第3話 信じる者は救われない、だって邪神だし

「呼び出される方の中に、一定数いるんですが。

 ここは遊戯ゲームの世界にそうです。」


 イズラエルが楽しそうに喋り倒す。

 何故か、六人の少年少女は急に黙り、男の言葉に傾注する。

 特に、呪術言葉ではないと思うが、何か特別な内容のようである。


「まず、このオラクルに登録すると、人の位階レベルがわかるそうです。

 そして適正な職業ジョブ技術スキル、それからそれに伴う能力ステータスの値がはっきりと見えるそうです。

 オラクルは、このイヤルメザの神との繋がりです。

 だから、これを通してオラクルに記された人は、空白の座しはいを分け与えられ、超越者はずれものとなるわけですね。」


 六人は、何故か黙っている。

 そこでイズラエルは続けた。


「この仕組を、招来した人は遊戯のようだと感じるそうです。

 このオラクルに記されると、老いもせず、知性と高い身体能力けもののような、それに不思議ふひつような力が与えられるから余計に感じるそうですね」


 沈黙と少年少女たちがお互いの顔を見合う気配。

 困惑と興奮、不安と期待だ。

 呪詛が今更効き始めたようだ。


「旦那、すげぇ問題点が雪崩のように浮かんでくるんだが」

「声を落とせ」

「大丈夫、がわかる奴らじゃねぇよ。」


「人は努力に対して成果が見えると、とても嬉しいものですよね。

 ここでは、その努力が目に見えて、さらには結果が約束されています。

 であったとしても、ここでは貴方方は貴重な来訪者生贄として、居場所を得る死に場所を選ぶ事ができるでしょう」


「本当なの?」


 問いかけた少女に、イズラエルが何か身振りをしたようだ。

 たぶん、オラクルに促したのだろう。

 それに六人は、オラクルの方へと動いた。

 それまでは未知への恐怖から躊躇っていたのにだ。


「どうしてだ?」

「あの司祭、予想以上に危険だなぁ。まぁやり口を見せてくれる理由がわからんけどねぇ」

使わせる事がか?」

「言葉遊びが過ぎるよね。そうとう根性がねじ曲がってら。聞こえていれば警告は届くんでしょうけど」

「そういうやり方以外は、危険なのだろうか」

「かも知れませんがね」


 素晴らしく有益なオラクルという道具を、この国の住民は来訪者に使わせている。

 つまり、使えないか、使わないほうが無難という事。

 最悪は、オラクルは、普通の人間は使ってはならないという場合だ。

 イズラエルは、付け入らせなければ良いと言っていたが。

 つまり、付け入らせては、ならない代物という事だ。

 もちろん、額面道理受け取ればだが。

 そもそも同じ人なのか?

 イズラエルという神官も含めて、狐は人だといいながら、他のものには人の匂いがしないという。

 死者を呼び出す輩が、真っ当な人間であるはずもない。

 同じ価値観を持っている生き物なのかもわからない。

 そもそも、どんな利害があって戦奴を欲しがるのかわからない。

 わからないことだらけだが、どうでもいいことなのかもしれない。

 かもしれない、などという曖昧な考えは、初めてだ。

 死んで、初めて知ることもあるようだ。

 そもそも死人は考える必要があるのだろうか?

 生前の罪咎を数えたほうが、まぁかも、


「旦那、何笑ってんのさ。

 まぁ面白いっちゃぁおもしろいかぁ。

 あの司祭様、いちおうガキどもに嘘はついてないっぽいけど。それを読み取れるかどうかがなぁ」

「オラクルに触れたか?」

「あぁガキどもが、急にやる気になってる。興奮して喜んでいるが、ありゃぁひでぇ」

「何がだ?」

「司祭もそうだが、オラクルを使わせてる役人がね。まぁ嫌なもの見ちまった。」

「司祭もか?」

「司祭様は、いちおう真っ当だよ。ペテンにかけてるが、哀れんでもいるようだ。

 丁寧に正直に嘘をついて憐れむとか、あの男、十分素質があるね。」

「何の素質だ?」

「旦那の国にもいたんじゃないかい?

