第11話 『協力交渉』
「——という感じなんだけど……」
三人は顔を見合わせて、またこちらに向き直った。
「こんな短期間に四人+一匹って多過ぎない?」
それは確かに。この二、三か月で色々起こり過ぎている。
「私の所為でしょうか……?」
「いや、そんな事はない。円福寺加入前から」
無愛想な廻神も円福寺には優しい。この調子で深水とも仲良くして欲しい。
「それは無理ね」
「何が無理なのだ、女」
そうかぁ……まあ気長に待とうかな。
「先程の話の通りなら、その男はどうやっても死なないってことよね?」
「そんな人間がいるものでしょうか……幾ら超能力といっても無理がある気がします」
「不死……はっ、眠れない!」
約一名を除いて皆考え込む。
「それで?名前は聞いたの?」
いや、それは……それどころじゃなかったからなぁ。
「はぁ……明日捜すわよ。そのゾンビ」
いや、ちゃんと人間だったと思うよ。多分。
「「オー」」
二人の間の抜けた声だけが虚しく響き渡った。
斯くして、僕の証言を基にして似顔絵を描き、彼を捜索することとなった。
何か彼を犯人に仕立て上げているような感じだなぁ。
因みに聞き込みはしていない。何故なら必要ないから。
似顔絵を持って歩き回るだけ。そうすると、深水の耳に情報が流れ込んでくる。
「私たちと同学年、三組ね。名前は……藤原匠」
「あ、あの人ですか……」
「知ってるんですか?」
「はい、少しですが。いつも一人でいると」
「それ本当らしいわね。誰も彼のことを気に掛けていないもの」
途轍もない悲愴感が込み上げてきたけれど、ぐっと抑える。
「にゃー」
あれ、どうしてクロがここに?
そうして驚いていると黒猫は瞬く間に肩に駆け上り、僕に耳打ちする。
「捜し人は頂だ」
どうして態々……ああ、円福寺はクロが喋ることを知らないんだっけ。
黒猫としてもそれは伏せておきたいらしい。
「分かりました」
「どうかした?」
「いや、ちょっとお手洗いへ」
「——了解」
深水は悟って穏やかな微笑みで僕を送り出す。
随分と丸くなったなぁ。
その瞬間、彼女はむすっとした。
彼女たちを残して僕は彼の一度目の墓場へ向かう。
「誰かと思ったら、あの時の奴か。こんな場所に何の用だ?」
「ちょっと君に聞きたいことがあって」
「何だ?」
僕は特に考えることなく質問した。
「君は死なないの?」
「解らん。死んでいないのか、それとも死んだ直後に生き返るのか、当の俺には観測が出来ないからな」
彼は至って真面目に答えた。どこか悲しげな瞳で。
「そうなんだ……」
「こんな話信じるのか?」
「だって、実際にこの目で見たし。それに——」
「——僕も君と同じような感じだから」
彼はその意味を推測するように首を傾げた。
「それは、お前も死なないということか?」
「いや、そうじゃないよ。変な境涯だってこと」
「変な境涯……俺の不死以外にも種類があるのか?」
「うん。少なくともあと五種類」
「五種類……じゃあお前はそんな四人と連んでいるのか⁉」
「そういうこと。だから君も僕たちの仲間にどうかと思って」
「断ると言ったら……?」
そんなの決まっているじゃないか。味方でないのなら。
「——君を僕たちの敵と見做して排除する」
深水から仲間に引き入れる為なら手段を選ぶなと言い付けられている。
今回の脅しも彼女から教わった交渉テクニックだ。
それ程に『不老不死』とは貴重であり、脅威なのだろう。
「ふっ……排除するだと?笑わせるな。俺は死なないんだぞ」
うわぁ……完全に敵対路線なんだけど。
えっと、確かこんな時は……
「死ななくても構わないよ。衆寡敵せず、数ではこちらが圧倒的に有利だ。殺す必要なんてない。幽閉でもすればいいさ」
「……!」
うわぁ……自分で言っててもぞわっとするなぁ。深水怖い。
悪寒が肌を駆け巡るけれど、虚勢を張ってほくそ笑んでみる。
「——分かった。俺で良ければ力を尽くす」
「うん、ありがとう」
僕は笑い掛けたけれど、返ってきたのは小さな悲鳴だった。
作戦は成功したけれど、僕へのイメージが頗る悪くなったような気がする。
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