第3話 無駄情報(イゼアは愛犬《ギナ》家が多い)
部屋が徐々に明るくなる。
地下だから、陽光はささない。
けれど、水場の水晶の光りが輝き、白っぽくなる。
夜はオレンジ色だったのに、朝は青白い。
どんな仕組みなんだろうか?
それにあわせて、木々がさわさわと揺れ、スッとしたいい香りが広がる。
爽やかだ。
すごい爽やかで快適な目覚めだ。
子供らは結局、朝まで絡みついたままで、涎やら何やらカミカミされたまま起床。
ヨレヨレの格好で目覚めたら、洗面、塩で口をぐりぐり。
子供らの真似をして水の流れに並ぶ。面倒見の良い幼稚園児ぐらいのが、教えてくれる。できると、皆にナデナデされた。赤ちゃん扱いのようだ。
顔を洗って、配られていた手ぬぐいでゴシゴシ。で、着替えたら服は洗濯かごに入れる。
ご飯前に、部屋の入り口に置いておくと回収されるようだ。
ちなみに、リーダーのそばかす君が着替えを二組と手ぬぐいを三枚、ハンカチ?なのかザラザラした布を三枚くれた。歯磨きの塩とブラシ?は、寝床下の収納に入れてある。
んで、身支度を終えたら食堂へ。子供の集団にしがみつかれてだから別に迷わないし、戸惑う前に子供と一緒に同じ行動をする。
食堂の人に挨拶、ペコリ。
今日はナンみたいなのと、刻んだ不思議ペースト、粥とスープ。肉は無いけど、何かの煮物の小鉢?
木の盆に載せて着席。
いただきまーす。で、水分はセルフ。
ナンは、やっぱり小麦じゃない何かの穀物?でも、限りなくナン。刻んだのは野菜と香辛料の塩辛いディップ。粥は鶏肉っぽい味がするけど肉なしの雑穀粥。スープはよくわからない野菜と何かぷるぷるした塊が入っていた。味は、何故か牛肉っぽい。小鉢は推定芋。
あっという間に全部食べきった。
手持ち無沙汰で、まわりの子らを眺める。
子供らは、もぐもぐそれぞれ一生懸命だ。食べ方は種族ごとに違っているが、マナーはいいと思う。子供なんて食べこぼしや注意がそれたり喧嘩したりとあるもんだ。それがほとんど無くて、年上の子供が下の子の面倒をよく見ている。自分も、その面倒をみてもらってるのかな。全体の年齢は、幼稚園児から小学生ぐらいかなぁ。幼児ってぐらいの子はいない。まぁ普通は親と暮らしてるだろうし。
朝の食事は消化と行き渡る量が重要視されているメニューだね。
全体的に出汁の効いた穀物と野菜ベースの健康食。
そしてお水は生水じゃなくて、白湯に何かを入れた物かな。
やっぱりスポーツドリンクっぽい気がする。
お茶が飲みたいなぁ。
生活習慣は、それほど差を感じない。
技術レベルの判断は保留だが、住環境の快適さはすごいなぁ。
燃料は、不思議な光を発する黒い物体が燃えている。燃料で炭団的な物かと思ったが、食堂の暖炉で熱を発しているそれは、何か不思議な音を出していた。
間抜けなポゥという感じの低い音が、呟きのようにその塊から流れる。
石鹸も洗練されたものではないが、清潔にする目的を果たせるレベルの固形物だったし。上水下水も整備されているのだろうか?広大な地下空間に、これだけの設備。すごいよね。
トイレもそうだが、衛生面への配慮も伺えた。
まぁ、難しいことを考えてもね。結局は生きていけそうかどうかだ。
幸運な事に、水も食物も消化できていると思う。
種の成り立ちから違うだろうに、体調の悪化も見られず、飢餓感も脱水症状も無く過ごせていた。
普通に消化吸収排泄できていると思う。
考えても答えはわからない。なら、苦痛がないならよしと片付ける。
食事が口にあってよかったなぁ、程度で止めておくに限る。
さて、食事は、おかわりもできるようだ。
最初のセットが足りなかったら、以下は山盛りの豆らしい。
となりの狼頭の子が豆の鉢を持ってきた。どうやら、食べ終わってしまったのを見かねて、取ってくれたようだ。ありがとうね。
食べたら、普通に塩ゆでの豆だった。うましうまし。
おかわり分を食べてると、子どもたちを迎えに大人が二人来た。
二足歩行の獣な感じの大人だ。
でも、年配で女性とわかる。
モフモフ具合が素敵。おはようございますのペコリ。
お返しにニッコリ。凶悪な牙が見えたが、笑顔だよね?