 下々に慈悲深い割に、支配層がね。

 慈悲は深いが、感情で物事を判断しない。

 さっきあの男が言っていた素質どうりにね。あの司祭こそ神様の血筋なんじゃねぇの?」

「おもしろい考え方だ」

「これは想像だが、そう考えれば司祭のやり口がわかると思うぜ。

 まぁ同じ人間的な類推だ。当てにならないけどよ」

「それはそうだ。人の形をとってはいるのだろうが、蜘蛛かもしれない」

「そういうこと」

「では、我らに警告する意味は何だ?」

「無難な答えしか浮かばないなぁ、まだ、会話だけだしね」

「まぁそうだな」

「で、どうします。ガキどもが終わりそうですよ」

「ここまでの流れで、そのオラクルを使う利点が見えんな」

「ただの憶測ですけどね。」

「司祭の提案に乗るか」

「おっ決め手は?」

「一度死んでいる。今更だ」

「人生は選択の連続、面白いほうがいいよねぇ。それにどうにもならないですしね」

「他人事だな」

「他人ですしね」


「さて、長らくお待たせいたしました。

 最後の来訪者殿、こちらへ」


 イズラエルに促される。


「さて、ここにはオラクルと呼ばれる道具拘束具があります。

 ただし、貴方は少々、他の方々と違っておられる。

 そこでオラクル邪神魔技師従属者である者どもだけでなく、私がお助けすることにいたしましょう。

 さて、本来なら、魔技師であるこの者。

 魔技師とは、邪悪道具拘束具を扱う者ですね。

 そして魔の道具とは、忌神空白の座という我が臣民盲目の民の仰ぎ見る神の道具の事です。

 この道具、神具とは呼ばず、魔の道具と呼称します。

 まぁ小難しいお話は省略しますが、神具とは違い、偽魂邪悪を宿している特性があるからです。

 つまり、これには忌神の意志のような何かが入り込んでいます。

 そこでそのご機嫌を伺う者を魔技師としております。

 さて、この魔技師は、私のような神使えの下位職階に当たります。

 つまり、魔技師のお仕事は、私のような司祭もできるという事。」


 ここで言葉を切ると、司祭は魔技師の方へと気配を移す。


「この最後の方は、どうやら不完全な召喚になっているようです。ですので、私の方で吟味したいと思います。

 魔技師程度の能力では、会話も成り立たないでしょうから、私が引き継ぎますね。

 お前は、あの集団を遠征部隊アケロンへ案内なさい」

「長官様、アケロンでよろしいのですか?」

「彼らは神への理解が足りない。アケロンの長へと渡し、私が直接指導させていただくと伝言なさい。

 それから、この御方は少々傷みが激しいご様子、なので、この方も、アケロン預かりで事をすすめる事になるでしょう。

 もし、他の誰かが口を出すようでしたら、イズラエルがお話を伺うと伝えなさい。

 私は、いつでも、お話をお伺いするとね。

 そう、それでもなにか云いたげでしたら、ご面倒をみてさしあげると付け加えなさい。」

「かしこまりました」


 オラクルが置かれた場所の近くの気配が離れる。

 同族の臣民であろう魔技師の気配は、怯えきっていた。

 そして司祭は、とても機嫌が良い。

 傍らで、狐が嫌そうに息を吐いた。


「さて、オラクルに宿るモノの耳目は、いつでも忌神へと繋がっています。

 故に、私が撒き散らす愚かな言葉を鵜呑みにせず、まずは、これへと対話を試みてください。

 貴方が何者であるかを忘れず、謙虚に、真摯に対すれば、それはへと意志を繋ぐでしょう」


 狐は沈黙し、私も沈黙した。

 探る気配に何かが風に蠢くものをみつける。

 蠢いている。

 水面から見た水茎か、睡蓮の花か。

 確かにそれは存在し、呼吸をし蠢いているように思えた。


「本だ。小さな革表紙の本だね。古い装丁で、紙面は黄ばんでる。中身の素材は、何だろうね。普通に見えるね」


 黙っていた狐が補足する。


「紙面に文字は無いよ。無地だ。けど、ツクモガミと同じで生きているよ。それに重い。

 霊的な重さって奴だよ。

 俺が砂粒なら、これは空に輝く燃える星ってぐらいの違いだよ。

 これは壊す事は無理だね。

 理の1つだ。

 こんな邪悪な代物を飼っているなんて、ここはやっぱり地獄なんだね。

 それにこれ、本来は違う使い方するんじゃないのかい?」


「えぇ本来は、臣民罪人義務果たし償い心を尽くす命乞いをする為のモノですよ」


「なんとなく、俺が事は、正解なのかい?」

「どんな考えか終わりにもよりますが」


