第14話 急変

「犯人を知ってるのか?」

「テレパスやと言うたやろ? 証拠は無い。あるのはこれだけや」

呉竹紋太は半笑いでピンと糸を俺のポケットに押し込んだ。

「君……」

「説教は地獄で聞くでええわ。これは優秀な方の探偵に渡してほしい」

首から外したのはサッカーボールのネックレス、中央に割れ目がある。

「これは……?」

開くとUSBメモリである。

「校長が屋敷にあてた報酬の記録。一見、暗号化されとるけど、間違いない。口座の振込記録を調べて、母さんの事件を再捜査してくれへんか?」

「君はどうするんだ?」

「罰を受けるよ。そろそろかな」


紋太は急に苦しみだし、その場に転がった。

「紋太くん、おい、しっかりしろ!!」

「きゃぁ、だ、誰か、救急車を」

ちょうど部屋に入ってきた滝田が驚いて叫び声を上げる。皐と平次が遅れて入ってくる。紋太は痙攣を起こしたかと思うと、すぐに呼吸と意識がなくなった。

「救急車を待てない。平次、篠塚さんを!」

無我夢中で気道確保、人口呼吸と心臓マッサージを始める。平次がスマホを耳にあてると同時に、皐は窓を開けて指笛を鳴らした。生暖かい風が吹き込み、ピューイッという音が2回、森の中に響き渡る。

「流のボディガードを呼んだ。あたいが代わるから迎えに行きな!」

「来未が、ここに?」

「バイクに気付かなかったのか? 鈍いやつだな」

皐は俺の体を押しのけると、交代で心臓マッサージを始めた。

「すまない。任せても?」

「もちろん。生きる術は養父ダディに教わっている」


 玄関へ向うと、本当に迷彩服を纏った来未が現れた。背中には四角いリュックを背負っている。彼女はオートバイのエンジンを止めると、まっすぐこちらに走って来る。

「患者は?!」

「こっちだ」

来未をつれて廊下を戻ると、事務員の滝田が朱色の鞄を手に反対側から走ってくる。

「ハァッ、長谷川さん、ABCです!」

「私に貸してください。処置します」

来未が手を伸ばすと滝田は警戒して鞄を抱え込んだ。

「なな、何ですか、貴方!」

「私は医師です」

「大丈夫、彼女は私の主治医です。急ぎましょう」

微笑みかけながら鞄を抜き取ると、滝田はまだ怪訝そうな顔で「この人が?」と小さく呟いた。


 ひざまづく皐の顎からは汗が流れ落ち、床板に染みていた。交代で心臓マッサージを続ける平次の荒い息遣いが響く。来未は紋太の体操服を捲り、慣れた手付きで電極パッドを肌に貼り付けていく。

「みなさん紋太くんから離れて!」

「ああ……神様」

滝田はペタンと床に崩れ落ち、手を合わせた。



 自動解析の後、電気ショックを与えると、紋太の呼吸音が再開した。

「病院に運びます。付き添ってくだい」

「で、でもここはどうしましょう。実はあんなことがあって、教員が皆辞めてしまったのです」

滝田は未だ教頭と連絡が取れないと、青い顔をしている。

「流を残そう。教員免許がある」

「本当ですか?」

「まあ、以前は小学校に勤務を」

 母のような才能の無かった俺は、大学を出てすぐ隣町の小学校で働いた。病魔に冒されてからはラボを手伝うこともなく遊んでいたのだから、模範となる人となりではないのだが、生徒の人気はあったほうだ。

「あたいも残る。帰り道のナビが必要だろ?」

皐は来未からバイクのキーを受け取ると、作業着の右尻のポケットに押し込んだ。


「では生徒をお願いします。長谷川さんでしたわね?」

「いえ、五十川です」

もしも警察沙汰になれば、偽名はマズイ。

「え?」

「多分、聞き間違いでしょう。それとあの機械はAEDです。説明する際にはそうおっやると良いですよ」













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