第18話 分かれた道

 俺は初めて短剣を取り出す。

 雷吼の放ったクナイをはじき返すと、俺はそのまま走り出す。

 陰に消えていく雷吼。

「なんだ?」

 陰から陰へと移動するように飛ぶ雷吼に攻撃の隙はない。

「雷帝よ。紫電の咆哮を持って討ち滅ぼし給え!」

 ソフィアが詠唱を行い、

雷撃の戦槍サンダー・ボルト!」

 魔法を放つ。

 陰へと逃げる雷吼。

 だが、それよりも早く仕留めればいい話。だが、詠唱の時間が雷吼に時間を与える。

 回避した雷吼は目を瞬く。

「君とはまともにやり合えそうだな」

 雷吼がソフィアを気に入ったのか、攻撃をそちらに向ける。

「今のうちにいきなさい。行って!」

 声を張り上げるソフィア。

 俺はコクリと頷き、アイシアと波瑠、クラミーを連れていく。

 雷吼は吠えるように叫ぶ。

「なるほど。わたくしの相手は貴殿のみで十分という訳だな」

「私にはやるべきことがある。世界をる。そして正す。私はいつまでもただのエルフじゃない」

「傲慢な! やはり貴殿には死んでもらう――」

 そういい、陰から飛び出す雷吼。

 錫杖とクナイがぶつかり合い、火花を散らす。

「――やるっ!」

 詠唱を始めるソフィアだが、その前に陰から陰へと飛び移る雷吼。

「穿て! 雷撃の戦槍サンダー・ボルト!」

 放つ雷撃は陰には聞かないようだ。

 やはりもっと早く撃たねば。

 雷撃の詠唱と、奴が陰に飛び込む早さ。

 早さを追求すれば、私は負ける。他に方法はないのか……!

 苛立ちから爪を噛むが、それで解決できるわけでもない。

「雷帝の力よ。電雷を持ってすべてを討ち滅ぼし給え! 雷撃の散弾サンダー・ブレッド!!」

 放たれた三十の雷撃の弾丸は陰に吸い込まれるように消えていく。

 陰から飛び出た雷吼を追撃する。

 だが、すぐに陰に消える。吸い込まれた弾丸はバチッと爆ぜる。

「これもダメか……」

 力なくうなだれるソフィア。

 だが、まだ戦いが終わった訳じゃない。

 雷吼は隠密性に特化しているのか、戦闘能力は高くないらしい。

 再び飛び出る雷吼。

 その手には手裏剣が握られている。

 放たれた手裏剣がソフィアに向かっていく。錫杖で防ぐと、バックステップで距離をとる。

 なるほど。忍者という奴か。確か極東にいた比嘉の末裔。

 噂には聞いたことがある。

 陰を操りし隠匿者。斥候の者。陰なき暗殺者。悲劇の末裔。

 雷撃と手裏剣のやり合いが続くが、長期戦に不利なのはソフィアだ。

 こちらの魔力切れを狙っているのか……! だがそれでもいい。

 私の狙いはすでに果たされた。それはアイシアとジュンイチをランスロット王に差し向けること。

 だからこうして時間稼ぎもやっている。

 すべては私の手の内。

 この戦い長引かせる!