「どういう事だ?」


「ファルコの旦那。まぁひとつ、このオラクルとやらと話してみましょうか。」

「仮病を使わぬのか?」

「話してみて、通じないなら、そこで盛大に倒れましょうぜ」

「仮病と堂々といわないでほしいのですが」

「そっちが最初に言ったんだろう」

「まぁそうですね、では騎士殿。オラクルにお手をどうぞ」

「手は動かぬ」

「おぉそうですね。では、、騎士殿が動けるようにお願いします」


 フッと両手が自由になる。


「どういう事だ、狐?」

「司祭のまじないですよ。動きますか?」


 こわばって指も動かない。だが、前に差し出す動きはできた。

 そのまま、蠢く気配に手を乗せる。

 ジュッと焼ける音と匂い。

 大丈夫なのかと思うが、静止は受けないのでそのまま待つ。

 だが、何も変化はなかった。


 大言壮語、それぞれが言っていたような変化も、魔の気配も、何も自分には訪れなかった。

 あいも変わらず、薄灰色の世界を見るだけだ。

 地獄はあるのだから、私の知らぬ神はいるのかも知れない。

 そして神を信じられぬが、敬う心は残っている。

 信じきれなかった、だけだ。

 いつもいつも、裏切られた。

 人に、自分に、裏切られただけだ。

 与えられずとも、否定したのは自分だ。

 それは自分自身のあり方だ。

 死んでは今更だが。

 皮肉にも、死んで楽になり、こうして皮肉も浮かぶ。


 さてと、改めて気配をさぐる。

 司祭の気配。

 多分、壮健な男の息遣い。

 体を動かさない者とは違う、腹を通すようなゆっくりとした呼吸だ。

 意識を他に動かす。

 人々が集まり呼ばれた広場では後片付けをする人々の騒々しくも忙しい雰囲気。

 異常な筈なのに、やけに生活じみた活況。

 狐の言う、人とは少しズレた感覚があった。

 確かに、見知った人の気配とは少し違う。それは司祭も同じで、狐の言うほどの違いはあまりわからない。

 それから子供らが流れていった、来訪者の集団の気配は、どんどん遠ざかっていた。

 それに合わせて巫覡の呪詛も小さくなっていく。

 という事は、巫覡とやらは、あの集団に同道しているのか。

 さてと振り返り、狐の気配は何故か薄い。

 代わりに目の前のオラクルは相変わらず、不可思議に蠢きざわつく。

 だが、何も問いかけても来ず、なんら動きはなかった。

 どうしたものかと戸惑う。

 静かだ。

 静かで、湖面を眺め岸辺に立っているような気がした。

 故郷の美しい湖沼を。

 春の朝靄の中、一人、馬に乗り。

 風に吹かれて景色を眺め、遠く青い稜線を見。

 彩り鮮やかな花が咲く。

 何ら憂いなく、争いもないような眺め。


 過る思い出の中で、不意に摩耗していた痛みが胸に走る。


 背後の狐、その他に


 御令嬢と御令息...


 私に子供はいない。

 だが、娘と息子ではなく、妹と弟はいる。

 異父兄弟である弟と、政略の為に、従姉妹を父母の養子にしたことが。

 まさかそんな、と気配を探る。


 彼らも死んだのか?

 私が捉えられて処刑されるまで長い月日がたっていた。

 だが、彼らとは捕縛よりずっと前には縁を切っていた。むしろ、私に酷い行いをされた者だ。

 連座の処置の時も名さえ上がらず、私の弱みとなる材料にもならなかったはずだ。

 どういう事だ?

 恨んで私に取り憑くのはよろしい。

 だが、それは彼らが死んだということになる。

 年若い彼らが、死んだ?


(否)


 声が聞こえた。

 子供の声だ。


あるじの弟は、病没である。

 主の妹は、貧苦にて死すが、主が原因ではない。)


「オラクルであるか?」


われ空白の座を守るモノ也。)


「何故、急に答えた」


(問われた故)


「彼らはどうなる?」


(主に寄り添い訪れた者故、どうにもならぬ)


「どういう事だ?」


(主は、依代よりしろを使役する者也。

 招かれし者であるが、空白を埋める為の者ではない。

 故に、吾が与える者ではない。

 八の座から恩恵を受ける者故に、使役する者也)


「意味がわからぬ」


(主の口として呼ばれた者に聞くが良い。

 そして八の座から恩恵を受ける者故、未だ、主は死者也)


「よくわからぬが、つまり、お前の支配は受けぬという事か?」


(摂理神のしもべを下神が従えるものではない。と呼ぶは言葉遊びではない)


