第4話 上級冒険者と思ったか?残念だったな(以下略)

 穴に入って何かを採ってくる。

 ゲームならダンジョンハクスラってところ?

 現実は普通に炭鉱夫とか、そんな感じ?

 そして自分は荷物持ちか?

 自分に与えられた装備は、防具と小さな鞄に背負子だ。

 中々到着しないゴンドラの中で、その小物入れを確認することにした。

 中身は小刀に太幅の包帯?布。陶器の小さな軟膏壺、匂いは薬草っぽいので薬?それにどこかで見たことのある細筒。

 ピストン型で油の匂い。火付け用の圧縮発火装置、つまり火種だ。これ、知ってる。

 それを見て感動。

 何だろう、マッチやライターじゃなくても、こういうものを見ると文化の類似性と知識概念の共通に感じ入っちゃうね。

 食べ物が吸収できるってところからして、株や種の部分で同じ?とか、平行世界とか、猿の惑星な感じなのか、わからんけど。

 答えのない疑問は心の棚へ、そして使い込まれた発火装置は鞄へしまう。

 小さな革袋には、その他に火口に使う刻んだ葉っぱらしきものが詰まった小袋もあった。発火装置と一緒だったから多分ね。

 他には塩の小瓶、これはアリキがひとつまみ舐めて教えてくれた。取り出して見ていたのに気が付いて、つまんで舐めて見せてくれた。

 他には水筒。

 金属のやつだ。

 これもアリキが飲む仕草をしてくれる。中身は水だった。

 他には食料として黒砂糖みたいな塊と黒いパンの包も入っていた。小さな鞄はこれでパンパン。

 必要最低限の持ち物って感じかなぁ。

 それを鞄に戻す。

 この小さな鞄は腰に縛っている。

 ウエストポーチじゃなくて、体のどの部分でも縛っておくようにベルトじゃなくて紐で巻くやつだ。

 自分は背負子を背負っているので腰に巻いている。

 その背負子は、座るとちょうど背もたれになるようになっていた。楽ちんだ。

 すべての装備込みで、自分の具合を測る。

 まぁなんというか、普通、平気、大丈夫だね。

 規則正しい生活があっているのか、緊張によるアドレナリンのおかげなのか?何も違和感も不快感もない。

 装備の重さもね。

 これまた、重さが感じられないんだよ。

 そんな筈はないのにね。

 現実味が失われているとは思えないんだけど、たぶん、色々なショックのせいなのかな。

 金属の水筒、金属の角灯、防具だって着ているわけでさ。

 これが十キロ以下とは思えない。

 けど、感覚としては普段着ていどなんだよね。つまり感じないの。

 良いことなのか悪いことなのか。

 まぁ良くないよなぁ、つまり、自分は思ったよりも頑張っちゃってるのかもしれない。

 気をつけなきゃね。

 と、周りの様子から到着しそうもないので、背負子を背中から下ろす。

 アリキも何も言わないので、ゴンドラの隅、誰も座っていない場所で柔軟体操をする。

 何で体操かって言うと、この重さを感じないってのが不安だからだ。

 関節をほぐすように動かしながら、自分を確かめていく。

 怪我はしたくないし、精神的な遊離は、今の状況だと困るし死にたくない。

 大げさって訳じゃないよな。

 だってさ、見知らぬ場所、ここを外国と考えたとしても、ショックでどこかボンヤリしていたらマズいよ。

 受け入れがたい事ばかりだからって、逃げて守れるならいいんだけどさぁ。

 目の前に殺傷力バカ高そうな武器を持った奴がいるんだよ。

 怖いからってぼんやりしてたら、逃げられないよ。

 で、柔軟。

 すくなくとも、ヘタって走れないとかないようにね。

 うんしょうんしょって柔軟してたら、アリキがニコニコしている。

 何だろうと見返したら、手をフリフリ。たぶん、続けろ気にすんなってところかなぁ。

 何も言ってこないので、そのまま柔軟を続けた。