どうやら、子どもたちは子どもたちで向かう場所があるようだ。一緒に行くのかと腰を浮かしたら、豆の鉢を指さしてから食べる仕草を子どもたちにされる。で、腰を再びおろして木匙を持った、正解よろしく頷かれる。なるほど、ありがとうね。
同じく席を立たなかった、そばかす君が何か言う。わからないのですよ。でも、まぁ待っていてくれているのはわかるので、残りをさっと食べて終了。
食堂内には男性の比率が多いな。彼らをかき分けて食器を返却し、待っていたそばかす君の後に続く。
東の通路に向かう。
まぁ細い通路が幾つも繋がっているから、その一つって感じだ。何か、色々説明してくれてるんだろうけど、よくわからない。まぁ相手も良くわかってない事は承知している。時々立ち止まって、覚えてねって感じで指をさす。
つまり、帰り道だね。
こっちに曲がってあっちに曲がって。
目印らしき物を指差す。
実は、地図とか方向とか、自分、抜群に覚えられるタイプ。
方向感覚は優れてる方だと思う。一応脳内地図を描きながら進む。
きっとそばかす君には通路にある表示が読めるから、簡単な道案内だろう。
目的地は賑やかな場所で、様々な武装をした人々で溢れていた。
何となく昨日通過したロビーと同じ雰囲気。
そして奥の扉を指差し示す。
なるほど、目的地だ。
こっちも指さして確認すると、そばかす君は頷いた。
そして戻っていく。あれ、帰っちゃうの?
奴隷、放置でいいの?
いいらしい。もしかして、首輪に発信機とか爆弾ついてんの?
ついてないのはわかってるけどね。単なる金属の輪っかで、鑑札でしかないようだ。痒がると、後ろの留め金を子どもたちがはずしてくれたりしたもの。
一応、怒られそうだから、すぐ元に戻したけどね。
バイバイと手を振ると、彼はニヤッと笑った。
バイバイと手を降る仕草、間違いだったかな?
と、思ったが、単なる笑顔のようだった。
同じくバイバイと手を振り返してくれる。
子供は可愛いねぇ。
と、和むが、マッチョの人波を越えていかねばならない。
当たって因縁つけられたら、殺されそうである。
外国だと泥棒と間違えられる可能性もか。
まぁ昨日、相対した人たちは、顔は怖いが中身は真っ当だった、かもしれない。
いきなり刃傷沙汰になる事は、あるか。武装してるからなぁ。と、言うことで安全策として、壁沿いを気配を消して進む。
武装した人たちが騒々しく会話をし、反対側にならぶカウンターへと詰めかけている。喧嘩なのか、それとも喧騒に声を張り上げているだけなのかわからん。
他には、壁にある大きな黒板に何かを書き出している職員風の人。それに木札を振り上げて、大勢で騒いでいる。
競りか買付とかの市場の雰囲気にも似ていた。
それでも詰めかけているのは、帯剣した物騒な輩に、ガラの悪そうな強面ばかり。
こわいねぇと思いつつ、置かれた植木鉢のような置物の影から目的地の扉へとたどり着く。
木の扉には金属のプレートがはめ込まれていた。
掘られた文字がわからないため、何の部屋かわからない。
コンコンと叩いてみた。
あぁ扉を叩くのが礼儀かどうかわからんかった。中から声がかかってもわからんかったっけ。あうち。
とか思っても遅いので、案内人もさっさと帰ったことだし、きっと大丈夫だろうと扉を開けた。
あ、親爺がいた。
まぁいるよな、奴隷の主だし。
自分を見て、親爺は書斎みたいな場所から立ち上がった。管理職っぽい事務部屋だ。穴蔵みたいな部屋の片側は書類棚。薄暗い中に書斎に灯り。書類と筆記用具、用途不明の道具に埋もれて巨漢の親爺が事務作業って感じで何か書き物をしていたようだ。
