。

「これが新人類の景色か……」

 全裸空間まで見えちゃう超人的な空間把握力とまでは言わないけれど、モノとモノの距離も感覚的にわかるので目を瞑ってても結構生活できそうだ。


 一番の変化はフィールドの一部でしかなかった憎き樹木からしっかり気配を感じ取れるようになっていることかな。あっ、勝てないっすわと直感でわかる。

 具体的な力量差まではわからないからいつ倒せるようになるかは不明だけれど、大まかな存在の格の違いは伝わってくる。

 以前とは比べ物にならないくらい強くなった今の私のさらに4、5倍ってところかな。生命力の化け物め。いつかぶっ倒してやる。


 索敵範囲は非常に広くなった。恐らくこれが頭痛の最大の原因だろう。面積の求め方は半径 × 半径 × 3.14だったっけ。10mは約300㎡だったのが、20mだと4倍の約1200㎡だ。そりゃ気絶もするよ。

 上がった精度に加えあまりの情報量に脳の処理が追いついてない。思考が妨げられるのは問題だ。

 しばらくしても慣れてくる様子はないので、『能力値』で対処できないか試してみないと。



「と、とりあえず精神を上げよう……」

 確実なデータとして精神の高さで痛みが抑えられるかはまだはっきりとはしてないけれど、痛みを堪えて思考できるのは【狩人の直感LV1】の時の経験から学んでいる。

 あの頃は精神と器用以外に影響がありえるステータスが軒並み低かったから消去法で精神、あるいは器用だ。まさか運ということはないだろう。


 【無職】のレベルアップ消費存在因子リソースはだいぶ高くなったものの、痛みを抑えられるまでどれほど精神が必要かわからない今は仕方なく【無職】をレベルアップさせ様子見する。

 ポチポチッと。うん、5LV上げて少しだけマシになった。根本的に精神が足りない訳じゃなさそうでよかった。幸いにも【モラトリアム】による存在因子リソース変化から気絶してたのは数分みたいだし、いきなりの情報量の衝撃で頭を殴られがくんといってしまった感じかな。

 この調子だと【見習い魔術師】の上がり幅分で十分痛いの痛いの飛んでいけできそうだ。保有存在因子キープリソースが減ってきてしまったので多少リスキーでも【見習い魔術師】を上げちゃおう。


――――――――


【見習い魔術師】


魔術に魅せられた者が行き着く職。


偉大なる使い手にも未熟な時はあるものだ。


LVUPボーナス MP+10 魔力+14.2 精神+12 器用+9.7


――――――――


 レベルアップの消費存在因子リソースが大きいだけに、ステータスの底上げ量も増えているようだ。加算箇所は少ないけどたった1レベルでもかなり数値が上がる。

 魔力に至っては予測パンピー数値と同じくらい。【見習い魔術師】を2レベル上げるだけで常人の2倍近くの『能力値』になれてしまう。やばし。


 余計なことを考える余裕がでてはきたものの、まだ脳は辛いのでさっさと上げちゃおう。


――――――――


『職業修練』      消費存在因子リソース


【無職LV30】       246.1


【見習い冒険者LV16】   128.6


【見習い狩人LV10】   537.5


【見習い商人LV1】    1464


【見習い魔術師LV1】↑  3000


【見習い僧侶LV0】    5500


【???】       12000


―――――――― 


「あぁ……よかった……」

 レベルアップ直後から痛みはほとんど無くなった。やはり脳の負荷は精神で対抗できるようだ。

 今回はあとちょっと足りないくらいだったみたいなので早めに対応できる範囲でよかったけれど、今後はもう少し慎重になった方がいいかな。最悪スキルに耐えきれず頭パーン! とかもあり得たかもしれないしね。こわいこわい。


 普通であれば下位の強化をある程度強化してから上の強化に手をつけるものなのだ。インフレゲーのクリッカーといえど、さすがにちゃんと段階的に数字が増える設計にはなっている。

 でも私のクリッカースキルはちょっと仕様が違うので、多少の効率より無理してでも新しい職を取って『職業スキル』を得ないといけなかったのだ。

 でもまぁ常識的な範囲で生き残るのに必要なスキルはもう大体揃ったので、これからは下地を鍛えてから上位の職を取るようにしよう。



 痛みが薄れ冷静になってみると、【狩人の直感LV2】が示す私より強い気配はどれも動かないものばかりだった。これはもしや全部木とかかな?