 牢屋でも柔軟やら自重トレーニングもどきをしてたら、けっこう関節の可動域は増えた。

 体が温まった頃、不穏なきしみをあげてゴンドラが減速を始めた。

 どうやら、目的地に着いたようだ。


 ***


 枠の外で回る歯車が、闇に火花を散らしている。

 ゴンドラの事故って起きないのか、若干不安に思いながらも完全に停止するのを待った。

 不穏な軋みをたててゴンドラが停まる。

 それから折りたたみの扉を開くと、皆、降りた。

 真っ暗だ。

 坑道?なのか、それとも自然の洞穴、裂け目なのか。

 目の前には巨大な横穴がある。

 頭上も闇で、ゴンドラが降りてきたはずの竪穴も見えない。

 振り返ると、辛うじて錆くれたゴンドラの灯りがぼんやりと闇に浮かんでいる。

 ちょっとホラー風味だなぁ。

 先頭の男が灯りをつけた。

 変な塊の乗った取っ手付きの金属の皿?蝋燭?変なの。

 斧の男がリーダーかな。

 剣と槍は何か雑談をして笑っている。

 双子は沈黙のままだ。彼らは自分たちと同じ角灯が腰にある。

 自分も角灯をつけるべきかと考えたが、男の灯りで足元は見えた。片手が塞がる灯りってどうよ、って突っ込みたい。

 アリキもつけていないので、自分もつけないことにした。

 後々、燃料切れで暗闇に取り残されたくない。謎、燃料だけどね。

 男たちのあとに続きながら、慎重に坑道?に踏み出す。

 人力で掘ったのか、穴の壁はゴツゴツだ。

 ひんやりと冷たい壁に手を置くと、ちょっと湿っていた。

 足元は土だが、踏み固められて硬い。

 自分は緊張していたが、男たちは気負った様子は無い。ただ、微妙に三人と双子に間に刺々しい雰囲気が見えた。

 もちろん、想像だ。

 ただ、会話のやり取りが、何となく乱暴で、特に双子に対して三人の男たちは、嫌な感じ。

 こう、一々会話に嘲笑じみた半笑い?

 言葉わからんけど、ヘイトとかバカにされてる雰囲気って伝わるよね。

 じゃぁこっちにはどうか?

 考えるのも無駄。

 アリキ先輩は、巨漢で筋肉質の強面だ。

 鬼の人、それもとんでもなく筋肉モリモリの大男に喧嘩売る?

 そんな相手に乱雑な態度をとるようなら、最初から仕事のマッチングはしない。しないし、頭がよほど悪く無い限り、ツンケン嫌な態度なんてとれない。

 微妙に遠慮というかアリキを迂回して会話している。だから余計に、双子がなにか言った時の、三人の反応が厭味ったらしく見えた。

 そしてアリキの腰巾着である自分は、人の数にも入らない。だって言葉もわからんからね。

 ただ、その会話の内容を把握しているアリキの雰囲気が、少し怖いなぁって思う。

 何だろうか、怒ってるとかじゃないよ。

 奇妙な虫を見るような目つき?

 とっても変なモノをみたなぁって感じの目線だ。

 なら、自分も奇妙なモノではある。けど、アリキは、こっちには真摯な対応っていう感じで、きちんと意思疎通をはかろうってしてくるのが伝わる。

 まぁ、これも想像なんだけどね。

 さて、ダンジョン探索と言えば、モンスターだ。

 そもそもダンジョンなの?っていう疑問は置いておくとして、実際はどうなんだろうって話。

 これも考えるまでもない話で、武装した人間が人数集めて入るんだから、モンスターじゃなくても脅威があるって事だ。

 もしかしたら、原住民とか人間相手かもしれない。自然の洞窟だったとしても、そこに住み着いている生き物や植物が、致命的って事も十分あって。

 化け物にしろ人にしろ、武装が必要ってわけだ。

 かと言って、戦ったことなど生まれたときから無い自分には、装備の小刀など役にたてられそうもない。それに小刀は生活用品で、武器に転用するには心もとないサイズと切れ味だ。だからこそ与えられたわけだけど。

 子供ならワクワクするかな?

