第12話 『顔合わせ』
「また来たのか?」
「うん。この間言ってたメンバーを紹介しようと思って」
僕が手を上げて合図を送ると、三人が扉の陰からぞろぞろと出てくる。
「よろしく……」
「はぁ……」
「宜しくお願いします」
円福寺は良いとして、二人は目を細めて雑な会釈をする。
ファーストコンタクトが大事なのになぁ。
青筋を立てて御冠になるんじゃないかと冷や冷やしていたけど、彼の反応はそんな想定すらも凌駕して開いた口が塞がらないという風だった。
「『不老不死』だって聞いてたからどんな大層な人間かと思ったら、只の社会不適合者なのね」
「……‼」
「っ……!」
辺りの空気がひんやりとして、体感温度が五度下がる。
一体深水は何を言い出しているんだ。今日はいつにも増して凶暴だ。
彼は殺気を帯びた眼差しを発射するに見えたが、少し呻いて俯き黙り込んでしまった。
一体彼の心域の内奥に何が秘められているというのだろう。
「実に下らないわね。帰らせてもらうわ」
「にゃー」
その言葉と歩みを遮り妨げるようにクロが粛々と進んでくる。
「クロ? あ、今日会いに行くの忘れてたよ!ごめんね……」
円福寺が手を合わせて黒猫に謝罪する。
「遅かったわね、クロ。もう会議は終わったわ」
議長を自称する彼女は勝手にお開きにしようとする。
「にゃー」
「はぁ……解ったわよ」
猫が何か深水に伝えたらしく、深水は廻神に目線を送る。
「……?——!」
何の事か理解出来ない顔をしてから、急に右手の拳を左の掌に打ち付けて、円福寺の腕を掴む。
「え、廻神さん何を——」
その刹那廻神と共に円福寺が姿を消す。
「どうやら成功したようね。もう良いわよ、クロ」
「助かる。あの子に知られる訳にはいかんのでな」
「⁉」
彼はまた驚愕して、頤が外れないかと心配になる。
「驚かせてすまないな、少年。私も彼等の一員なのだ」
別に言うのを忘れていた訳じゃないんだけど、ただそのまま口にしても意味不明だから保留にしていた。
「本当に何なんだお前らは……」
「なに、只の烏合の衆だ。但し超能力者のだがね」
「本当に俺なんか入れていいのか?」
「大丈夫だ。君が裏切ったとしても全く脅威ではない」
「そうね。あんたじゃ、私たちと並べない。まあ、最低限協調はしてあげる」
「二人とも……取り敢えずよろしく」
「ああ……」
無礼な物言いばかりする彼らを眺めながら、彼は呆然と立ち尽くしていた。
その鳩は彼女に気付くなりゆっくりと下降して、肩へ乗る。
「もしかして、クロ?」
「如何にも。尤もこの姿の名前は豆太郎だがね」
「凄く適当ね。それで、何か話でも?」
「話というより質問だ。君はあの男をどう思う?」
「悪いけど近付くだけで頭痛がするわ。洗脳でもされそう」
「因みに何と?」
「『死にたい』と永遠に絶え間なく流れてくるの。あんなのゾンビと何ら変わりないわ」
「矢張りそうだったか。今年の四月から屋上の人影を見たというものが何人もいるらしいが、その人影は例外なく——」
「——『飛び降りる』でしょ?」
「御名答。恐らくその騒ぎも彼の所為だろう。しかし、私には理解が出来ない」
「それは同感だけど、具体的には?」
「死なないと解っているのにも拘らず死を試みるというのが謎だ。不死だからこそ色々なことをしたいと思うものではないのか?」
「よく解らないけど、カリギュラじゃない?」
「死ぬことを禁止されると、余計死にたくなる。ということなのか?」
「さあね。私の超能力を以てしても解析は難しいと思う」
「ほう、君の力は万能だと思っていたのだが」
「それはとんだ思い違いね。わたしにとってはこんな力、『呪い』以外の何物でもない」
「君も彼と同じか……案外お似合いなのではないか?」
「なっ、何をい言い出すのかとお思えば……」
「随分と動揺しているようだが、大丈夫か?」
態々鳩から変身した黒猫は尻尾を激しく揺らしながら、彼女の瞳を覗き込んだ。
「あなた、前世でも陸な人間じゃなかったのね……」
「ああ、私もそう思う」
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