その親爺は首をゴキゴキ鳴らしながら戸口に来ると、自分の頭にぽんと手を置いた。挨拶?どもども。
それから親爺は戸口から顔だけ出すと、何か怒鳴った。
すると太った大男が片手を上げた。
親爺が指をさす。あれについていくの?怖いっす。どうもっす。
太った男はレスラーみたいな巨漢で、顔は鬼瓦のようだった。
鬼瓦っていうか鬼だった。人種的な顔つきで、別に怒っているわけではない。と、思いたい。
逆さ牙な口元を見ていると、何故か頭をぐりぐりされた。
何だろう、会う人会う人グリグリされる。ここの挨拶?なわけないよなぁ。
あのさぁ、いい年した大人だし、頭を撫でるのはさぁ。
と、嫌がらずに初っ端から、無抵抗だけどね。奴隷だし、鞭打たれるとか痛い事とはちげぇし、どっちかって言うとワンワンの扱い?まぁ犬でいいっす。ご飯くれ、オヤツでもいいぞ。
だってさ、親爺もそうだが、ここのお人は、皆、でかい。この巨漢な鬼の人ともなると、三メートルはあると思う。
手の位置的に、自分の頭がジャストフィット。
とか、どうでもいいことを考えていると、ついて来なって感じで促される。
喧騒を突き抜けて、まぁ巨漢の鬼の人の進路は勝手に割れた。そりゃそうだ、怖いもんなぁ。まぁ特に大きな鬼の人なんで、普通は避ける。
で、喧騒を突っ切ってカウンター側の左端の通路に入る。真っ直ぐに続く通路は左右に部屋があるようだ。
ただし、カウンター側の右手は扉がついているが、左側には無い。部屋の入り口が幾つも開いている。
白壁に明るい照明。
あの牢屋みたいな松明ではなく、ここでも水晶が青白く輝いていた。これも夜には色が変わるのかな?それに照らされてる部屋の中は、やはり寝床の近くにあった低木が壁にあった。
もしかしてバイオ的な空気清浄機だったりして?そんな事を頭の隅で考えるも、その部屋部屋に詰めている人々に目が奪われる。
老若男女、大凡統一した装備をしている集団だ。
手甲脚絆に背負子の集団である。
彼らはバスの停留所よろしく、談笑しながら部屋に詰めていた。
部屋ごとに傾向はあるようで、普段着の集団から、完全武装の男ばかりとか、色々、見ていると面白い。
巨漢の鬼の人は、奥に通路を進み、右側の扉が途切れ、開放された部屋部屋に変わった所で立ち止まった。
その右側部分は物資や人が行き来し、装備や備品、備蓄品などが管理されているようだ。
その中の一つ、装備を配っている場所に進む。
ここから一本道だった通路が、右側に分かれて枝を伸ばす。部屋も細々とした間取りから、大きな物になり、まるで市場のような感じだ。
なんだろう、この巣穴、本当に蟻の巣のようである。
人が多い。
最初、街と思ったが、もしかしたら都市のレベルなのかもしれない。
ぼんやり眺めていると手招かれる。
天井が低く、手前がカウンターになっている右手の部屋だ。カウンターには係員が数人いて、来訪者とやりとりし物品を渡している。
部屋の奥はたくさんの棚が並んでおり、そこにも多くの人が物を運んだり詰めたりと忙しく働いていた。
備品、装備品だろう身につける品々の場所のようである。
巨漢の鬼の人は、中の人に頼んでは色々と用意させた。もってくる係員も、こっちを見ては何か話し合っては品を選ぶ。
そうして持ち出してきたものを、鬼の人はこっちに渡してくる。どうやら、自分の装備らしい。
身にあててサイズを見る。
手甲脚絆、靴は足元を見てから棚に戻された。戻された靴は革のようである。傷んでいない足元は合格らしい。
腰か背に巻く小物入れは革製だ。蓋を開けると小刀に布など色々詰まっていた。
それから胴着に手袋、頭囲に巻く鉢金のようなもの。水筒は金属、食料らしき袋に縄にと一式が渡される。