 いや、親元から拉致られて異国に来た時点で、発狂するぐらい怖がるだろう。

 ワクワクするようなら、そいつは頭がおかしい。

 ファンタジーの主人公は、主人公だからおかしくていいのだ。そして英雄や勇者ってのは、普通の世界でも馬鹿でいいし、馬鹿じゃなければなれない。

 そして英雄でも勇者でも主人公でもないので、自分は怖い。はず、なのだが、何だかボンヤリしている。

 集中力が散漫っていう感じではなくて、怖いって感覚が少し遠い。ショックのせいかな、よくわからない。よくわからないことは考えたくない。何だかダルい。

 変だよなぁ。

 怖いって思ってる。たしかにね。

 けど、何だか自分じゃないみたいだ。

 暫く歩いていくと、だいたい五分ぐらいかなぁ。そういや時計も何もかももってなかった。貴重品は何処行ったんだろう?

 これも、今は余計は話かな。

 ちょっと開けた場所にたどり着いた。

 薄暗いながらも見回せば、不思議な紋様が石壁に描かれたドームだった。

 蔦か波のような紋様だ。

 もしかしたら文字かもしれない。

 そこで通路は4つに分かれていた。

 先に着いていたらしい集団の後ろ姿が、端の穴に消えるのが見えた。

 男たちは、そこで右から二番目の道を選んだ。

 何か違いがあるんだろうか?

 道は次々と枝葉があり分かれていた。

 それを曲がり進んだ。

 雑談するのは先頭の三人。双子は双子同士で何かやり取り。どうも会話自体が不愉快だったのか、三人と二人で前後に分かれて会話していた。まぁ、仕事だから仲良くする必要もないのかなぁ。

 その後ろをアリキと自分が続く。

 覚えた限りでは十二回、道を選んで進んだ。

 ためらいなく進むところを見るに、覚えているのか、それとも何か目印になる物があるのか。

 自分は分からなかったから、脳内マップを補完して歩いた。

 現在地は、元のゴンドラの場所から、東方向に七度曲がってから北を向いている。

 起点を北向きと仮定してだけどね。

 太陽が東から登ってくるならば。

 そもそも、丸い惑星なのかどうかも謎だけど。

 そうしてたどり着いたのは、下への階段だ。

 薄暗い世界に青白い石の下り階段が見えた。

 洞窟ではないし、炭鉱でもなさそうだ。

 先頭の男たちが武器を手に持ち替えた。剣帯の留め金を外し、槍の穂先をむき出しに、斧を背中から下ろす。

 双子は元から弓を手にしていたけれどね。

 さて、アリキは自分に、静かにするようにと身振りした。

 自分も頷いて、口に手をあてる。

 それから静かに、一団は階段を降りた。


 ***


 階段を降りると、通路は漆喰の壁になった。

 上は岩山の岩窟っぽかったのに、下るほどに建築物って感じになった。

 自然のモノじゃなくて、建物の通路だね。

 不思議だなぁ。

 木の骨組みに、所々に置かれた火の消えた松明。

 斧の男が灯りから炎を松明に移した。

 ちなみに、男三人、剣斧槍の灯りは蝋燭だ。

 蝋燭だと思う。

 角灯じゃないのだ。

 何だか不格好なソフトクリームを片手に持ってるような感じ。

 双子は自分と同じ謎物質の角灯が腰に下がってるね。

 三人の片手には、蕩けた薄桃色の何かに火が灯っている。

 投げ捨てても角灯のように壊れる心配が無いからか?

 まぁ何が普通かわからんし、まぁ良いんだけどね。

 その松明の一本を手に取ると、炎を次々と移していく。

 空気の流れと油の燃える匂い。

 この松明は誰が置いたんだろう?

 燃え尽きたら誰かが交換するの?

 ゲーム的な不思議現象のオブジェクトだとか?

