第32話 『五感拡張』
「うん…… ん?」
僕は学校の冷たく汚くもなく綺麗とも言えない床で目覚めた。
見たところ僕の他に起きている人間は居らず、視界内の全員が気絶したように眠ってい
る。確か夢野と五十嵐を機能停止させて、満足して皆意識を失って……
「あれ…… ?」
目の前の何の変哲もない壁をまじまじと見つめて僕は目玉が飛び出そうになった。
「この壁ってさっき壊れた筈じゃ…… 」
一応壁に手を当ててみるけれど、矢張り実物。コンコンコンと叩くとちゃんと反作用もある。至って普通の壁だ。
暫くして廻神が覚醒。
「壁が…… 直ってる?」
その後も一人ずつそのやり取りを繰り返したのは言うまでもない。
「暴れ者の対処ご苦労様。いや~超能力の内容は知ってたんだけどね。いざ体験すると胸が高鳴るよ!」
「あの悲惨な状況を見てよく…… というか博士もあれを目撃したんですね⁉」
「ああ、事前に避難していて遠目からだけどね」
「事前にって…… ご存知だったんですか⁉」
「大声を出さないでくれ。まさか、僕が知っていないとでも思っていたのかい?」
「まあ、例の如く既知だとは思いましたけど」
「あーそうか、君にまだ僕の超能力を明かしていなかったね」
「いや、超能力者ってことがそもそも初耳なんですけど」
「ずばり『五感拡張』だ!」
「はい?」
「だから、僕の力の名称だよ。どうだい?」
「どうと言われても…… いつもよりは解りやすいですね」
「まあ、そのことは今はいいんだけど。君から掛けてきたということは何か要件があったんじゃないのかい?」
「はい。主に二つ質問と報告が」
「一つ目は五十嵐とあの二人の超能力について聞いておきたいんですけど」
「五十嵐っていうとあの眼鏡の子だね。あれは言わば『言霊顕現』かな」
「また意味不明になりましたね…… 」
「特定の言葉をトリガーとして彼女が望んだ事象を引き起こすという感じかな。データ不
足で詳らかには分からないけど」
「じゃあ…… あの二人は」
「片方はシンプルに『超能力削除』、もう一人は『光線銃』だね」
「何か、凄い雑な気が…… 」
「仕方ないだろう。単純過ぎて特に面白みもないんだから」
「酷い言われようだなぁ…… 」
「それで、二つ目は?」
「はい、それは校舎が知らない間に直っていた件で」
「それについては全く仮説も立てられないんだよね。超能力でもないみたいだし」
「予想を立てるとしたら神の仕業、とか?」
「無理に予想を立てなくていいです。あと報告というのは僕の超能力の件で」
「発動条件のことかい?」
「よく解りましたね…… まあ、判明したというより推理的なものに近いんですけど」
「博士風に表現するなら、『超能力者との邂逅と死別』ですかね」
「邂逅というのは超能力者と接触するということだろうから理解できるけど…… 死別というのはどこから来たんだい?」
「えっと、藤原が一度屋上から飛び降りた時に僅かに時間が止まったので、一個目の条件と紐づけるとそんな感じかなと」
「成程、面白い推理だね。僕もその方向性で考えさせてもらうよ。じゃあ—— 」
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