「それ以上、会話をすると支配がまわりますよ」


 司祭の言葉に、何故かオラクルが先に答えた。


(確かにそうだ。吾は支配するモノ故、離れるがよい。そして次に繋がりを持つならば、使役者を介すがよい)


 オラクルの蠢きが止まり、微かな温かみも消えた。

 ざらつく紙が焼けたのか、ボロボロと崩れる感触がある。

 手を戻すと、イズラエル司祭が笑った。


「仮病をつかう必要はありませんね。

 騎士どのは、既にをお持ちのようだ。付け入るどころか、オラクルがひれ伏しておられますよ」


「そりゃ言い過ぎだよ。どうやら、旦那には、先に誰か偉い神様がをつけているから、かかわり合いになりたくねぇって事らしいや」


「狐、お前」


「旦那、あんまり深く考えなくていいよ。

 つまり、俺は、旦那と組んだほうがいいって思ったから、いるんだよ。

 それに旦那には、他にもからね。」


「どういう事だ」


「ここの神様と話した所為かね?よく見え始めたよ。」


 ちゃんと説明しろという前に、狐は少し笑って続けた。


「焼け焦げの姿。

 鎧は西洋甲冑だね。

 でも、死んだ時は焼けて素っ裸じゃないの?

 きっとその鎧もかもなぁ。

 目は呪符みたいなので封じられてるよ。

 髪も殆ど焼け焦げてざんばら、死体より化け物っぽいなぁ。

 それから手足は見える限りくっついちゃいるが、甲冑下の破れから骨が出てる。それでも多分、動けるぐらいには治ってるねぇ。

 さて、両腕を縛ってたのは、子供二人だ。

 言わなかったわけじゃなくて、ちゃんと見えなかったんだよ。

 二人共見えたからね。

 たぶん、あんた両手を自由にしちゃならない理由があったんだろう?」


「何を言ってる?」


「たぶん、旦那は、そうとう強力ななんだよ」

「オンリョウ?」

「旦那に縁のある魂が一生懸命、旦那を引き留めてる。きっとここに呼ばれたのは、その力の所為だ。ん?」


「どうしました?」

「司祭様よ、アンタは見えるかい?」

「うっすらと」

「そうかい」


「どういう事だ。きちんと話せ」


「騎士殿は、揺らがぬのですね。

 恐れも見えず、苛立つ程度。

 オラクルとの会話もそうですが、度量の大きな方なのか、愚かにすぎる方なのか」


「死者が何を恐れるのだ?それこそ滑稽であろう」


「そうでございますが、乞われた方は違うのでしょうかねぇ」


「考えるに、この旦那は坊さんで兵なのさ。

 それも戒律の厳しい坊さんで、色も欲も削ぎ落として、自分を苛め抜くような修行を悦んでするような部類さぁね。」

「そうなんですか?私とは真逆ですね」

「ユルそうだもんね、司祭様は。

 で、聞いた所によると、もともと旦那は聖人みたいな奴だったってさ。

 元の生国じゃぁ、旦那を王様は、最後は酷い死に様だ。そんで旦那が呪ったって云い出したやつがいてさ。

 すごい勢いで、その噂が広がったらしい。

 旦那のいた騎士団を壊滅させた王様の勢力は、殆ど不慮の事故とか病気とかで若死にしたり、財産を亡くしたりしたそうでよ。

 結局、国そのものも傾いて終わったそうだ。」


「いや、呪いなぞ馬鹿らしい。

 あの王は借金を踏み倒しただけでなく、もともと財政を傾けるような無能だ。借金相手の騎士団を壊滅させて帳消しにした所で、もともと破綻していたのだ」


「あ〜なるほど。まぁ国の要の武力集団に借金して踏み倒した挙げ句、皆殺しにしたらそうなるよね。国の守りを自分で無くしておいて、他の国に滅ぼされるとか。

 でも、その旦那が呪って国を壊滅させたって噂?が、旦那の今になるんだよ」


