第6話 愚者は経験に学ぶ

 時が来た。

【無職】か、【見習い冒険者】か。

 私の命運を左右するかもしれないその決断は――。


 

――――――――


『職業修練』      消費存在因子リソース


【無職LV5】       2


【見習い冒険者LV1】↑  12


【見習い狩人LV0】    100


【???】       1200


――――――――



 【見習い冒険者】一択だった。

 まぁね~。

 一応念を入れて考えてみたけれど、このクリッカーシステムの仕様では悩む理由と同じ部分で答えは決まっていた。


 リスクは通常のクリッカーと異なるポイント入手手段の問題。

 ではメリットは?


 それはつまり、『スキル』だ。

 ステータス上昇は確かに魅力的ではあるけれど、この世界の在り方を考えれば選ぶべきは可能性の塊といえるスキルで間違いない。


 ステータスの変化は現段階では"今持っている選択肢の幅を広げる"程度でしかない。

 しかし、新たなスキルの獲得は"今持っていない選択肢を新たに得る"劇的なものになる可能性が高い。


 私のスキルの独自仕様の問題は、同時に消去法でもあるのだ。


 【無職】で得た【モラトリアム】によって加速度的にレベリングが捗ったように、【見習い冒険者】で得られるスキルは今の厳しい状況を一変させることだってできるかもしれない。

 もちろん得られるスキル次第ではあるけれども。



 「ステータス!」



――――――――

【ステータス】

名前 【神埼宮子かんざきみやこ

種族 【人間ヒューマン/(遊戯者プレイヤー)】

年齢 【17歳】


称号 【世界の歪みに挑みし者ワールド・クリッカー


能力値

総合LV6 (+4)

HP   193/198.4 (+2)

MP   0/0.6 (+0.6)

CP   1/1

筋力  3 (+0.8)

魔力  0

防御  3.5 (+0.5)

精神  19 (+3)

器用  35

敏捷  2.3 (+0.3)

幸運  16

ATEF  5 (+3)

存在因子リソース獲得+0.05% (+0.3)


CDMG  3 (+0.8)


保有存在因子キープリソース

2.3 (+0.9)


総獲得存在因子レコードリソース

19.4 (+17)


所持金

0


職業

【無職LV5】【見習い冒険者LV1】



スキル

破壊の指先デストロイ・フィンガーLV1】 



職業スキル

【モラトリアムLV1】【初級植物知識】new



――――――――




「よっしゃあーーーーー!!! 勝った!!!」

 どうやら最初の賭けには勝ったようだ。

 力が初期値から1.5倍になったことなど霞むほどの勝ちだ。


 【見習い冒険者】によって新たに得たスキルの名は【初級植物知識】。

 チートスキルのことも手探りなこの何もわからない状態で、もっとも欲しいモノの一つである"情報"を私は手に入れた。


 私のアドバンテージである異世界ラノベ知識で補えない情報には、その世界の現地での植生も含まれている。

 一見、元の地球にもあるような植物でも、もしかすれば命に関わる違いがあるかもしれない。

 出てくる物品の名前が違うだけで中身は地球と同じ、あるいは別の地球産のなにかという展開も異世界モノでは多いけれど、実際に地球の知識を元に迂闊な判断をすれば痛い目を見るだろう。


 その判断でベットするのは私の命だ。

 根拠にするならもはや別世界となった地球の情報よりこの世界由来のものにしたい。

 だって私自身がすでに"別物"になっているくらい、ここは元の常識とはかけ離れているのだから。



 チートスキルでは万能選手であることが多い【鑑定】先生じゃないのは残念だけれど、今は下手な他の識別能力よりも【初級植物知識】は役立つ。

 人間が水分を摂らないで生きていける日数はおよそ3日ほどだという。

 なので喫緊の問題は水分の確保だった。


 しかし、水分はなにも水そのものじゃなくてもいい。

 というのも、一般的に一日の人間の水分摂取はその半分ほどが食事から得られるものらしい。


 であれば、水分を含んだ安全な食べ物を食べればこの問題はクリアできるはずなのだ。

 そう、たとえば私に突き回されているこの雑草くんたちとか、ね。



 勝利を革新し意気揚々とステータスのスキル欄を押す。


――――――――


【初級植物知識】


植物を口に含むことによってその植物を鑑定できる。


身体を張った識別方法は先駆者と愚者にしか許されない蛮勇である。


――――――――



「愚かすぎるよ見習い冒険者ァァァァァーーーーーー!!!」

 本末転倒だった。

 クリッカーをやっていたと思ったらローグライクダンジョンだった件について。

 漢識別なんて試練は命がいくつあっても足りないから!!


