第15話 俊介の能力

 子供達は元気で明るく、ごく普通の小学生に見えた。

「皐先生と流先生は恋人同士なの?」

6歳の花村桃花が目を輝かせて尋ねる。この子はどんな特殊能力なのか、万が一紋太以外に心の読める子供がいたら嘘がバレる。

「違うよ。あたいには勇敢な旦那様がいる」

「だったら桃花が流先生のお嫁さんになる!」

「流先生には好きな人がいるんだ。臆病で告白できないけどね」

「そうなの? 流先生、当たって砕けろでしょ、頑張らないと」

桃花は憐れむ目で俺の尻をポンポンと叩く。

「はは、ありがとう」


「あのね、お薬を隠したのはきっと教頭先生よ。よく校長先生と口喧嘩していたもの」

桃花が背伸びして耳打ちする。

「仲が悪かったの?」

「うん。犬と猿なのよ」

「君は教頭先生怖くないの?」

「だって子供にはとっても優しいもの」

少女は窓際のオジギソウに小さな指を絡める。後ろで束ねている髪はぴょんぴょこハネている。


 皐が子供達と絵を描きたいと言うので四時間目は課外授業とし、自分は校長室へ行ってみると、なるほどモダンな外観に似つかわしくない獅子の欄間があった。廊下側からも眺められる豪華絢爛な造りは校長の趣味だろうか。僅かな隙間は空気孔を兼ねているようにも見受けられた。

 室内はというと、高そうな壺や灰皿が目につく他に特に気づくことは無かった。サムターン錠はごく一般的なもので鍵はディンプルキー、複製したというよりは紋太の言う通り、糸で施錠できるのならそれが手っ取り早いように思えた。

 教室に戻り、昼食の配膳をしていると平次から連絡が来た。紋太くんは何か薬物のカプセルを飲んだようなので胃洗浄を済ませたが、このまま入院する、教頭とも連絡が取れたようだからニアミスする前に学校を出たほうが良いという。

「あたいもそう思う。どのみち昼過ぎにはここを出ないと、日没後は帰れなくなる」

「仕方ない。俊介くんに協力してもらおう」


 年長の俊介を呼び出し協力を仰いだ。紋太が倒れなことは内密にしていたが、俊介は何かを悟っている様子で開口一番「僕が教頭にうまく説明するよ」と言った。

「俊介くん、君の能力はどんなだい?」

彼は小柄な眼鏡の少年で、肌が小麦色に焼けていた。

「僕には悩んでいる人の未来が見える。大人達は『占い』って呼んでるけどね」

「俺の未来も見えるのかい?」

「うん。でも、それがいつなのかは分からない、明日なのかずっと先なのか。それでも知りたいの?」

「恋煩いでね。いや、止めておこう」

子供に何を口走っているのか苦笑すると、俊介は手を引っ張って顔を近づけ、熱を測るように額を額にコツンと当てた。


「先生は妖怪?」

「え?」

「先生の輪郭が2重に見える」

そう言うと俊介は顔を離して、半歩後ろへ下がった。

「俊介くん。君……」

「先生は若く化けているの?!」

もう一歩、後退る。

「ああ、なるほど」

驚く事に彼には42歳の俺が見えるらしい。

「俊介くん、お化けなんてこの世にいないよ。俺はね、病気でコールドスリ……」

「あっ、整形しているんだね? 本当はおじさんなんでしょ?」

「うん、まぁ整形じゃないけれど、戸籍上はおじさんだ。滝田さんには秘密にしてくれよ?」

「いいよ。でも滝田さんとは上手くいかないみたい」

俊介は申し訳なさそうに下を向いた。


「はは、意中は他にいるから問題ないよ」

「でも、隣にいたのは人間じゃなかった」

「まさかロボット?」

彼が本質をイメージ出来るのなら、来未の事がロボットに見えているかもしれない。

「ううん、狐」

「狐?」

「うん。尻尾が2本のお化け狐。先生、好きな人には振られて、ペットを飼うのかもね」

俊介は柔らかな笑顔で笑った。


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