次々と足元から着けていく。わからない所は、鬼の人が手伝ってくれた。グローブみたいな手が器用にサイズ調整しながら装備の紐や留め金を嵌めていく。装備はサイズ調整がきくように革紐などで縛るタイプだ。
軽装だが、基本急所と覚しき場所には、金属の補強がされている。だから相当な重量だと思う。
言い切れないのは、またも、その重さを一切感じなかったからだ。
係員がカウンターに置く時の様子からすると、ドンじゃなくてガシャンゴン、ズシンだ。木のカウンターの端っこが削れる勢い?
もちろん巨漢の鬼の人ならヒョイっとつまむぐらいの重さだけれどね。
次に、角灯を渡される。
光量の調節の仕方、灯りの方向の切り替えなどを丁寧に身振りで教えてくれる。ありがとうです。たぶん、重要なことなのだろう。そしてこれ、角灯と言ったが、謎物質で炎じゃない何かがクルクルキラキラしてる。時々、何か音を出してるけど、怖いので蓋をしめてから腰に下げた。蓋はガラス面を塞ぐ形になっていて、使わない時は破損防止も兼ねて、全面を覆うように引き出せるのだ。
そして最後の仕上げに、背負子を渡される。
軽い木組みの背負子で荷物を縛る革紐がグルグル背面に巻かれている。腕を通す場所は丈夫な金属帯になっていた。
それを背負って完成。
あの待合室の人たちと大凡同じ感じになる。
ただし、武装は無しらしい。小刀は多分、生活道具じゃないかな。
まぁ武器を貰っても困るけど。
次に連れて行かれたのは、もちろん、左手の部屋だ。
ただ、予想とは違って、一番奥の方の部屋だった事。
入口から奥に進めば進むほど、何だか人相と雰囲気がシリアスになっていく。ゴリゴリの強面とか、ガチガチの武装集団みたいなの。
ちなみに入り口は背負子に軽装だったけど、奥に進むと背負子姿はなくなる。
かといって全部が全部、武装集団って訳じゃなくて、自分にはわからない何かで分けているようだ。
わかるのは、入り口は初心者、奥はプロって感じ。
すごい場違いなのは、気のせいではない。
その部屋の中でも、部屋の広さの割に、六人しか人がいない所へと通された。
奇っ怪な人々に面食らう。
服装はバラバラで、それぞれ寛いでいる場所もバラバラ。
ただし、皆、奇妙な面を着けていた。
白いお面だ。なんか、すんごく怖い。
ほら、あれ、ホッケーマスク。あれみたいな白いお面。
そんで表面に呪い文字みたいなのが描かれていて、ガチホラー。
そんな彼らに、巨漢の鬼の人がでかい声で何かを言った。
それからグイッと中に押し込まれる。ヤメテクダサイシンデシマイマス、いや、ぐいぐいすんなや。
すると、無反応だった六人が、起き上がった。そう、部屋の中で寝転がったり、何か手元の書類見てたりとかしてたんだよね。
それが急に起き上がったり立ち上がったりする。ヤダなぁ。
ビビりあがって、頭を下げる。見えなかったらしい長椅子に寝転がっていた小柄な人物が、何か声をあげ指をさす。
なんすか、害のない奴隷っす、虐めんといて。
と、その中の一人が腰をあげた。
中々の巨漢である。
そして連れてきてくれた巨漢の鬼の人が、でっぷりと太っているのに対し、こっちはバキバキの筋肉質でもう少し大きな人だった。角は山羊角っぽい。つまり推定鬼の人。山羊の人っぽくない。
武装はしていないが、もう、お面被ったホッケーマスクの本人みたいで怖い以外にない。いや、偏見はよくないよな。
もしかしたら、お面取ったら、普通に山羊顔だったり?あれ、それも怖いんだけど。
ちょっとワクワクして近寄ってくる人を見上げる。
ぱかっ。
どうやってお面、顔に着けてるんだろう?
