第7話 組合用語:ロドム(ロプへ至るゴンドラの鍵の意)

 散々笑って、最後に頭を下げられた。

 意味がわからない。

 意味がわからないが、腹も立たない。

 アリキの機嫌が良いからね。

 大きな鬼の人がニコニコしている。

 そりゃもう、とても平和な笑顔だ。つまり、今は安全だし、怒ってないし、自分は大丈夫って事だ。

 さっきのトロタール?が何なのか、トロッタルってどういう意味なのか、もう、全部不明だけどね。

 言葉もわからん、推定奴隷だし。

 同行者の機嫌が良くて、知らない間に、何か上手くいったんなら、どうでもいいやって事だ。

 そしてアリキの懐からジャーキーが取り出され、食え食えと渡される。

 謎肉のジャーキーだけど、塩っぱくて美味しい。

 緊張の後だったからか、なおさら美味しくて、カジカジするのだけに集中した。喉が渇くけどね。

 アリキの懐には、おやつ袋がいっぱいなのか?

 噛み噛みしてると、アリキが立ち上がった。

 自分に向かっては、そのままでという仕草。

 彼は、他の奴らが入っていった、そしてトロタールが消えた通路に近寄った。

 耳に手を当てている。

 アリキは耳がいいのかな?

 天井からはクラゲがフヨフヨ下がってきた。

 あのクラゲ、危険信号予知機で使えそう。戦ったりしないのは、それもありそうだ。あの大蜘蛛と同じにね。

 やっぱり知識のある人とじゃないと、この穴には来ちゃいけないと思う。

 ゲームだって初心者は一階を周回してレベル上げしなきゃだし。

 あのトロタールだって、猫みたいだったけど、クラゲと同じで凶暴になる切っ掛けがあるのかもしれない。

 何か紫色の燐光吐いてたし。

 大きいし得体が知れないし。

 背中はスプラッタだし。

 まぁそれはそれとして、そのトロタールは彼らの方へ向かったわけだ。

 そこではたと気がつく。

 アリキは、アレが追ってきているって意味で上を指したのか?

 そして追っかけてるのは、三人だ。

 えっ?ってなった。

 三人がトロタールじゃなくて、三人をトロタールが追いかけてる?

 そしてアリキは渋い顔をしていたよね。

 つまり?

 ジャーキーを齧ることに専念しよう。

 怖いから考えないのだ。

 下に向かった五人は戻ってこないし、おやつのジャーキーも食べきった。

 まぁ黒砂糖みたいなのもまだあるし、お水もある。

 食べ物とお水は大丈夫だね。

 困るのは暇だってこと。

 そこでアリキと意思疎通のゼスチャーを確認する。

 まぁだいたい同じってことの再確認。

 肯定否定の仕草のバリエーションとかね。

 数の概念は、十進法っぽいと思う。

 ちなみにアリキの指は五本。

 他の種族の人は、色々。

 手の形も違って見えたし、まぁ人形ひとがたとしては、類似点も多いのかな。

 大きい小さいとか簡単なハンドサインもお互いにできるようにする。

 さっそく五人はどうなのって感じで指をさして見る。

 それにアリキは肩をすくめた。

 さぁねって感じだ。

 パラダイムの共通点があるって素晴らしい。言葉以外で何となく会話ができてる。

 トロタールって言ってから、三人って感じのハンドサイン。

 それにアリキは笑って頭を振った。

 渋い感じはすれど、それほど深刻そうではない。なんだろう、前の反応と違う。

 じゃぁ双子はって?聞いてみる。

 わからんって感じかな。

 どれくらい待つんだろう。って考えていると、微かな音が聞こえた。

 アリキがあぁって感じで立ち上がる。

 戻ってきたようだ。


 ***


 三人組は一人がボロボロだった。

 双子は、片方が背負われている。

 隙間から見て取れたのはそれだけ。

 アリキは表情を変えずに、唇からため息を逃した。

 斧の男の兜がひしゃげて、負傷しているのかほか二人が引きずるようにして歩く。

 そして双子は、赤い耳飾りのほうが兄弟を担いでいた。

 アリキが彼らに何かを言った。

 それに三人組の内、槍の男が怒鳴り返した。

 怒鳴り返して、あろうことか担いでいた仲間を転がした。

 どういう事だと見ていると、意識がない仲間を振り捨てて二人は戻っていく。

 それを相手にせずに、アリキは双子の方へと声をかけた。

 静かな言葉が続く。

 すると、双子、担いでいる方は、ボソボソと何か言ってから、背中から兄弟を下ろした。

 何事かアリキに言うと、朦朧としている兄弟に話しかけてから、他二人が消えた通路へと、彼も又戻っていく。

 どういう事だ?