 疑問はそのままに、先に進む男たちを追う。

 通路は男たちが横一列に並んでも十分すぎるほど広い。それでも先頭の三人が扇型に等間隔で並んで進み、双子はその後ろ、アリキと自分は少し距離を置いて進む。

 通路の壁は湿っており、薄暗い先は見えない。

 掃除はなされていないようで、足元には塵と剥がれ落ちた壁、壊れて地面と同化した床板が散乱していた。

 なるべく音をたてないようにと、そんな塵を避けて進む。

 暫くすると通路の両側に無数の小部屋が並ぶようになった。

 扉はとうの昔に壊されており、中を除けば闇に瓦礫が見える。

 価値の有りそうなモノは無く、形あるものは既に崩されたか壊されているようだ。

 見た限りは鼠の巣にでもなっていそうだ。

 鼠は見た。

 元の場所の鼠と同じ形で、害獣の分類らしく、見かけたら捕まえて処分。

 猫も見かけた。

 たぶん、猫みたいなの。あれ、猫だったのかなぁ。

 今の所、何者とも、モンスターとも出くわしていない。

 何者とも出会わないのは、偶々かもしれないけどね。

 自分としては、逃げ道を覚えておく事ぐらいしかやることが無い。

 と、物音が前方から聞こえた。

 ゴソゴソと何かが動き回る音だ。

 自分はアリキの後ろ、更に少し間をあけて体を小さくした。

 足音と息遣いに気をつける。

 すると双子の一人、赤い耳飾りの男が弓を構えた。

 何かいるらしい。

 矢が放たれる。

 けれど、誰も歩みを止めなかった。

 風切り音のあと、声割れした悲鳴が闇から聞こえる。

 ごぎゃって。

 誰も確認しないが、右手の小部屋だ。

 見るか見ないか迷ったが、進みながらチラッと見る。

 何かが痙攣して蠢いていた。

 死後の痙攣か、汚れた爪が藻掻いて空を切っていた。

 これは何だ?

 自分の知りうる限り当てはまるのは、ファンタジーの設定だ。

 設定、笑える話だが、笑えない。

 フィクションに当てはめて考えると足元を掬われる。

 例えば、どんなに映画や小説の中のような事が起きても、フィクションに当てはめては危険だ。

 そんな風に見えるだけ。

 犯罪も事故も現実と変わらない。

 飢えれば死ぬし、怪我をすれば死ぬし、さっきの得体のしれないに襲われれば、死ぬのだ。

 何も面白い話ではない。

 と、べらべらと並べたが、緑の子鬼が出た。

 ショックでソワソワした。ワクワクじゃない、ソワソワ。

 泣きそうだ。

 マズいマズいと思いながら、どうなってんだよって泣きたくなった。

 もちろん泣かないぞ。

 歯を食いしばって気配を殺すだけだ。


 ***


 さて、そんな雑念を、頭の中でこね回していると、通路は突き当りとなった。

 T字路だ。

 右は上り坂に瓦礫。

 左は薄暗い下り坂。

 男たちは左へ曲がる。

 すると、さっきのゴソゴソした気配を感じる。

 緊張して耳を澄ませていたからか、あっちこっちと複数聞こえた。

 男たちは気にもせずに歩いていく。

 そして数が増えたからか、双子それぞれ射殺を繰り返した。

 今度は通路で五匹。

 頭部や胸部を撃ち抜かれて痙攣しているのは、先程の子鬼と同じモノだ。

 今度は松明の下なので、よく見ることができた。

 醜悪で異相。

 まばらに生えた髪に薄汚れた姿。

 人間に似ているけれど、アリキやその他の異種族に感じるような、人と同質の気配はなかった。

 無くてよかった。

 動物って感じ、それも凶暴で病気をもってそうな、野獣って感じだった。

 武器は棍棒?

 野生動物を汚いとは思わないが、この子鬼は非常に臭くて汚れていた。

 うわぁって感じで見ていると、アリキが立ち止まって振り返った。

 名前を呼ばれる。

 遅れてしまったようだ。急げ急げ。

 そんな風に下に向かって進むと、子鬼の数も増えてくる。

 死骸は放置なのか?