ぱかって外すと、その人は笑った。いや、笑ってるよね?牙が、この人も牙が逆さ牙だよ。それから入れ墨がお顔にあるよ。
で、普通に、凶悪面の鬼の人だった。なんだか、怖いはずなのに期待ハズレで、ちょっとガッカリするのだった。
***
その山羊角の鬼の人は、こっちを指差すと太った男に何事か言っている。たぶん、小さいけど大丈夫なのか?っていう感じかなぁ。眉がハの字になっている。
すると連れてきた鬼の人は、ガハハって感じで彼をバンバン叩く。それから自分をグイグイ彼に押し付けると笑いながら帰っていった。
残される自分、困惑する山羊角の人。
どこにでもいるよね、大雑把で適当に面倒を押し付ける上司ってさ、シンパシー。
すると、彼は腰を低くするとこっちを覗き込むようにして言った。
繰り返し自分を指していう言葉から、山羊角の人はアリキというらしい。
それから振り返ると、部屋の中の者達に何かを言った。
そして指をちょいちょいと自分に向けて曲げる。
部屋を出て通路に出ていく背中。
おう、なるほど。
ちょっと出てくる、そんでお前はついて来いってところか?
ついて行く前に、部屋の中の人たちに頭を下げる。すると、皆、手をあげて行くようにと振った。
なかなかシュールな感じ。だって、皆、仮面のままだったから。でもまぁ、そういう謎な風習ってあるよね。無いか。
鬼の人、アリキは、面倒見がよかった。
まぁ今まで出会った大凡の人々は、何だかんだと面倒見が良かったけどね。
考えてみれば、こんな知らない場所での扱いとしては、まぁまぁどころか良い扱いなんだろうなぁ。
さて、その面倒見の良いアリキは、まずはこっちの装備の確認をしてきた。
つまり、指差し確認ならぬ、紐やら金具の緩みがないか、その確認をするように言う。言うっていうか身振りね。
それをさせてからの、すべて外してから自力でつける練習をした。
外して着ける。それもよどみなくできるようにね。
で、紐や金具がどうなっているのかを解いてからつけるのも。きっと外れたり切れたりした時の為にだね。
そうして装備の解説をしてくれたんだけど、言葉の壁があるんで、向こうも実技だけを伝えてくる。
たぶん、小物類の装備品やらこれからの事を説明したいんだろうけど、それは無理だしねぇ。
まぁ自分の装備がどうなっているのかが大まかに理解できたところで、カウンターのあるロビーに戻った。
あの親爺の執務室のあるホールね。
さっきよりは混雑が減っているが、相変わらず喧騒が広がっている。
まずは、片隅にある小さな机に向かう。
そこには蝋板が置いてあって、金属の筆で記入する。
ちなみに蝋板は木箱に大量に積み上がっている。コストと環境に優しいペーパーレスらしい。
そこにアリキが何かを書き込んで、蝋板を端っこのカウンターの窓口に突っ込む。
突っ込まれた蝋板が山になってるけど、それを職員がやる気なさそうにチェック。
どこかへ持っていく。
そこから時間にして十分ぐらい?メガホンみたいなのを口にあてた職員に呼ばれた。もちろん、アリキが。
カウンターの中でも、あまり混雑していない受付に並ぶ。
たぶん、ワーワー言っている集団と、自分たちの要件は違うんだろうな。
順番が回ってきて、受付の人が指し示す書類を確認。
アリキが頷くと、受付から木切れを渡された。
それを見せてもらったが、割符らしい。
単純な絵が描かれており、それを半分にしたものだ。
この絵?文字を多分、言いながら、一番騒がしい場所に突入。
つまり、同じ絵の人と合流を目指すわけだ。
いたいた。