 それからアリキは、意識のない斧の男の体を調べた。

 怪我をしているのはわかる。

 アリキは無造作に状態を調べ、あっちこっちひっくり返す。

 それからけが人の荷物、革袋から麻袋みたいなのを引っ張り出した。そしてその袋を適当に引き裂いて男を縛った。

 傷の手当というよりは、手足を縛ってまとめた感じ。

 それを何故か彼はひょいっとになう。

 あれ?それ荷物だっけ?

 それから黒丸の袋の上に下ろす。

 つまり、とんでもない絵面だけど、これ自分が担ぐ荷物ってこと?

 うわーって見てると、アリキが平然と血まみれの男を、大荷物の上に置いてバランスを見ている。つーか、それ死体じゃないよね。

 グロくてシュールな絵面だが、アリキは面倒くさそうに怪我人を縛り付けた。黒丸の袋はモコモコ柔らかいので、きっと寝心地は良いかもしれない。毒だけど。

 それで自分に向かって担いでみろって促される。

 まぁしょうが無いんで、背負子の紐に肩を通す。ゆっくりと重さを体に置いてから、立ち上がるべく足の位置を決める。

 バランスが多少悪いが、気になるほどでも無い。

 そして相変わらず、意識不明の男一人が増えても、重さは感じなかった。むしろ感じなさすぎてバランスが取りづらい。

 担げるのを確認して、アリキは朦朧としている双子の片割れを背負った。

 そっちは人間扱いなんだね。

 で、アリキはさっさと瓦礫の階段に向かう。

 つまり、帰るのか?

 こっちの疑問に、アリキは上を指さした。

 スタスタと振り返ること無くアリキは進む。

 その背中を見てから、一度、あの赤い絨毯の通路を振り返った。

 帰るのか。

 彼らは、帰らないのか?

 良くわからないが、アリキに続いて瓦礫の階段に向かった。

 リタイアした二人を上に戻すのを優先したのかな。

 良くわからないが、何となく嫌な感じだった。

 まぁこれで楽しかったらサイコパスか。


 で、ここから大冒険だと思うでしょ。

 でもね、行きの苦労なんてなかったみたいに、短時間でゴンドラのところまで戻れちゃったんだよ。

 何でか?

 それはやっぱりアリキ先輩が、先輩でベテランでプロって理由。

 説明しろって?

 うん、そうだね。

 じゃぁ怪我人を受け取ったところからか。

 他の二人と弓士の姿が消えると、アリキは一言、何かを言った。

 多分、罵倒だろうか、馬鹿にした何かだ。

 それからアリキは、自分の角灯を腰から外し、蓋を開けた。

 彼は自分に向けて、ゆっくりと何かを語りかける。

 わからないけれど、向こうも通じないのは承知だ。

 けれど、ここからは二人だけの行動だって意味かな。

 怪我人はカウント除外。

 彼の胴体に縛り付けられている弓士は、昏倒して頭がグラグラしてるしね。

 そんな背中の怪我人を他所に、アリキは自分の方へと角灯を見せる。

 中はブンブンしてなかった。

 代わりに桃色のキラキラした液体が半分ぐらい満たされている。

 もちろん、自分のブンブン言ってる角灯を開ける勇気はない。たぶん、アリキの角灯とは違う..のか?気になるぅ。

 それにアリキは、見えるように白いプルプルした小さな角砂糖型の物を二個投入。

 そんで角灯からは煙がモクモクした。

 ちょっとお花みたいな香りがする。

 そんで蓋を閉める。

 煙は隙間から漏れ出して、思ったより煙い。

 と、その辺に転がっていた棒切れに角灯を吊るした。

 はい、終了。

 どういう事かって?