 ファンタジーのように何か回収しないのか?

 とか、考えたが、設定は設定。そんなものが現実と同じ理由もないよね。

 子鬼の数が増えると、当然射る回数も増える。

 矢のストック、大丈夫なのかなぁ。

 多分、尽きたら尽きたで、彼らは他の接近戦用の武器を携帯していた。けど、子鬼が彼らの弓によって、先制して処分されているのを考えると、矢は回収したい。

 彼らにしたら、使い捨てなのかもしれない。けど、使い切り弾数制限ありとかゲームじゃないんだ回収した方がエコ?

 それとも壊れちゃうとか、毒がつくとか?

 でも、近くまで来たら嫌だ。

 遠距離攻撃が面倒と危険を減らしてくれるなら、率先して矢を回収しちゃうぞ。

 一本引っこ抜いて、異臭と体液を振り捨てる。

 そこでアリキを見たら、ウンウンと頷いた。

 こっちも双子を指差すと、ウンウン。

 どうせ狩りの獲物じゃないから、足で抑えて矢を抉るようにして引っこ抜く。

 無理やりだから骨も肉も飛び散るけど、蹴り飛ばして避ける。

 それから引き抜いた矢に何か着いてたら、子鬼の薄汚れた衣服で拭う。ほら、少し臭うけどオッケーや。

 で、それを双子に差し出す。

 すると何だか苦笑いされた。

 それでも受け取って使うようだから、いいらしい。

 それからは流れ作業。

 通路を進む。

 双子が射る。

 ワシ、駆け寄ってズボッと矢を抜き回収。

 双子に渡す。

 矢は双子それぞれに鏃の形が違うのと、矢羽の色が微妙に違う。

 耳飾りのほうが赤い矢羽で、髪が少し長めの方が鏃が鋭角。

 感想としては、これで射られたら死ぬ、怖いっす。

 心臓や頭だけじゃなくて、この太さで貫通したら確実に死ぬ。

 大弓のように見えなかったが、双子の弓は剛弓って奴っぽい。ぽいっていうのは、自分が素人だし、弓もファンタジーって感じの見た目だったから。

 子鬼を軽く絶命させているのだ、人間なんて豆腐以下だよねぇ。

 そんな感じで、子鬼を駆逐しながら、一行は下っていった。

 じゃぁ先頭三人とアリキは何をしてたかって?

 先頭三人は、二回目に、矢の回収で立ち止まると何か振り返って怒鳴った。

 多分、自分じゃなくて双子にね。

 でも、急に怒鳴られて、びっくりして垂直に跳ねちゃった。

 勝手にびょんって跳ねちゃったら、アリキがポンって頭に手をおいて抑えた。

 それから、ポンポンと頭を軽く叩かれた。

 見上げるとニッコリ笑ってる。

 何を言っているのか分からなかったけど、多分、大丈夫だぞって感じの言葉かな。穏やかな感じだったしね。

 でもね、それからアリキは、先頭の三人に顔を向けた。

 ポンポンしてる手付きは同じ。

 でも縮み上がるような、青筋が額に盛り上がった表情を浮かべると彼らを睨みおろした。アリキは大きいから、上からギロってね。それから三人に向かって、ゆっくりと何かを言った。

 何かを言ったら、ワーワー言っていた三人が急に黙った。

 怖くなるんか、喧嘩するんか?ってビビり散らしていると、三人の方がギクギクしだした。

 代わりに双子がゲラゲラ笑う。

 で、アリキは自分に矢を双子に渡すようにと指さした。

 うん、怖いっす。えっ?怖くない。頭、ポンポン。あのね、これでも大人っす。いや、いいけどね。

 と、こんな感じで、先頭の三人はアリキ先輩に睨まれながら、先頭をゆっくりと進んだ。

 たぶん、テメェら遅いんだよとか、露払いしてくれている双子に因縁をつけたんだろうね。

 そして勝手にビビり散らす自分をなだめ、アリキ先輩は逆に三人を恫喝した感じ。たぶん、多分なのは許してほしい。言葉がもう三人は謎だし、アリキの雰囲気だけ読んでる状態だし。