「話が長くなりそうですね。片付けの者がこっちに来る前に撤収しましょう。」


 ***


「あれが普通なのか?」

「普通ってなんです?」


 オラクルの間から移動を促される。

 狐は人として数えられていなかったので、オラクルに導かれる事はなかった。

 どうやら、めしいの自分はわからなかったようだが、狐は人ではないらしい。

 召喚はされたが、周りにはモノらしい。

 ただ、神事を預かる者には見えているし、そういった来訪者もいるので、疑問も持たれていなかったようだ。

 ただし、人と同じ扱いはされないらしい。

 この国にも、そういったモノを扱う魔女、巫覡が彼らを使うらしい。

 まったくもって、これが異端者の幻覚ならば、理解しやすい事なのだが。

 現実は、死者である自分の頭が腐敗しているのか、本当にそういった使い魔のようなモノがいるかだ。

 再び、両腕は後ろで固く抑えられた。

 特に縛られてはいず、ただ、固定される感じだ。

 狐や司祭が言うには、子供が二人がかりで手首を掴んでいるそうだ。

 どんな格好だ。

 少し、可笑しくて、なんとも奇妙にやるせない。

 それも弟、妹だという。

 縁薄いはずが、このような異界にまで縁者として同道するとは。

 何故か、ここにきて初めて後悔のようなものが浮かんだ。


「あぁ、普通は違いますよ。

 来訪者のお生まれになった場所や環境によって、見える形が違うそうです」

「文化、文明の発達具合で見え方が違うってことかい?」

「えぇ、そうですね。

 お見受けしたところ、騎士殿は我々臣民の文化に近いようですね。我らがオラクルに触れると同じような感じでしょうか。」

「そりゃ、オラクルは生き物だから、話しかけ方で対応は変わるよなぁ」

「ご明察」

「じゃぁ何であんなペテンをしかけたんだい?」

「ペテンとは?」

「とぼけちゃってぇ、だって、あのガキどもに最初に言ったじゃねぇか。これは遊びに似てるってよ」

「別に嘘ではありませんよ」

「それで騙されるのはファルコの旦那ぐらいだぜ」

「どういう事だ?」

「さっき旦那とあの魔道具は、普通に会話しただろ?」

「あぁ」

「それが普通かと旦那は聞いた」

「そうだな」

「つまりな、この司祭はガキどもに先にオラクルって奴は、こういうモンだっていうペテンをかけたんだ」


 歩きながら、良くわからずに首をひねった。


「旦那、見た目がバケモンみたいだけど、ちょっとなれてくるとたいぶトボけたお人ってわかるわー」

「何だそれは」

「後ろのお嬢ちゃんとお坊ちゃんも頷いてるよ。

 まぁそれはそれとしてだ。

 つまりよ、遊びと同じだよって勘違いさせたんだよ。

 だから、ガキどもは遊びと同じだと勘違いした。

 本来得られるはずの情報を問う機会を逃したんだ」

「何故だ?」

「その問いは、私にでしょうかね。

 1つは、オラクルの毒を弱める為ですよ。

 聞こえない者は、隙間が多い。

 だから普通は、こうなります。

 まず、名を問われる。

 すると貴方は名を答えるでしょう。

 次に年齢を聞かれます。

 次に、貴方が欲しいモノを聞かれます。」


「話す内容に意味は無いって事だよな?」


「あぁすみません、言葉が足りませんでしたね。癖になっていましてね。

 意味は無いですよ。会話によって支配が深まると、1つ力を与えられるのです。

 あの馬鹿将軍の場合は、再生能力です。不死の下位能力ですが厄介ですよ。痛みにも強いですし死ににくい。まぁ、復活するたびにならないのであまり良い能力ではありません。ちなみに飢餓が反転能力です」


