第3話 進化するステータス

「ひぃっ……ひぅ……ふぅぅ……」


 だめ。負けそう。体力ないなー私。

 これがゲームなら楽しみながらこつこつクリックを積み上げてるけれど、ところが残念これは現実。

 動かすたびに蓄積する腕の疲労とリアルタイムで命を脅かされているストレスがなかなかにフィジカルとメンタルを削っていく。


 人生を賭けた決意をし雑草を連打し始めたが、すでに腕は限界だ。

 私は貧弱すぎて体育もほとんど見学していたため運動とは無縁。身体を動かすペース配分など知る由もない。


 失敗したなぁと思いながらプルプルと声なき悲鳴を上げる右手で雑草を突き続けた5分後、ピロンという電子音と共についにその時は来た。


《吸収した存在因子が1を超えました》

《『能力値』を解放します》


《『能力値』が解放されました》

《『職業修練』を解放します》



「きたーーーーー!!!」


 最初のはずなのにずいぶんと苦労した気がするけれど、ようやく強化要素ゲットだ! 多分!


「ステータスオープン!」


 わくわくしながらステータスウィンドウを呼び出す。

 ちなみにステータスを出すのは意識すればいいだけで呼び方はなんでもいいみたい。軽い奴め。


――――――――

【ステータス】

名前 【神埼宮子かんざきみやこ

種族 【人間ヒューマン/(遊戯者プレイヤー)】

年齢 【17歳】


称号 【世界の歪みに挑みし者ワールド・クリッカー


能力値

総合LV0

HP   124/196

MP   0/0

CP   1/1

筋力  2

魔力  0

防御  3

精神  14

器用  35

敏捷  2

幸運  16


CDMG  2


保有存在因子キープリソース

1.1


総獲得存在因子レコードリソース

1.1


所持金

0


スキル

破壊の指先デストロイ・フィンガーLV1】 


――――――――


「はぁぁん? クソザコナメクジかー???」


 比較対象がないけれど、これは確信できる。弱い。すごく弱い。

 高い数値と低い数値の差が大きいのは間違いない。あとすでにHP減ってるし。貧弱過ぎる。


 少なくともレベルが0なのにここまで差があるということは、低い数値がとことん低いか高い数値が異常に高いかのどちらかだ。


 しかし昔から器用さには自信があったけれど、あくまで人より器用というだけで飛び抜けた特異技能の域ではなかった。

 折り鶴を見本のようにキレイに折れても、機械のような狂気じみた正確さは出せない。


 そして筋力といえるものは皆無に等しい。

「えー宮子ちゃん力なさすぎー」と高校の同級生にからかわれてホールドされ、その拘束から逃れることもできずいいようにされてしまう哀れな子羊が私だ。もちろん女子相手ね。


 器用さという数値として換算しずらい能力ではあるものの、器用35という数字を普通の倍程度として逆算すると精神力と幸運の数値前後に収まる。

 3つの数値が一定になっているのは目安として信頼性が高い。

 なので私の中で一般人数値は15前後として設定することにしよう。早く人の数値と比べてみたいものだ。……その時は落ち込みそうだけど。


 一般人の数値を15前後と仮定すれば貧弱な女子高生より更に非力な私が筋力2というのも頷ける。


 男子が握力測定で俺は44kgだぜーとはしゃいでいる横で、私は9kgをマークしていた。

 調べてみたら6歳の小学生1年生と同程度だった。もちろんその晩の枕は涙でビショビショだった。


 私の下は幼稚園児以下しかいないのだ。

 あっ、涙出てきた。


 極めて感覚的ではあるものの、私の見立てはそう間違ってないはずだ。

 つまり、このパラメータが示す事実は……


「私は……とんでもなく弱い……?」


 知ってたけれど。知ってたけれども!!

 身長やスリーサイズコンプレックスを数字にしたためてくれたことといい、目を背けたい現実を改めて文字として突きつけられるのは異世界に来て早くも2度目だ。



 悲しい哉、スキルに続く念願の能力ステータス開示はしょぼーんと落ち込む結果となってしまった。

 泣いてなんか……ないんだからねっ……!!


 私には【破壊の指先デストロイ・フィンガー】という(多分)超絶チートスキルがある!!

 落ち込む時間は終わりだ。

 クリッカーらしくコツコツ強くなればいい。クリックは決して無駄にならない。それがクリッカーというものなのだ。


 『能力値』はまぁいいや。確認は十分だ。



次は『CDMG』と『存在因子リソース』か。


――――――――


CDMG  2


保有存在因子キープリソース

1.1


総獲得存在因子レコードリソース

1.1


――――――――


 CDMGは多分クリックダメージ、つまり1回のクリックあたりのダメージ値だと思う。

 私の貧弱ステータスと同じ数値だけにどれほど威力があるのかはわからないけれど、さっきまでの脆弱つんつんよりはマシになってて欲しい。


 威力を決める『能力値』が解放されてないからエラーになってたんだもんね?

 きっとそのせいでダメージが極端に下がっててお陰で私の右腕はパンパンになったんだよね?

 ハイと言え、ハイと。



 それと『存在因子リソース』。

 これは間違いなくクリックで得られるポイントだね。


破壊の指先デストロイ・フィンガー】の説明には『クリックによって減らしたHPを『存在因子リソース』に還元する』とあった。


総獲得存在因子レコードリソース』は恐らく減ることはなく私が『存在因子リソース』を得るたび永遠に加算され続ける生涯達成スコアだろう。

 蓄積に応じてボーナスなどが得られる可能性がある。


保有存在因子キープリソース』は加算されるけれど『存在因子リソース』を割り振ったらその分減算もされる有限のポイント。

 "強化要素"で割り振るための通貨みたいな扱いなんだろう。

 どちらもクリッカーでは馴染みのあるシステムだ。



 最後に『職業修練』を見てみよう。

 ウィンドウにはステータスとは別枠で『職業修練』というものが追加されている。


 その項目をポチッと押してみると。

 「あーこれが"強化要素"っぽいね」


――――――――


『職業修練』      消費存在因子リソース


【無職LV0】       1


【???】       10


――――――――


 実家のような安心感のUIだ。

 右側に表示された分のポイントを消費して各項目を強化する。


 一度強化した項目は徐々に消費ポイントが増える。

 そして一番新しい項目を1つでも強化すると、より強化幅の大きい新規の項目が解放される。

 消費は少ないけれど強化幅も小さい既存項目と、消費が跳ね上がる分強化値も数段上がる新規項目のバランスを取りながら上手くポイントを割り振っていく、クリッカーの醍醐味の一つだね。



 よかった、これで人類最弱の私でもなんとか生き残る目が出てきた。(まだ引きずっている)

 さすがに大体のクリッカーゲームなら10秒くらいでできる強化が、プレイ開始から5、6分も掛かってたんじゃ不安にもなるよ。


 不安から無理にテンションを上げて自分を鼓舞していた私は、安堵からふぅと息を吐きへたり込んだのだった。

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