 確実なのは、アリキ先輩(未だにビビってるのだ)が、ヒエラルキーの頂点で、仕事上、三人の男には主導権がある。

 だから命令系統は三人組で双子は従い、アリキは自分の見張り役として行動している。けれど、三人組に仕事以外で命令できるほどの力は無いと見た。

 どうみても、アリキ先輩が、一番つよそうだし。結論、自分はアリキ先輩について行くっす。

 で、微妙な雰囲気のまま、ゴブゴブ(もう、ゴブリンでいいや)を駆除、弓回収、ゆっくり進む、三人が何か言う、双子の空気が悪くなる、アリキの存在は迂回される。と、いう流れになった。

 ギスギスしたパーティである。

 とっても迷惑、だから先頭の三人は、ワシ、嫌い認定。

 双子は、何となく、アリキと同じ空気だから、良し。

 この嫌いは、ここで何かあった時、自分はどうするかって基準の事。お友達判定じゃないぞ。

 つまり、事故や何かおきたら、アリキの指示に従うのが一番。

 次に、アリキが指示を出せない時は、双子。

 次は、無し。って意味。

 ワシ、彼奴等三人と意思疎通できそうにないし、信用ならんもん。彼奴等おいて上に逃げるもん。

 そして助けてぇって親爺のところへ行く。

 まぁ推定奴隷の身だから、勝手に逃げたら、お仕置きかもしれんが。

 そんなギスギスが極まった雰囲気だけじゃなく、もとから閉鎖空間特有のプレッシャーだってあるわけで。

 体には力が入っちゃうし、時々現れるゴブリンの波状攻撃に疲れる。体がじゃなくて心がね。

 ゴブリンも最初の頃は、ファンタジーって思ったが、慣れてくると、微妙に種類がある事に気がついた。

 黒いのとか、目が赤いのとか、腰蓑とか、マッパとか。

 マッパなので、やっぱり人族ではないと確認。何が何であるが、雌雄の区別は人間のようにわからなかった。

 つまり雌雄があって繁殖していそうにもない感じであった。

 どうでもいい情報ばっかりが増えてくなぁ。案外、卵で生まれてきたりするかもしれない。それとか成長すると蛹になったりしそうだ。怖い。

 で、体よりも気持ちが疲れていた。

 他の者もそうだったのか(アリキを除く)丁度良い具合に、小休止となった。

 水場があったのだ。

 回復の泉でもセーブポイントでもない。そんなものがあるはずもなく、普通の小さな人工の泉だ。

 小部屋の中に崩れかけた小さな泉がある。

 石造りの物で、常に彫刻の動物から水がチョロチョロ流れていた。

 普通、噴水の彫刻の動物っていうと、獅子とか犬、魚とかじゃない?動物以外だと水瓶とか、ジュリアン坊やとか。

 で、ここの動物、動物だと思うんだけど、どうみても発狂狂気耐性が無いと駄目な宇宙生物に見えた。

 水、水だからなのか、ソウナノ?

 一人、呆然としているとアリキに肩を叩かれた。

 パイセン、これ、この世界にいるの?

 と、聞きたかったが、言葉が通じないので、終了。

 男たちは水を飲み、腰をおろした。

 荷物をあさり食事も開始。

 アリキも、他荷物から黒い欠片を取り出すと、自分の方に向かって口に含んでみせた。食えという事らしい。

 自分も荷物から、黒い塊を少し砕いて口に入れた。

 甘塩っぱい?

 砂糖と塩、黒砂糖な感じのねっとりとした何か。

 水筒から水を飲み、口の中で溶かす。

 泉の水を見ていたら、アリキが首を振った。周りの者には見えないように指で水筒を指した。

 つまり、生水飲むな、かなぁ?