「聞くまでもないが、つまり、能力には代償がつくのかい?」


「タダで力を得るには、努力が必要なのはあたりまえです」


「気前よく喋り倒すねぇ、で、本心は?言わねぇか」


「たまたま口を滑らせているだけですよ」


「俺、常時喋ってるけど、狙って口を滑らせるとか、そんな悪意を自然にたれ流せるって尊敬だわ。」


「ありがとうございます」


「尊敬するけど褒めてねぇ。ちなみに不老不死はあるのかい?」


「不老と不死、それぞれの能力はありますよ。

 ただし、不死には不老の能力、不老には不死を得る事はできません。

 そして不老不死という2つの能力が両立しないのと同じく、不老にも不死にも、の能力はありません」


「うわぁ嫌な感じぃ」


ですよね」


「忌神様ってのは本当に、アラガミ様なんだね」


「臣民は神を空白の座リィアドゥブと呼びますが、忌神様グゥフェルシッスという呼称を理解できないのですよ。

 このをよく覚えておくと、この国でがわかります。

 ここには光りをが働く場所です。

 だからこそ、空白の座、忌神様がおられる。」


「旦那の国の言葉に治すと、空白の座が。忌神ってのは、まんま、って意味だよ。」


「だが、


「騎士殿の言う通りでございます。

 何かはいますし、何か魔物もいますね。

 祈れば石ころでも御神体ですし、声高に上の者が言えば下は信じますよ」


「同じような言葉が生国にもあるぜ」


 何故か二人は楽しげに爆笑。

 石作りなのか、通路に反響する。

 会話がもれてもいいのか、この会話も聞かれても理解されないのか。内緒話という雰囲気でもない。


「感化を与え、庇護するのか?」


「わかり合うことは大切ですよね」


「紛らわしい言い方すんなよ、司祭様」


「どういう事だ?」


「長く接触すると毒が回るんだろうさ。

 それも能力がだ。

 一見すると優れた才能を与えられた感じだけど、力は鎖だ」


「餌か」


「そういう事だよ。

 だから、支配下から逃れるには無力になるしかない。

 地の力があれば別だけどね。

 つまり、有用な力なんてものは無いって俺は思う。」


 狐の意見に、司祭は嗤うばかりだ。


「でさ、このな質問時間を有効に活用する事もできる。

 旦那だってお話しただろ?

 オラクルは知性みたいなモノを示す。

 正しく答えてくれるかは別に、ここの奴らとは別の見解を示してくれるかも知れない。

 けれどだ。

 この司祭様は、よ。

 ガキどもの質問の時間をとれなくした、だろ?」


「明確な観念を示せば、オラクルはそれにのです。

 こうである。と、救われる終わるのです」


「やだやだ」


「どういう事だ、狐」


「能力が1つ、他には何がおこるんだ?」


「彼らにも云いましたが、強靭になって死ににくくなります。それぞれが得意とする能力が上がるでしょうね。ただし、怠けていれば、普通の人々と同じく能力は伸びませんよ」


「俺と旦那は、同じ場所だが、あのガキどもも同じにしたのは、どうしてだ?」


「神の思し召しですよ」


「くりかえすが、よくわからない。どういう事だ?」


「けっこう周りに人がいるんですよ、だから、もうちょっと耳目が消えてから説明しますよ」


「気にしているようには見えないが?」


「悪いようにはしませんよ。

 悪意だらけの私でも、それでも一粒の良心はあるかもしれません。」


「あるかもなんだぁ」


「アケロン以外だと、彼らは持たいないという事です。」


「アケロンってのが、異国へ戦争する集団なのかい?」

「いいえ、アケロンは講和を結んだ国へ、に出る集団です」

「マジか」

「それ以外は、支配地域の害獣退治や治安維持に回ります」

「そんな仕事に死者を呼ぶのは変だろ?」

「イヤルメザ王国は、必滅が必要な化け物の生息地中心にあるのです。この説明は、落ち着いた場所についてからです。」


 通路は複雑で、空気の流れが四方からある。

 砦と誰かが言っていたが、どうやら、砦外角の壁から、建物の内部へと向かっているようだ。


「最後の子供達は、なかなか見どころがある。

 外見と中身が同じ成長具合とし。

 誘導どうり、オラクルもそれに答えたはずです。

 初期の能力は、きっと先に集まった者達より低いでしょうが、隷属継承を行える調節もできたので制御しやすいでしょう」


「この司祭は何を言っているんだ?」


「つまり、非人道的な事を平然としたって事ですよ。オラクルの支配を弱めて、この司祭は自分の持ち駒としてガキどもを使うってことです」


「ほぅ」


「反応薄っ!」


「どうした?」


「いや、人道的にどうとか」


「人道とは何だ?」


「そういや、旦那、古い人だった。もういいや、で、どこに向かうんです?」


「まずは、こちらに慣れていただく為に、基礎の訓練や色々学びましょう」


「司祭のところで?」


「私が今度、動員する遠征部隊アケロンですね」


「説明してくださいな、司祭様よ。それから旦那、具合は大丈夫かい?」


「難しい話は、疲れる」


「旦那の生前が、ちょっと知りたくなってきたよ。もしかして腕力暴力大好きっ子とか?

 えっ、違う?

 むしろ頭脳明晰、信心深くて、まさに聖人様?

 え〜そんな感じしないけど?

 無口で冗談も言わない?

 ウソウソ、この人、きっと香ばしい親爺な冗談飛ばす人だよ。」


「なんとなくだが、弟妹と会話しているのか?」


「うん、まぁね。

 堅物の聖人君主とか、古い時代の君主、つまり貴族様だよね。死んで性格かわったとは思えないから、きっと素は、本当におもろいお人やったんやなぁ」

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