 提灯のように先に捧げ持って、モクモクを振りまきながら進む。

 するとあら不思議。

 通路から不穏な気配が消えちゃうのである。

 クラゲも、何すんだよって感じで部屋の隅に引っ込んだ。

 これってば虫よけ、蚊取り線香、モンスターバージョン。

 このモクモクを下げていると、モンスが近寄ってこないのだ。

 スライムもゴブゴブも蜘蛛だって何だって近寄ってこない。

 あの歯車の蜘蛛なんて、どうもどうもって感じで歩脚をあげちゃったりした。

 アリキのモクモクを見ると、ササって奥に引っ込んで歩脚をバンザイ。

 恐ろしげなモンスが、なんとなくコミカル。

 ゴブゴブなんて、鼻を抑えると逃げていく。

 スライムはビローンってなって溝に引っ込んだよ。

 驚いていると、アリキは苦笑いだ。

 つまり彼ら五人は、本当に、ダメダメだったらしい。

 ずっと、アリキが呆れていたのは、この所為だと納得。

 超初心者の自分が穴に入ったのは、本当なら安全に仕事ができるはずの場所だったからだ。

 でも、アリキにしてみれば、悪い事例を見せる機会だからってところか。

 自分が片手間で対処できる状態で、危険な目にあった方が理解できるってことかな。

 このちょっとした違いが生死を分けるんだぜって教え?

 笑えない。巻き添えで、自分が死ぬって意味だもん。

 そうして帰り道は、何ら障害物もないので、単純な移動距離だけの時間しかかからない。

 ゴンドラが留まっている場所に、行きの半分も時間を喰わずに戻った。そうして昇降機の蛇腹の扉、その右側にある溝に何かを差し込むパイセン。

 差し込むと稼働音がしてゴンドラの灯りがつく。

 一連の動作を、見えるように実演。

 差し込んだ物は金属の彫刻が施された棒だ。

 鍵かなぁ?


「シュルゥセンファン、ロドム」


 それはロドムって言うらしい。なるほど。

 それを差し込むと停留中のゴンドラが動き出すってわけか。

 ちなみにゴンドラは3つで、1つあがると1つ下がるようだ。予備で1つが下で待機って感じ。

 乗り込んで腰を下ろすとため息が出た。

 緊張してたからね。

 さすがに怪我人担いでリラックスは無理。

 アリキは、担いでいた弓士の男を横たえた。

 顔色が悪いし、唇は土気色だ。

 浅い呼吸に、外傷は利き腕。

 ここに来てから、手際よくアリキは応急処置をした。

 下でしなかったのは、止血だけはしてあったからかな。早く医者に連れて行くほうがいいだろう。

 腕、とれそうだ。

 止血された上腕に、とれかかった腕。

 マジマジと見ているのに、何故か怖くなかった。

 血が流れいないからかな。

 取れかかった腕の先からは綺麗な断面だけ。まぁそれでも何故か怖いとか慌てる感情がわいてこない。

 どこか遠くて、もしかしたらパニックの前兆かな。

 それでもアリキが手招くので、側に寄る。

 荷物は下ろしてあるし、斧の男は放置。

 まずは、双子の片割れの方って事かな。

 アリキは止血してある部分、上腕の切れ口を洗う。弓士自身の荷物にあった水だ。それから断面にアリキの持ち物、小さな陶器の瓶から薬?をぶっかけた。

 すると薄く煙があがって、断面に皮膜のような物が覆う。

 それを皮一枚で繋がっている方へもかける。

 とれそうな方を弓士の服を裂いて体に括り付けて終了。

 その間、本人は意識がなくて良かった。

 出血が少ないので死なずに済みそう。でも、普通ならとうに死んでる重症具合。

 切れ口が骨まで断たれた綺麗さも不穏だし、なぜ、出血が擦りむいた程度なのかも謎。それとも、これも異界だからか?

