第33話 『終結』

 翌日、何事もなかったかのように文化祭は二日目を迎えた。

昨日よりも円福寺のクラスは大盛況。

何故だか同好会の展示の方も沢山の人が訪れていた。


「なんだ、この軍勢は…… 」

「信じられない、夢?」

「違うわよ。現実みたいね」


 午前中で未だに寝惚けている廻神の頬を深水がつねる。


「いふぁい、いたい」

 よく見ると一点に視線が集中しているのが分かる。


「円福寺とクロの御蔭、みたいだね…… 」

「まさか昨日の今日でこんなに見物人が増えるなんてね」

「にゃー」

「お、噂をすればだな」

「全く、どこに行ってたのよ」

「にゃ~」

「へぇ、あくまではぐらかす訳ね」

「あ、あれって例の黒猫じゃない?」


 深水が高音を出して群衆にクロの所在を知らせる。


「本当だ!」

「一回でいいから触らせて~」


 くるりと方向転換して標的はクロに変更。踏み潰してしまいそうな勢いで黒猫を追跡す

る。


「ふふふ、いい気味ね…… 」

「恐ろしい…… 」

 嗜虐的な笑みを浮かべる深水に、一同は苦笑い。


「あ、いたいた。早く行かないと入れなくなっちゃうよ~」

 そんな空気を押し退けて彼方から尾崎が駆けてくる。


「何のこと?」

「何って、一年一組の店に決まってるじゃない!」

「おい、まさかそんなことのために俺を呼びつけたのか?」

 当然佐伯も一緒だ。


「そんなこと⁉友達として売り上げに貢献しようとしてるのに!」

「まあ、そういうことにしておく」

「どうせ俺らも暇だから行くか?」

「私は別にどっちでもいいわよ」

「僕も目当てのものは昨日回っちゃったし」

「よし、満場一致で決定‼」

「満場一致?」

「そこは突っ込まないでやってくれ」

 

 斯くして僕達は売上に貢献するという名目で一年一組の教室へ進軍を始めた。


「あ、いらっしゃいま—— 皆さん、お揃いでどうしたんですか⁉」

「なんでも売上貢献なんだと」

「は、はい…… そうですか」

 

 唖然としながら僕等を案内して、そつなく仕事を熟す円福寺。

もう慣れたということなのかな。二つの意味で。


「ご注文は?」

「いつもので」

「アホか」


 調子に乗って暴走中の尾崎を佐伯が力ずくで直そうとする。


「あははは…… 」

 反応に困り果てて愛想笑い。


「昨日と同じ—— 」

「—— はい、畏まりました」

「覚えてるの⁉」

「はい、なんか自然に」

「なんかメイド店員が板についてきてるわね」

「メイドの要素は別に欲しくないんですけどね…… 」

「くか~」

「おい、廻神起きろ」


 大きな危機が去ったからか、皆の表情はいつもよりも明るく一切の翳りも感じない。

 そうして一日目に比べて遥かに短かった二日目は何をする訳でもなく幕を閉じた。

 落日が近づいた頃、写真同好会+α の七人は超会議の場所へと集っていた。


「終わりか…… 」

 藤原が珍しく寂しそうに呟く。


「文化祭、結構楽しかった」

 あれほど文化祭を嫌がっていた廻神も仄かに嬉しそう。


「特に何した訳でもないんだけどね」

「まあ、終わり良ければ全て良しだろ」

「おお、佐伯もたまにはいいこと言うね。在り来たり過ぎてあれだけど」

「まあ、いいんじゃない?こんな時ぐらい」

「そうですね、とても楽しかったですし、それに—— 」

「—— 幸せでした」


 改まって良くもおかしなことを口走る円福寺の言葉に相好を崩して、同意しながらも僕

達は堪えられず吹き出してしまった。


「あれ、私おかしなこと言いましたか…… ?」

「うーん、おかしいと言えばおかしい?」

「まあ、良いんじゃないか。間違ったことを言っている訳でもないしな」

 

 彼女の顔から火が出るのに続くように、校庭の炎が盛っては揺らめく。


「下も盛り上がってきたみたいだね」

 

 よく見ると輪の中に嘗ての敵の姿も。結果オーライなのかな。

 祭りの終わりと共に何もかも終わってしまうような謎の違和感を覚えながら、僕達は各々帰途に、そして眠りについた。

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