第13話 少年の能力

「お兄さんは修理屋だよ」

「朝から空調が効いてへんし暑いわ。もう少し配慮できひんかったんか?」

関西弁の浅黒い肌の少年は、天井の空調設備を指差してため息をついた。

「君は……呉竹くん?」

少年はパソコンの液晶モニターを覗き込みながらうなずく。

「教頭おらんやろ? ビタミン剤に下剤を足したんは僕や。感謝してもらわな」

そう言って彼は下剤の小瓶を見せた。

「君は一体……」

「簡単な推理や。点検したばかりのエアコンと防犯システムにおかしなエラーが出て、滝田さんがメモした社名は架空やった。ほんで修理屋は別の目的でここに来はるやろと思った。あんたは誰や?」

「探偵助手だよ。君、レモンって暗号をくれただろう?」

「あの手紙を見たんか。暗号が解けたなら、メッセージも読んだ?」

「メッセージ?」

「チェッ。ポンコツか」

紋太はガックリと肩を落とす。


「君が校長室の薬を隠したの?」

「薬は知らん。僕はただ俊介を守りたかっただけや」

「友達を守る為に校長先生に歯向かった?」

「あ、あいつが先に殴ったんや!」

誰かに聞いてほしかったのか、紋太は堰を切ったように話し始めた。


 彼が校長室を訪れたのは親友の佐竹俊介が宗教法人『六光会』の養子に出されるのを阻止する為であった。教団は信者を集める為に不思議な力を利用していたが、高齢化で後継者を探していた。

 あの日、校長は終始不機嫌だった。六光会の事に言及すると彼は酷く驚き、暴行を加えてきたのだという。紋太は机にあった鋏で抵抗し、校長室から逃げた。

「だが……」

あとは報告書の心不全だとしても、校長本人が中から施錠したとは考えにくい。現場は密室、サムターン錠の鍵は校長自らのポケットにあった。


「謝ろ思って戻ったら、校長は気ぃ失うとった。血もそう出てへんかったし、獅子の欄間を使うて鍵をかけた。糸とピンと椅子があれば誰でも出来る」

勘が良いのか紋太が答えた。

「どうして鍵を?」

「昼寝の合図やし、誰も入らん」

他の教員が起しにこないよう細工したのだと紋太は語った。


「君達は志願してここに来たのかい?」

渦中の佐竹俊介は静岡市の養護施設の出身である。母子家庭で育ち、その母親をも病気で亡くしている。

「まさか。SNSサイトに能力を晒された子供の集まりや」

「晒す?」

「バズらす為にな。まともな親はそんなことせぇへん」

「君も動画に?」

「『超能力チャンネル』やわ。それを見た校長がおかんに会いに来てん」

癖なのか会話の合間合間に、紋太は何度も瞬きする。

「どんな動画?」

「封筒に入れた文字とか、選んだトランプのカードとかを当てる、えせマジック動画」

「君、透視できるのか」

「ちゃう。鍛えたかて僕は機密文書をようにはならん」

紋太は俺の横に来ると、「あんたは今、仕込み動画やったんかと思った」と小声で話した。


「君まさか……」

「うん、テレパスや」

紋太は人差し指を口に立てる。

「そのことを警察には?」

「言うとらん。警察にはおかんの調査を打ち切った奴がおる。だから優秀な刑事にだけ分かる暗号を送った」

紋太は母親の話になると涙を我慢して、半袖の体操服の裾で目をこすった。

「俺を信用していいのかい?」

「ええで。さっきからポンコツなりに考えてくれとるしな」

「はは」

「あんな、校長と教祖はずぶずぶやってん。母さんを突き落としたんも、教団の幹部の屋敷って男や」




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