 まぁ謎は解けないので、次は斧の男だ。

 斧の男は金属装備だ。

 その兜が変形して脱げない。

 アリキが力づくで引き剥がすと、兜はもう使えない程壊れた。

 兜のおかげが、中身は見た限り割れても凹んでもいなかった。

 アリキが男の瞼を指であけて目を覗き込み、血まみれの顔面をよくよく探る。

 それから全身を探る為か、装備を引き剥がした。

 もれなく全部、壊れた。

 脱がすと言うより、引き裂いてポイ。

 でも相当打撃をうけているので、普通じゃ脱げない。

 そしてその鎧も高級だったのか、中身は見た目ほど痛めつけられていなかった。

 鎧表面は幾筋もの深い傷が走っていたが、中身までは到達できなかったようである。

 アリキがぞんざいに扱っていたのは、弓士が重症で、見た目よりこっちの男が軽症だったからだ。

 まぁ比べればって話。

 交通事故にあったぐらいの衝撃を全身に受けていそうだ。

 骨が無事でも本当の中身は医者に見せないとわからない。

 敢えて起こさずに、アリキは男を再び荷物にくくりつける。

 壊れた鎧一式もまとめると縛り付けた。

 扱いが酷い。

 でも、まぁアリキからしたら、連れ出してやるだけ有難がれってところかな。

 しかし、こんな何の準備もしないで突っ込んでいくのが普通なのか、それとも珍しい事なのか知りたい。

 だって、これから自分がする仕事がこれである。

 突っ込んでいく奴らの荷物運びだ。

 いや、これが悪い例だとして、どうやってこういうハズレを引かないようにすれば良いんだ?

 う~んと腕組みしていると、アリキが何故か自分に向けて長々と喋った。

 繰り返すが、言葉は一切理解できない事はお互い了解済み。

 けれど、大ぶりのジェスチャーをしながら喋る。

 アリキは、意識のない斧の男を指さしてトロタールと言って、ダメダメというジェスチャー。

 それから弓士を指して、ダメ出しだけ。

 つまり、駄目なやつと組むと、こうなる?

 わからんなぁって思ってると、アリキは自分自身を指さしてから、こちらを指さした。

 そして、両方の手の人差し指を立てて、一緒に動かす。そうして最後にこう言った。


「ヌガー、ズーザムン」


 ゴインゴインと上昇するゴンドラの中で、アリキを見上げる。

 にっこり笑う鬼の人。

 たぶん、こう、先輩は言ったようだ。

 自分が当分一緒にいるから、大丈夫。

 こんなダメダメは滅多に無いから。

 って所かな?

 早く、言葉を覚えたいなぁ。

 全部が妄想とか、そういった考えは無い。

 夢だと思いたいが、もう随分と異界にいるしね。

 異界だよね。

 ゴンドラが上に到着して、人の気配が戻る。

 異界らしく怪我人を担いでいても、特段、注目なんてされなかった。

 逆に、竪穴の側にある管理事務所みたいな所にいた兵士が爆笑してくれた。

 怪我人を見て爆笑。

 何が笑えるのかわからないが、アリキも笑っているところを見るに、この穴で怪我して帰ってくると笑われるらしい。もちろん、違う意味だろうけどね。

 人手が呼ばれ、弓士が運ばれていく。

 それを見送る兵士達の表情は渋かったし、自分の荷物になっていた斧の男に対しては、まったくもって嫌そうだった。

 たぶん、あの爆笑はアリキに対しての何かで、今回の怪我人については苦々しい事態って奴のようだ。

 ただ、それは怪我人に対してだけで、自分の担ぐ荷物を見ては別。

 兵士と手続きに出てきたお役人ぽい人には、何故かニコニコされた。よくできましたって感じで頭を撫でられる。

 いや、このお役人も、1つ目系の巨人タイプのお姉さんだったけど。何故か、皆大きいからさ、手の位置が頭なのよ。

 そんで良くできたね、荷物はあっちね。って感じで教えてくれる。

 アリキは役人とやり取りしてて、行ってこいよって感じで同じく指を向けた。

 大勢の穴から出てきた荷担ぎが並ぶ場所へと向かう。

 これは竪穴の横にある兵士の建物に続く役所みたいな所から更に奥に位置している。

 大勢の人が流れるようにロータリーになっていて、手前から役人ぽい人が人の流れを捌いていた。

 長衣に、多くがサイクロプス系の人で構成されている。見た感じ、なんとなくお役所の人っぽい感じなので、勝手に役人っていってるだけだよ。

 で、その役人の人は、やっぱり自分を見るとニコニコした。それから何故か、個別に案内してくれて荷物を下ろす場所から渡す場所まで連れ回し、最後に監察?奴隷札の確認をしてヨシヨシする。

 あれ?何かやっぱり犬あつかい?