 たぶん、体調を保つために、渡されたこの食料と水だけで、過ごせって事かな。

 緊急時なら、どんな水でも飲むだろうけど、アリキ先輩的には、持ち込んだ自分の荷物以外は口にしちゃいけないって指導だ。

 とすると、多分、この食料と水だけで帰ってこれる距離の移動って事かな。それともケチケチしたほうがいいのかなぁ。

 ゴンドラまでの距離は、思うより近い。

 ただし、敵性生物のゴブゴブがいなければだ。

 彼らの目的地はどのくらいの距離になるのだろうか。

 この穴に入ってからの時間は、まだ、半日も経過していないと思う。体感的には二時間ぐらいかなぁ。

 それでもプレッシャーで休憩を入れなければならないって事。まぁ多分、アリキだったら休憩いらないと思う、それに双子もね。

 疲れているのは、自分と三人組(もう、何言ってるかわからん三人はまとめてもいいとおもう。態度悪いし)

 甘じょっぱい黒糖みたいなのを食べ終える。

 欠片だけど、それで結構元気になった。

 食事からそれほど時間が経ってないのもあるかな。トイレはどうするの?って思うけど、特にトイレに行きたくはない。

 ちょうど剣の男が、用足をちょっと離れた場所の排水溝みたいなところでしてる。

 中の塵とか汚水は、この穴の所々にある、排水溝みたいなのに捨てるようだ。ここも意外に清潔?

 そういやあの射止めたゴブゴブの死骸は放置?なのかなぁ。

 って考えてたら、排水溝みたいなところから、放射性物質って感じの蛍光色のドロドロが盛り上がった。

 剣の男は、他二人の元へと戻って、地図みたいなのを広げて喋っていて気がついていない。

 双子は三人から距離を置いて、ちょうど泉を挟むようにしているので、こっちが見えていない。

 何ぞ?ってビビるのは自分だけ。よくよく見てると、何かぐちゃぐちゃ言いながら広がって、また、そっと穴に戻っていった。

 びっくりして凝視していると、傍らに座っていたアリキが笑う。

 口元を抑えて笑っていると、懐から何か出して排水口に投げた。

 ドロドロが突然飛び出してきてキャッチ。

 それから彼は、自分の方へ手を差し出す。その差し出した手のひらの上には、豆。この人、懐にオヤツ持参してたらしい。

 それをヒョイッと投げる。

 排水溝からジョバっと飛び出す何か。

 わかり申したっ!

 って閃いたのがアリキに伝わったらしく、笑いながら彼は頷いた。

 つまり、あれ、ゴミ掃除のアレだ。

 あそこで用足ししていた剣の男は頭がオカシイ。

 そういや、双子の片割れは、兄弟に見張りおいて、何処かで用足ししてたかも。けっして排水口では、トイレしてない。

 続いてアリキは、自分の股を軽く叩くと、あそこは駄目だよって感じで手を顔の前で振った。

 それに兄貴、了解したぜって頷く。

 部屋の隅、瓦礫の後ろを指さしたら、良しって感じのジェスチャー。

 つまり、アレはファンタジーだとよくあるスライム(推定仮称)利用トイレではなく、普通にスライムの巣なのだ。

 腸から喰われる危険地帯でズボン下ろすとか、狂気の沙汰だ。

 自分の表情が死ぬの見て、アリキにも、意味が通じたようで、ウンウン頷きながら笑い続けている。

 彼奴等、馬鹿だろう?って感じだ。

 つまり、あの三人はヤバいらしい。

 見た目、ガチの雰囲気なのに、初心者以下なの?

 ちなみに、その辺の石ころ投げると、ペッって感じで吐き出してきた。

 糞尿などは吸収する?

 もしかしたら、通路や部屋に他の生物の死骸が見当たらない原因かも。

 つまり、安穏と滞在していると、潜り込まれて消化される?

 無機物は食べない?

 ゴブゴブの装備していた服とか武器とか物資は残るのか?

 それとも通りかかった人間が拾ったから無い?

 このスライム(推定仮称)に興味がわく。

 わいちゃうけど、同じく武装した三人に危機感が増した。離れてよぅ。

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