 能動的に私を襲うような生き物はいない可能性が出てきた。気配察知を無効化できる隠密系スキル持ちや20mを一気に詰められる生き物がいるかもしれないけれど。

 でも少なくとも半径20m内には凶悪な生物はいないみたい。気絶するというデメリットはあったけれど、『アップグレード』を取得してよかった。

 この精神的安定はあるいは《マナスポット》並みに得難いものだ。

 しばらくは焦らずレベリングと可食テストに努めよう。



 安全確認ができて一息ついて落ち着いたので、早速『職業スキル』をチェックだ!! わくわく!!


――――――――


【魔力操作LV1】


『MP』を操作して【インスタンスマジック】を発動する。


操作効率は『魔力』に依存する。


――――――――


「魔法きたーーーー!!!」

 異世界行ったらやってみたいことのトップ3に入る人類の夢!! 生きててよかった!

 ふふふ、これから私は魔法使いマジカル宮子ちゃんになるのだ!

 【インスタンスマジック】というのがよくわからないけれど、これも詳細見れるかな?


――――――――


【インスタンスマジック】


『MP』を『マナ』に変換し物理現象として干渉できるようにする魔術。


あらゆる魔術の基礎になる。


――――――――


 なるほどー! 俗に言う魔力を練る的な感じなのかと思ったら、これ単体で魔法として使えちゃうのか!

 まだ別の魔法スキルがあるわけじゃないので、これだけで魔法が使えるというのはありがたい。

 魔力を鍛えるだけ鍛えさせておいて実際に魔法を使うには【見習い魔術師】をLV10に上げてから別途『アップグレード』を取得してください、とかだったら神様にお気持ち表明してたところだよ。具体的に言えば延々とステータスウィンドウを連打して。



 長年の夢を叶えるため、早速【魔力操作】が伝えてくる感覚に沿ってMPを操作する。おっ、いけそういけそう。

「【インスタンスマジック】!! 光あれ!!」

 もちろん詠唱はいらない。雰囲気だよ雰囲気。


 変な干渉をされると困るので【破壊の指先デストロイ・フィンガー】を消してから素手の右手の先に光が灯るイメージで『マナ』を発生させる。こういうのは往々にしてイメージが確実な方が成功しやすいものなので、光は見慣れた消滅のエフェクトを参考にしてるよ。

 ぽわぁ、と光の粒が指先に集まり明滅する。ま、魔法を使えちゃったよ……!!

 これまでのもととはまた違う感動で涙が滲んでくる。オタク文化ファンならこれで泣かずしていつ泣くというのかね!



 しばらくうっとりと光を眺めていると、ふとあることに気づく。

 あれ……? そういえば《マナスポット》に餌をあげられないか試した時、似たような事できてたような……?

 もしかしてシステム上でスキルを取っていなくても習熟度的なものを上げられる……?

 今回あっさり一発で成功したのも、それで感覚を掴んでたから……?


 魔法が使えた興奮で危うくさらっと流すところだったけど、これはかなり重要な情報かもしれない。

 異世界ラノベで蓄えたスキルの知識は膨大だ。まだ使えないそれらを試すだけでも、何かを得られるかもしれないということだからね。


 もしもこれが習熟度を一定まで上げればスキルをそのまま取得できたりレベルを上げられる系なら、例に漏れず存在因子リソースを劇的に抑えることができてしまう。

 成長度合いからしてまだ初期スキルに近い【狩人の直感LV2】ですら5000存在因子リソースもしたのだ。今後更に数字は莫大になっていく。それを踏み倒せるのは非常に美味しい。


 戦闘面で自身の安全を守れる自信が付いたら未取得スキルの検証もライフワークに加えるべきかもしれない。

 まぁ、どれだけ肉体を酷使しても『能力値』が変わってないので、私のスキルシステムはあくまでクリッカーシステムだけに依存してる可能性が高いけれどね。

 それでも後のスキル取得後の慣熟を早められるなら無駄ではないさ。



 魔法という新しい力を手にし、これからの充実した異世界生活を夢想する私であった。

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