 まぁいいけど。そんでアリキが遠くから何か、そのヨシヨシする役人に言って終了。

 まぁ予想しなくても、アリキ先輩の持っていた割符が頭上を飛んで、その役人がキャッチ。手続き完了ってところだろう。

 最後、手続きを省略したのは、自分が言葉を理解していないからさわりだけの説明かな。

 確かに、ここで荷物を下ろすってことだけ、今回は覚えていればい良いのだろう。

 そんなこんなで怪我人と荷物は片付いた。

 これからどうするかって思っていたら、アリキは最後に食堂に向かった。

 行って帰っての時間は、トータルすると短い。

 行きだけは時間がかかったけど、帰りは本当にあっと言う間だ。

 ランチタイムは過ぎていたが、それでも遅い昼を食べている人たちがいる位である。

 アリキは厨房に声をかけると二三品肉料理を調達。

 自分の前にも料理をとりわけて食事となった。

 下でも食べたけど、あれは本当に携帯食というかカロリーバーみたいなもんだ。

 肉料理を前にすれば、いくらでも入った。

 ちなみに、鶏肉の焼いたやつ。パリパリの皮がすごい美味しい。

 アリキの食べているのは、固そうなブロックの肉で超レア。それも美味しそうだが、香辛料がキツそう。

 たぶん、この肉料理はアリキが特別注文したやつだ。他のランチタイムメニューは、豆野菜中心の麺類っぽい。あれはあれで美味そうだけど、肉は食べれる時に食べたい。

 ここでは中々肉と魚は出てこないし、ワシ奴隷っす。

 モシャモシャ遠慮なく食べていると、アリキがゆっくりと区切るように喋った。

 分からなくともニュアンスで伝えたいのかな。

 アリキは食卓、長テーブルに置かれている調味料を手に取った。

 大方が塩の壺で、香辛料の小さな木の箱もある。

 その中の岩塩を掴みだす。

 ゴルフボールぐらいのを2つ、テーブルに置く。

 岩塩はミネラルが豊富なのか、薄い桃色がかっていた。

 それの小さい方をヌガーと言い。

 もう一つをアリキ、と簡潔に指差す。

 2つの岩塩はテーブルの上を一緒に移動。

 それから大きい岩塩は、ちょっと離れた場所に置かれる。

 2つ椅子を挟んで座っていた猪みたいな風貌の人が、ありがとよって感じでその岩塩を取ると自分の器に投入。塩分摂りすぎじゃん!

 とか思ってみていると、アリキは別の香辛料の器から黒い小さな塊を取り出した。

 胡椒っぽいが、きっと塩ベースの味付けの何かかな。

 その黒い塊を指さして


「ウルズラシャ ブゥグライザ」


 と、言う。

 その塊とヌガーの岩塩を一緒に動かす。

 再び、岩塩をヌガー。

 黒い塊をウルと言いながら。


 説明としては、多分、アリキが同行できない時も、誰かが一緒について回るって事だろうか。

 指を二本見せると、アリキが笑顔で頷いた。

 それから暖炉で燃えると言うか鳴き声を上げている塊を指差す。

 改めて見れば、あの暖炉の燃料は地下で袋詰した繭玉だ。

 アリキの顔を見る。

 人とは違う怖い姿だ。

 けれど、怖がらずに見つめれば、その顔、目は聡明だ。

 異種族の奴隷?にもわかるように説明しようとしている。

 例えばそれが義務だとしても、こうして手間暇かけてくれるのは、このアリキの性質がまっとうだからだ。


「これが私の仕事なんだね。ありがとう、鬼の人。よろしくね」


 わからないだろう、言葉で伝えた。

 けれど、どうやら、アリキには伝わったようで、よろしくという感じで頭を撫でられた。まぁ、ここではどうやら頭を撫でるのは悪い意味ではないようだ。

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