今回は桃みたいな果物の絵が描かれており、相手方の木札とぴったり一致、無事合流。
一連の流れで何となく理解。
要望のすり合わせ作業かな。
さて、無事合流した相手と、ロビーから出る。
カウンターの右側奥の大扉だ。
大きな両開きの扉が開いており、その奥は長い回廊になっていた。
入口付近の門衛に、合流した相手方が何かを見せる。
通行証?なのかな。手元はよく見えなかった。
その間、アリキは他の通過者から、次々と声を掛けられてる。どうやら、アリキは顔が広いようだ。
もちろん仮面は無しだよ。あの仮面ってなんだろうねぇ。
待っている間、観察したんだが、通行証を見せているのは、一部だ。
どういう基準なのかはわからない。だが、この合流相手は通行証?が必要のようだ。
合流相手は、五人。
両刃斧の男、鎧兜のプレートメイル?ってのかなぁ。見える口元と様子から、人間、かな?
肥えた感じの剣の男、鎖帷子に重そうな盾、この男も見える限りは人間っぽい。
そして同じく重装備に槍、少し痩せぎすの男だ。
この三人は、自分の知ってる人間ぽい。
けど、言葉はわからない。わかる気がしない。これに関してはちょっと、びっくりした。
英語でも日本語でも無い。たぶん、知ってる感じの言語な気がしない。と、いうか言葉なの?
さて残り二人は、弓だ。
弓使いで軽装革鎧の双子だ。
こちらは少し耳が長い。顔を見る限り、コスプレでもなさそうなので、異種族の男たちだ。
歳は若そうで、見る限り他三人とはあまり会話をしていない。
さて、無事に通された先。
回廊は複数に枝分かれしていて、自分たちは左手の通路へと折れていった。
先にも後ろにも同じような集団がいたが、比較的、若年者や軽装の者が多いように思えた。
どこに何のために向かうのか?まぁ背負子に何かを積んで戻る仕事だろうけどね。
そうして暫く進むと、手の入った通路から岩肌に洞窟といった感じの場所に変わる。
この巣穴は、この岩窟が元なのだろうか?
その穴の先が薄明るい。
前方が開けて、光源があるようだ。
たどり着いてみれば、巨大な竪穴。
その竪穴には、無数のゴンドラが設置されていた。
炭鉱?
巨大さに圧倒されていると、ゴンドラは次々と人々を載せては、垂直の穴に落ちていく。
真っ黒な穴が恐ろしかった。
***
遠くで何かが爆発する音がした。
花火のような音。
高速で下に落下していくゴンドラ。
そう、落下という表現が相応しい。
壊れたエレベーターが落ちていく感じだね。でも、壊れていないようで、誰も怖がっていない。
自分も最初は床や側面の壁に突っ張っていた。けれどバカバカしいほど誰も気にかけていない。
見える景色はゴンドラの歯車が出す火花と高速で流れる岩窟だと言うのに。
ガタガタと小刻みに揺れて、自分には不穏でどう考えても墜落途中って感じなのになぁ。三半規管が弱かったらゲロっている整備不良のジェットコースター?
でも乗り込んでから結構な時間、揺られ続けていると緊張しているのが自分だけだとわかる。
ゴンドラの薄明かりの中、まわりの奴らを見る。
手ぶらで気楽な様子のアリキ。
弓使いの双子以外、三人は床に腰をおろして雑談している。
両刃の斧、初めて見たなぁ。
大きな両刃の剣、それから西洋槍に弓か。
これまでの生活の中で、武器に触れた事はなかった。
その刃物というか武器らしいって感じ?実用してる生々しさにドン引き。それから双子の耳がファンタジーな感じに長くて尖ってる。とかどうでもいいか。
ただ、ちょっとひっかかるんだよなぁ。
違和感?
