第20話 ドラゴンロード
ずんっと地響きが鳴り出す。
恐らくはアイシアたちの攻撃だろう。
俺が尋問されたとき、敢えて仲間が強化される呪具を言った。それがうまく行けば、俺たちの勝利は間違いない。
クラミーと波瑠が回避すると真っ直ぐに突っ込んでくるランスロット王。
妖刀ムラマサが禍々しいオーラを放ち、こちらを見据える。
窓の外には垂れ込めた雲の中、悠々と飛翔する一体のドラゴンがいた――。
俺がここで負けるわけにはいかない!
再び力を込めてムラマサを押し返す。
妖刀ムラマサ。
持ち手の魔力を延々と吸い続け、魔の力へと変える変換機構。その切れ味は並大抵の剣を上回る。
しかし、剣技が下手なランスロット王には余る力。
剣をいなすと、俺は詠唱を始める。
ムラマサが地面に突き刺さると、その背後をとり、氷柱針を連射する。
「ぐっ!」
痛みでわめくランスロット王。
「父さん!!」
クラミーが悲しく嘆く。
だがもう遅い。
背中に突き刺さった氷柱を片腕で折ると、怒りの顔をこちらに向ける。
その双眸は赤く光り、人間のそれでないことは一目瞭然だった。
床から引き抜いた刀をそのまま振り下ろすランスロット王。
その力任せな一撃をかわし、剣を振るう。
「ランスロット王! お前はもう負けている。これで終わりだ!」
俺が刃を突き立てると、ランスロット王の腹に短剣が突き刺さる。
▽▼▽
アイシアは勝利を確信していた。
重力球をまともに受けて生き残った者などいないのだから。
これがアイシアの最大級の力。その力の前にはドラゴンでさえも無力だという。
それがなぜ、ここにいるのか。
アイシアが歩き出して上の階層を目指す――と粉塵の中から現れたのはオービスだった。
「ふん。こしゃくな真似をしてくれる」
無傷とは言わないが、ほとんどダメージを受けていない。
鎧が少しへこんだが、それだけのこと。
「お前を握り潰してくれるわ」
オービスは怒りを動力炉にし、駆け抜けていく。
回避行動をとっていなければ、確実に餌食になっていた。
冷や汗を額に浮かべ、アイシアは腰の曲がった身体で、矢継ぎ早に詠唱を始める。
「四神の神々よ。焔の巫女、水の女神、風の放浪者、大地の守護神。すべてを混沌と書き換え給え」
「その詠唱! やらせるか!」
オービスは肉迫し、剣を振るう。
「
アイシアの身体を取り巻くオーラが変わる。
虹色の光がアイシアを包み込み、肉迫したオービスははじき飛ばされる。
「さあ、すべてを変えよう。我が名はアイシア。アイシア=ユーステット」
「!! その名は!」
ユーステット。
帝国内部で最も権力を持っていたユーステット家。その嫡男の姫御子。十年前に滅びたとされるユーステットの置き土産。生き残り。忘れ形見。
本来ユーステットの騎士たるオービスにとって、それは驚きの事実であった。
「だが、今はランスロット家に従える身。その道、いかに違おうとも固くとも、我らそれだけは守らねばならぬ!」
その切っ先は先ほどのオーラに弾かれる。
「良い家臣を持ったな、ランスロット。だが――っ」
アイシアは手にした錫杖にオーラを分けると、その錫杖に光りの刃が浮かび上がる。
「これで終わりだ! オービス」
「ならぬ!」
オービスが
▽▼▽
「……」
戦いに勝って、その後に
アイラはなぜこんなカプセルの中に詰め込まれているのだ。
分からない。
だんだん
ガンガンとカプセルの中から蹴りを入れる。
その威力はすさまじく、カプセルを内部から突き破る事に成功した。
抜け出してみると、そこは見慣れない土地。
アイラは訳も分からずに裸のまま、走り出す。
ジュンイチお兄ちゃんはどうなったのだ? アイシアやソフィアは?
苦悶の表情を浮かべるとアイラは鉄格子の檻を破り、外へ飛び出す。
開けた原っぱでは優雅にたたずむ一匹の
「何をしているのだ?」
アイラは魔物の中でも随一の力を持つとされるドラゴンに話しかけてける。
その力は絶大で、天災級、神の使い、破壊神のなれの果て、とまで言わしめるほどだ。
そんな彼に敵視を向けることなく、話ができるのはアイラの性格だからこそだろう。
アイラは近づき、さらに質問する。
「アイラ、友達とはぐれたのだ☆ ここはどこ?」
『亜人よ。我に話しかけるとはいい度胸だな』
頭に響くようにしゃべるドラゴン。
目を細め空を見つめるその姿は彫刻になりそうだ、と考えるアイラ。
「君は何をしているのだ?」
『仲間を、待っている』
数千年、ドラゴンは一人で生きてきた。
老いた身体とともに人肌恋しくなった。いや竜肌かもしれないが。
ともかく、長く生きているうちに仲間が欲しくなったのだ。
そんな寂しそうなドラゴンにアイラは呼びかける。
「大丈夫だよ☆ 異人でも仲良くなれるものだ☆ そうだ! アイラが友達になる!」
元気よく跳ねるアイラに、苦笑するドラゴン。
そうであったのなら話は早いのだがな。
でも、それでもドラゴンの心の隙間を埋めることはできないだろう。
深い悲しみの中にいる。
凍り付いた心にはアイラのぬくもりは伝わらない――。
そうドラゴンはもう伝説上の生き物になってしまったから。
『我がいること自体がおかしいのだ。お主には分かるまい』
フェネック娘には悪いが、ドラゴンの生き残りなど、人間に狩られ、研究の対象になるしかないのだ。
でもあのランスロット王だけは違った。
この
西にある流星通り一番町。そこがドラゴンの
それだけの土地を与えてくれたランスロット王には感謝しかない。
有事の際には戦闘に加わることも言われているが、今のところ問題ないようだ。
ドラゴンを飼おうなどと、片腹痛い話だが、こうしてみると居心地の良い空間だ。
たまに食糧をくれるのもまたドラゴンにとっては嬉しかった。
人のぬくもりというのはかくも嬉しいものか、と感慨にふけったものだ。
今まで敵対し、憎しみ合っていた時代は終わったのだ。
ドラゴンは死なずにすんだ。
「どうして泣いているのだ?」
アイラが不思議そうに顔を上げる。
『分からぬ。すべてが変わってしまった。お主もどうなるか分からぬ』
「どういうこと☆」
『ここは数多の死せる者が集まる場所。お主はまだ若い、だが……』
頭痛がする。吐き気がする。めまいがする。
アイラは必至でこらえ、寂しそうなドラゴンに寄り添おうとする。
だが、それすらも叶わない。
アイラはブラックホールに呑み込まれ、下界へと降りていく。
霊体を失った身体は傷だらけで力なく伏せていた。
その肉体に再び魂が戻ると、アイラは泣いていた。
ドラゴンの長い孤独が、彼女にそうさせた。
悲しすぎる過去を識った。
憎む者すら失った彼に生きる道はなかった。
死せる者。
そう感じ取ったアイラは息を吹き返し、周囲を見渡す。
アイラはまだアイラのやるべきことが残っている。
亜人となったあの日からアイラはアイシアの従者なのだ。
それが変わることはない。
もう、時間がない。
早くしないとあのドラゴンが可愛そうな目に遭ってしまう。
そう心の中で叫ぶアイラ。
階段を駆け上がる。
その先に願ったものがあるのだと信じて。
アイラは信じた道を突き進むのだった。
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