▽▼▽


 俺たちは再びホールへと出ていた。

 半球状の屋根には照明がほのかに光をもたらしている。

 そして階段の目の前に立つ男が一人。

 鎧を着こなし、鉄壁の往生で迎える男。

「我はオービス。三銃士の一人。ランスロット王に仕えし者!」

「ワタシの部下になりなさい!」

 そう叫ぶクラミー。

「クラミーどの……」

 少し悲しげな目線を向けてくるオービス。

「だが、なりませぬ。クラミーどのは次期王、こんな汚れた奴らの相手をするべきではない!」

「汚れ……? どこが! 必至に生きている彼らの気持ちが分からないの!? 彼は無理矢理この世界に連れてこられた勇者なのよ!」

 たった少しの付き合いで、俺をそう感じているとは驚きである。

 俺はオービスの先にある扉を凝視する。

 それを見て、悟ったアイシアは背中に背負った背嚢を下ろす。

「ジューイチ。これを持って先にいきな」

「アイシア……」

「わしが倒す!」

「いや、意気込むのはいいが、オービルがいるせいでまったく扉が開きそうにないけど!?」

「……わかっとるわい!」

 詠唱を始めるアイシア。それに対して盾を前に突き出すオービス。

「水流弾!」

 放たれた水圧の弾丸が凝縮された力を解き放つ――。

「ふぬっ!」

 その力をはじき返すオービス。

 俺も詠唱を始め、氷柱針は放つ。

 それも盾で防がれて、無傷のまま立ち誇るオービス。

「まだまだ!」

 オービスは盾を下ろすと腰にある剣を引き抜く。

 夜闇の魔剣ナイト・オブ・ダークネス。漆黒の刃がすべてを切り裂く。切れないものなどないと云われる魔剣。すべてを虚無に返す力。

 ずんずんと前に進んでくるオービス。

 その手に握られた夜闇の魔剣ナイト・オブ・ダークネスだが、光を吸収しているように見える。

「貴様らにはこの一撃をくれてやる! 刻の時世クロノ・イラ!」

 放たれた漆黒の焔は形を変えながら、ものすごい速度で襲ってくる。

 アイシアが前に出て、光の障壁を貼る。

 障壁に阻まれ、夜闇の焔は消え失せる。

「危ないところじゃったな。ジューイチ」

「ありがとう。助かった」

 俺は礼を述べると、少しをとる。

 波瑠とクラミーが駆け寄ってくる。

「大丈夫?」「お兄ちゃん」

「ああ。だが……」

 オービスがアイシアに駆け寄る。

「どけ。泥闇の魔女」

「引けぬわ。わしの大切な仲間を殺させやしない」

 キリッと筋の通った声で、アイシアは声を張り上げる。

 前にでるアイシア。

 剣を振り上げるオービス。

 接近戦が得意なのか?

 ごくりと生唾を飲み下す。

 乾いた口が少しマシになる。

「行こ。お兄ちゃん」

「え」

 よく見るとオービスがどいたことにより、扉から離れているではないか。

「うん」

 俺は力強く頷くと、波瑠、クラミーを連れてホールの外周をつたい、扉に向かう。

「させぬ!」

 オービスが跳躍するが、そこを水流弾で撃ち落とす。

「ち。こやつ!」

 驚きの声を上げるオービス。

「やるな!」

 オービスは再び剣を構え、アイシアに襲いかかる。

 その隙を狙い、俺たちは扉の向こう側へと進む。

 暗がりの中、手探りで歩くと、階段が見えてくる。

 登り終えると玉座が見えてくる。

「ここはいったいどういう造りなんだ?」

「昔ながらの古城よ。それを改装してあるの」

 クラミーがボソッと呟く。

「して。この玉座は?」

 その向こうにあるらしい部屋。それを指し示す血判の地図ブラッディ・マップ。そこにはランスロット王の傍点が打たれている。

「どうなっている?」

 クラミーに問うと、静かに動き出す。

「ここの蛇の像と、獅子の像が見つめ合ったとき、扉は開くのよ」

 クラミーが像を動かすと、その先に見える部屋。

 ごごごごごっと石版が動き、玉座の向こう側に開かれた部屋が見える。

 そこでランスロット王がワインを片手に女の子を窓から突き落としていた。

 女の子はドラゴンに食われ、血しぶきを上げる。

「ふ、はははは……。まさか本当にここにくるとは、な」

 ランスロット王は手にした妖刀・《ムラマサ》を掲げる。

 悪しき力を底上げする魔の力を持ちし、刀。和の物の剣。所持者の力を奪い、力に変える刀。所持者の精神を削る刀。

 ランスロット王には力がないと思っていた。だが、そうではないらしい。

「波瑠、クラミー下がっていろ。俺が倒す!」

「父さん! もうやめて!」

「は。裏切ったか。クラミー。そんなんだから彼女は……!」

 怒りをにじませるランスロット王。

「ざまぁないぜ。まさか娘に狙われるとはな!」

 俺はランスロット王を軽蔑すると、詠唱を始める。

「氷柱針!」

 放った氷柱の針は銃弾のごとく、ランスロット王に降り注ぐ。

 そのすべてを切り伏せるムラマサ。

「なんて防御力だ……」

 俺は驚きで声を上げる。

「ふははは。俺様に勝てるわけがあるまい!」

 肉迫するランスロット王。

「すべての力は俺様のものだ!」

 俺は短剣を引き抜き、剣の軌道を変える。

 打ち合う剣筋。

 だが、押されている。

 このままじゃ……。

 俺は負ける。

 ここまでアイラ、ソフィア、アイシアが頑張ってくれたのに。

 このままやられる訳にはいかない!

 柄を握る手に力を込める。

 俺はただで死ぬ訳にはいかないのだ。

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