第12話 山の学園
車は公道を4時間半走り、和歌山県の山中で停車した。
「おかしいな、道がありません」
「建物はまだ見えないな」
地図によれば、あと1キロ先に青空学園があるはずなのだが、土道が急激に細くなっている。
「辺りに民家は無いですし、別のルートを探しますか?」
「あたいにまかせろ」
皐はスライドドアを開けると、車からふわりと降りて目の前の大木を登りはじめた。
「えっ、皐さん?」
「俺達も降りて休憩しよう。登る皐の尻は格別だぜ」
平次は外に出ると腰を伸ばした。見上げると皐はもう上の幹まで到達している。蝉の声がかしましく響き、樹間から木漏れ日が神秘的に差し込んでいる。
待つこと数分、枝が大きく揺れたかと思うと、銀髪をふぁさりと広げて皐が着地した。
「猿に道を聞いたぜ! この獣道で正解だから歩いていこう。途中、二股に分かれている所は右に進めば、あとは道なりだって」
「猿?」
「ここいらの主だよ、信用出きる」
皐はにっと笑い一旦車内に戻ると、黒いボブヘアのウィッグに銀髪を隠し始める。
「主?」
「皐は動物と会話できる。だから能力のある子供達を他人事には思えないんだ」
平次は銀縁の眼鏡を装着すると、『安心システム社』のロゴ入りの鞄を肩にかけた。
眼鏡にロン毛の中年作業員、口紅にハットの美人作業員、茶髪にキャップの顎髭作業員に変装した俺たちは、車に篠塚を残し、縦に列んで歩いた。篠塚は建材の搬入ルートがあるはずだと言って、一旦引き返した。
20分ほど経ったところで分岐点を右方向に進み、草をかき分けながら歩いていくと、不自然なグリーンカーテンに行き止まった。
「これは、明らかな目隠しだな」
「見ろよ、奥に建物があるぜ」
互いに頷き、慎重にカーテンをくぐり抜けると、目の前に煉瓦調の立派な建物が現れた。
「こんにちは。安心システム社の長谷川です。ご依頼の件で修理点検に参りました」
キャップを目深に被りインターホンを鳴らすと、玄関から事務員らしき中年の女性が出てきて、ジロリとこちらを睨んだ。
「お車は?」
見ると建物の向こう側に幅の広い土道が見える。獣道は正規ルートではなかったようだ。
「途中でエンジントラブルに見舞われまして。約束の時刻に遅れてはならないので、歩いて来ました。仲間が修理中ですので問題ありません」
「まあ、それは災難でしたわね。どうぞ、冷たいお茶をご用意いたします」
こちらから微笑むと、先方も表情が柔らかくなる。
「素敵な校舎ですね」
「外観は明治の燈台附属官舎を模しておりますの。こんな山奥ですが、設備は整っています。私、事務員の滝田と申します。実は教頭の斎藤が急病で、校内を管理するパソコンを開くことが出来ません。私、機械には疎くて」
「お構いなく。我々が何とかいたしましょう」
「あら素敵。若い方は頼もしいわ」
そう言うと滝田は握手を求めてきた。
「一応プロですので」
「では宜しくお願いします。私は給食の準備がありますので」
気に入られたのか、しばらく手を握りしめたあと、滝田は部屋を出て行った。
「お前、年取らなくて良かったなぁ」
「うん。流は若くてカッコイイぞ」
二人にからかわれながらパソコンを開くとやはりロックがかかっている。
「出来るか?」
「仮にも五十川博士の息子だぜ?」
「じゃ、任せた。俺達は問題の校長室を見てくる」
二人の作業員は変装を楽しんでいるようで、喜々として調査に向かった。
パソコンは篠塚から預かったエラー修復プログラムを投入するだけであったが、パスコードの解析に少々手間取った。
「
背後から声がしてギクリとした。振り向くと、年の頃八つ程の痩せた少年が立っている。少年は胸に、呉竹と書かれた名札をつけていた。
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