第17話 告白
「紋太くんからこれを預かった。校長から屋敷への送金記録だと彼が」
サッカーボー型のUSBメモリを差し出し半月を開く。
「資料にはなかった人物ね」
「教団の幹部だと」
紋太から得た情報を伝えると、来未は角バッドに便箋を丁寧に置き、研究室のノーアにメモリの解析を命じた。
『暗号化されている箇所を復号化します』
「ありがとう、ノーア」
マスターの言葉に人工知能はモニターを虹色に点滅させる。
「紋太くんは元気になったかい?」
「ええ。もう話せるわ」
「良かった。実は他にも証拠品がある」
糸とピンを差し出して、密室の絡繰りを説明する。
「聡明な子ね。テレパスなら、校長が襲いかかってきた時はさぞかし怖かったはず」
「炙り出しはいつ書いたのかな」
「校長が亡くなったから証拠品が回収されると予測したのね。罪悪感に苛まれて辛かったでしょうに」
琥珀色の瞳に涙が溜まる。抱きしめると、ドクンドクンと心音が聴こえてくる。これが人工心音だとしたら、母さんは間違っている。
「来未さん、付き合おう」
「え?」
「君が好きだ。ブロンドヘアも、アンバーの瞳も」
「でも」
「君が何者でも構わない」
腕に力を込めると、来未の吐息が漏れる。
『お二人の相性は13%です。お先真っ暗、マスターは拒むべきです』
ノーアがいつもより早口で横槍を入れる。
「ノーア、解析は完了したのかしら?」
『流の発言で、エラーが出ました。再度復号化します』
「完了したら、メールに添付して山村刑事に送ってちょうだい」
『はい、マスター』
指示して俺の腕からするりと抜け出ると来未は「考えさせてください」と真顔で言った。
「何だって?! それは深刻だぞ」
「だろ? いつの間にか呼び捨てになってるし、あいつ俺を目の敵にしてるんだよ」
「アホ、来未さんだよ」
翌週、またもや兎狼の森を訪ねた俺は、丘夫妻にあきれられていた。
「流、来未に保留の理由を聞いたか?」
「いや、それが実験室に閉じ籠もったままで出てこないんだ」
「避けられているな」
「子供を憐れんでいる時に告白なんて、あたいならその場で蹴ってるね」
「コラ皐、すまないな、こいつはのキックはみぞおちに入るから気をつけろよ」
「だって涙が綺麗でさ、居ても立っても居られなかったんだ。体が勝手に……わっ!」
本当に皐の回し蹴りが飛んできて、体をはって止めた平次の急所に直撃する。
「平次、邪魔すんじゃねぇ。あたいはこういう独りよがりなやつが1番嫌いなんだ」
皐は首を横に振る亭主の脇腹に、更に拳を2発打ち込むと、気が済んだ様子で冷蔵庫のウィスキーボンボンを口に放り込んだ。
「コラてめ、皐!」
悶えていた平次が今度は後ろから皐を羽交い締めにし、濃厚なキスを始めた。こちらが恥ずかしくなって目を覆っていると、「あたいのチョコ返せ」と声がして、皐が反撃している。
艷やかな唇の皐が3人分のコーヒーを注ぐのを細目で確認してから恐る恐る手を離すと、カップは先日見たのと同じ金属製である。
「流はお袋さんの血を残したいか?」
皐はそう言って1枚の写真を差し出した。皐と同じ銀髪の男女が笑っている。
「これは、君の本当のご両親?」
「うん。今のあたいがあるのはダディと、パパとママのお陰だ。来未が考えているのはその事かもな。彼女は一旦反故にした博士との約束を遂行すべきか悩んでいる」
「皐さんは、来未の正体を知っているのかい?」
「本人に聞きな」
「傷つけたくないんだ」
皐は困ったように平次の方を向く。平次は腕組みしたまま静かにうなずく。
「たぶん、来未は妖孤だ」
「ヨーコ?」
「化け狐だよ」
皐が珈琲カップを差し出す。俺は受け取ろうと手を伸ばす。
「あ……れ?」
伸ばしたが平衡感覚が失われ、目の前が暗くなった。
「流!」
暗闇に落ちていくような、不思議な感覚がした。
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