 安全を確かめたいのに安全をかなぐり捨てなければいけない。

 どうやらまだギャンブルは続いていたようだった。ざわ…ざわ…。


 でもまぁ、口に含みさえすれば鑑定できるからね!

 スキルがなくてもどのみちいつか可食テストをしなければいけなかったもん。

 もし吐き出しても判定されるなら、リスクは大幅に減ったはず! ヨシ!!



 つんつんしながら並行してできるし、ついでに可食テストの準備も始める。

 今日はスキル上げに全力を注ぐとは言ったものの、やっぱり食べ物を補給できるなら早くしたくなるのが人情なのだ。


 「上手くいってね……!」

 見た目で毒々しくない美味しそうな気もする草を抜きちょっと揉んで汁を滲ませてから、休めている方の腕の肌に乗せる。

 採取や処理はもちろん【破壊の指先デストロイ・フィンガー】の方の手だ。手袋に破壊耐性があるみたいなので抜いたり揉んだ瞬間に何かあってもきっと安全。

 ……毒も貫通しない、よね……?


 可食テストはたしか肌に15分、唇に5分それぞれ当てて、問題がなさそうなら舌に乗せてさらに時間を置き最終的に噛み飲み込む流れだったはずだ。

 スキルが上手く機能すれば肌と唇だけで済む。

 そして安全性を確認できればこの雑草くんの同胞たちを遠慮なく生きる糧にできるようになる。

 毒性の発現もだけれど、この先の生存性の向上に期待しはらはらしながら時間を待つ。



 その間にも【破壊の指先デストロイ・フィンガー】は雑草相手につんつんと動かし、【モラトリアム】の存在因子リソースで自分を強化するのは忘れない。

 職業が1段階ランクアップしたので新しい獲物にチャレンジすることも考えたけれど、所詮元の私は人類最弱だ。

 それに毛が生えたところで楽に倒せる相手はそう増えるとは思えないし、どのみち今は【モラトリアム】の収入頼りなのだ。


 筋力が上がったためか、得られる存在因子リソースの総量は変わらないものの雑草をある程度突くと消滅しなくても存在因子リソースが微妙に増えるようになっていた。

 そういえば【破壊の指先デストロイ・フィンガー】の説明も『クリックによって減らしたHPを『存在因子リソース』に還元する』だったしね。

 きっと大ダメージを与えると倒さずともその時点で存在因子リソースになるということなのだろう。

 ……これって一撃で瀕死に追い込んだモンスターのHPを回復させてまた突いたらどうなるのかな……? 夢が広がるね。


 ただやはり最も存在因子リソースを得られるのはクリックで対象を削りきった時、消滅の瞬間のようなので獲物探しであっちこっちつんつんしても倒しきれないと美味しくない。

 試しにその辺の木を突いてみたものの、まだ防御力を貫通できていないのか存在因子リソースの蓄積表示は変化していなかった。


 より上位のブツのHPを削り切るには結構な根気が更にいるだろうし、食べられる植物を見つけて人心地付いてから本格的に次の相手を探したい。



 ちなみに【破壊の指先デストロイ・フィンガー】での雑草除去は確実に早くなっていた。

 筋力2では30秒ほどだったのが18秒くらいに短縮されたのだ。

 ダメージ計算式はやはりわからないけれど、成長が反映されているのは実感できる。


 この調子で安全を確保しつつ地道に強くなっていきたい。

 なお度々絶叫しているのは非常に危ないと今更ながらに気付いたけれども、もう手遅れなのでこれからは気をつけることにしたよ。



 可食テスト開始から4分後が経った頃、たゆまぬクリックと【モラトリアム】が得たお恵みによって【見習い冒険者】はLV3になった。

 つまり、私は17年間の人生で得た筋力の2倍のステージに到達したのだ!!


――――――――


能力値

総合LV8 (+2)

HP   198/201.2 (+2.8)

MP   0.3/1.8 (+1.2)

CP   1/1

筋力  4 (1)

魔力  0

防御  4.5 (+1)

精神  19

器用  35

敏捷  2.9 (+0.6)

幸運  16

ATEF 5

存在因子リソース獲得+0.05%


――――――――



 もう女子小学生には負けないのでは? では?

 いや多分まだ負けるかな……。


 染み付いた私の貧弱精神は具体的な自信を得られていないけれど、少なくとも私自身で比較するとその能力は大きく成長している。

 筋力だけなら元の2人分なのだ。それがどれほどの差なのかはまだ理解できてないがとにかく2倍なのだ。すごいのだ。

 筋力の目覚しい躍進に対して生存の要であるHPの伸びがあまり良くないけれど、それもそのうち特化職が来て補えるだろう。


「フハハハ、私こそがニュー宮子だ!!」

 静かにするという自戒も忘れてテンションぶち上げる私だった。

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