なんだろう?
最初に気が付いたのは、彼らの会話?だ。
武器の形、鎧姿、男たち。
思い描くファンタジー職業との類似点。
それでいて、男たちの言葉は何だか言葉としても聞き取れない。
むしろアリキパイセンのジェスチャー混じりの方が、意味、として頭に届く感じ?
何か、変なのよ。
この大斧、剣、槍の三人の会話。
まるでテレビとかラジオのノイズ音みたいなんだ。
じゃぁファンタジー双子、推定エルフっぽい二人のボソボソ会話は、センテンスというか、区切りやアクセントで、外国語って感じに聞こえる。
そしてパイセンの言葉は、ダイレクトで時々、妙に届くんだ。
自分の理解できる単語が混じっているような錯覚?
いや、似てるんだよなぁ、完全に外国語なんだけどね。
そう英語を聞いてる感じ。
ちょっと外枠はわかるっていうか、早口で流れる英語だよって言われたらそうかって感じる程度のさ。
ちなみに、英語は苦手どころか、もう、壊滅的に苦手科目だったねぇ。
つまり、牢屋にいた頃から今まで、言葉って奴はわからないだけだった。
彼らは会話をしているんだって事だけはわかるわけ。
つまり、会話っていう概念はあってる。
文字があって言語があって、会話する生き物だ。
だから、外見が鬼みたいだったり1つ目さんだったりしても、意思疎通できそうかもって思えた。
けど、この三人。
限りなく人間にしか見えない大きな男三人は、何だか、そう思えないんだよ。
彼らは三人座って会話?している。
口が開いて何かお互いに言っている。
けれど、それが鳥の鳴き声だとしても、会話なんだろうと想像できるんだけど、何だか、何だろう?ノイズなんだよ。
あぁわかった、そう、放送倫理にひっかかる時のピー音だよ。
もちろん、ピー音じゃなくて、ラジオの雑音に近い音だけどね。
ヒアリングの問題なのかなぁ?
今までで、一番、同じ人間だって外見の奴らなのに。
あぁそうか。
何だろう、多分、外側が一番、自分と同じに見えたから期待してたのかな。
でも、この三人の男たちとは、まったく意思疎通ができそうにないってわかるんだ。
もしかしたら、ジェスチャーとかならって考えもなくはない。
けど、何だろう。
魚とか昆虫とか、相当の壁が存在していそうな感じ。
ガッカリしたのかもね。
そこで考えるのを止めた。
で、アリキ先輩はこっちを指さして、彼らに何かを言っている。
まぁ大凡、これは見習いの役たたずで俺は付き添いな。研修だから、そこんとこよろしく。もしくは、今日が初めての奴隷だからなって感じかなぁ。
それに三人は何か雑音を発したが、鎧兜なんで表情もわからない。
かわりに双子の弓士が頷いた。
ヌガーという言葉も聞こえたので、こっちは頭を下げておく。
この頭を下げる行為の意味も同じだと思ってる。
牢屋での兵隊とのやりとりでも大凡意味は通じていたと思う。
まぁ思うだけだが。
そして双子の、たぶん、年若い彼らの内、耳飾りが赤い方のが、笑顔を浮かべた。
それからアリキとおしゃべりを始める。
さて、そんな感じで何の目的でゴンドラに乗っているのかわからないが、上で受付していたのは、この下へと潜る事のようだ。
ゴンゴンと長時間落下する金属の檻。
これ、海外の古いエレベーターに似てる。金属のカゴみたいなゴンドラだ。
照明は天井部分にあり、オレンジ色を発する丸い何かがはめ込まれている。
やっぱり、それは電気でも炎でもない、何かミョンミョン言ってる小さな丸い何かが詰まった硝子玉に見えた。
それを見つめて、何となく現実感が失われていくのがわかる。
正気を失っていくって、こんな感じなんだろうか?
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