第4話 どうあがいてもニート

 ようやくクズげふんげふんチートスキル強化の兆しが見えて一安心した私。

 あまり悠長にもしていられないし早速確認だ。


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『職業修練』      消費存在因子リソース


【無職LV0】       1


【???】       10


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 効率化のため急いで上げちゃいたいけれど念を入れて【無職LV0】の詳細見てみよう。地雷要素だと嫌だし。



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【無職】


職なき者の職業。


その余暇を有意義に活用するか無為に捨てるかはその者次第。


LVUPボーナス HP+0.2 筋力+0.1 精神+1 存在因子リソース獲得+0.01%


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 うん、消費数値に見合ったしょっぱい上がり幅だ。

 でも精神ボーナスは高めだし存在因子リソース獲得量に加算値があるのは美味しい。

 100回レベルアップさせれば1%の増加だ。

 クリッカーは何かにつけて桁が大きいゲームなので、微々たるパーセンテージを積み重ねることでも絶大なリターンを得られる。

 ステータス加算も0じゃないだけマシ。


 無職でも体力を鍛えられるのが嬉しい。レッツ筋トレ!

 あとあとシナジー効果で数値が跳ね上がることもあるから期待しちゃうね。



 この職……無職は職業なのか? ……に意味があるかは私次第なフレーバーテキストは書いてあるけれど、内容に致命的な落とし穴はない。

 悪辣極まる万が一……もあるけれど、それは無いと思っている。


 なぜならこんな最初で即ジ・エンドな罠を仕掛けるのは"つまらない"からだ。

 私の種族に遊戯者プレイヤーとある以上、今私が置かれている状況は大なり小なり遊戯ゲームとして用意されていると思われる。

 そしてゲームとはなにか。

 それはつまるところ"抑圧と解放カタルシス"だと私は思う。

 勝利と敗北という緊張からの解放、そこへ向かうためにプレイヤーを縛るルールという制約。



 結末に向けて高まりゆくボルテージは、不誠実な行為で容易く霧散してしまう。

 "誠実な勝負"だからこそ、ゲームは面白いのだ。


 初見殺し、わからん殺しという唐突な理不尽はゲームでよく用いられる要素ではある。

 しかしそれは"経験や予想を裏切る"という過程が驚きカタルシスになるもの。

 チュートリアルとも言えるようななんの経験もない段階で初見殺しを使うのはどこぞの変態難易度ゲー量産企業くらいだし、それだって永久ゲームオーバーではなくリトライが前提の敗北イベントという演出でしかない。

 配慮も意味もない初見殺しはギミックではなくただの理不尽であり、ゲーム設計の欠陥なのだ。



 異世界に転移させてわざわざ御大層な使命を匂わせる称号と大仰な加護を与える。

 情報も徐々に解禁する形で小出しにして慣熟期間を与えているから、膨大な情報を一気に与えて自己責任で取捨選択をさせようという"地雷を踏ませたい"意図もあまり感じない。

 クリッカーという、一時期ブームになったとは言えゲームのメインストリームとはいえないマニアックなモチーフもそうだし、この遊戯ゲームのデザイナーは間違いなく凝っているヤツだ。

 そんな遊びに拘りを持ってそうな存在が、性格が捻くれただけの三流開発者みたいなことはしないだろう。



 それにどの道この世界がレベルデザインを放棄した、ただ人が死ぬのを見てるだけで楽しめるような浅はかなバカの作った下劣なデスゲームならば、遅かれ早かれ私は死ぬ。

 力という最も重要な要素を持っていない私では、チート抜きじゃどうあがいても絶望どころじゃないバッドエンドしか存在しないクソゲーになってしまう。

 蟻を踏み潰して悦ぶキッズや地下クラブのコロシアムで奴隷を嬲って笑う連中みたいなクズどものオモチャにされるくらいなら、潔く退場した方がマシだ。



 死にたくはないけれど、ゲームで遊ぶのは私であって、私で遊ばれるのは絶対に許せない。

 命懸けで試合に負けて勝負に勝ってやる。それが弱者として生きながらも心では決して負けてこなかった私のプライドだ。



 そのうちどこかで取り返しのつかない要素が潜んでいるかもしれないけれど、今じゃないことだけは確信している。

 だって、この世界は異世界とクリッカーが組み合わさった神ゲーだからね!!



 よーし、覚悟は決まった。初強化、この仕様では初レベルアップだね。

 【無職】の消費の欄をポチッとな!



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『職業修練』      消費存在因子リソース


【無職LV1】↑      1.2


【見習い冒険者LV0】   10


【???】       100


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《職業を習得したことにより、『職業スキル』が解放されました》



「わーい! 新要素~!」

 祝レベルアップ、さらに思わぬおまけがついてきた!

 すぐにチェックだ!


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『職業スキル』


【無職】【モラトリアムLV1】


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 今の私のどこに猶予モラトリアムがあるっていうんですかねぇ!! キレそう!!

 フゥー、落ち着け落ち着け。ステータスのことといいちょくちょく煽られてる気持ちになって情緒不安定になっちゃう。被害妄想は程々に。


 職業スキル、なるほどこういう形で追加スキルを得られるのか。

 多彩なスキルを使いこなすのも異世界モノの花形要素だから、今後がますます楽しみになるね!

 スキル詳細はっと。


――――――――


【モラトリアムLV1】


周囲の空間から存在因子リソースを恵んでもらい60秒ごとに


(【無職】LV×S.LV)の存在因子リソースを得る。  


――――――――



 恵んでもらうんかーい!!

 所詮は無職、養われる存在なのか……。

 どうせ同じ無職なら貯蓄して早期リタイアした末の未来ある無職とかもっと意識高い方がいい。


 クリッカーはなぜか皮肉や風刺的な表現が多い。

 私のスキルも例に漏れないのだろうか。

 少なくとも度々ダメージを与えられてはいるから、そのうち私に直撃するんだろうな……。



 ま、まぁ効果は素晴らしい!

 私が6分ほどかけて、しかも右腕を犠牲に必死に稼いだ1の存在因子リソースを、このスキルは何もせずに1分で集めてくれる。

 しかも【無職】のレベルを上げることでその効率も向上する!



 このスキル自体のレベルを上げる方法がまだわからないけれど、しばらくは【無職】を上げるだけでもリターンは大きくなるね。

 手動クリックと合わせれば次の【見習い冒険者】も遠くはない。



 希望が見えてきた。

 よぉし、がんばって強くなる! そしてこの遊戯ゲームを生き残るよ! 


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