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自宅にいた工場長の元に飛び込んできたのは、緊急事態のノーティスだった。この時間帯には既に点検などの為にラインは止めているし、警備ともろもろを置いてある。普通ならば誰が忍び込む理由もないはずなのだが————裏のラインは、まだ動いている。
だからカチコミでもされたかのくらいの重大インシデントと、彼にはすぐ分かった。
すぐにエレカに乗り込み、男はそこいらに通話を繋げて頭を下げ続ける。
「……はい、戦闘の可能性もありまして…………」
心にもない反省の言葉を並べ、エレカのタグレースで緊急事態を告げ、秘匿回線で地下プラントから兵を出す。警備に一切の問題はないはずだ、あいつは何をしている……?
「すぐに復旧と排除に当たらせます…………はい…………」
そしてエコーに声をかけ、今こそお前の仕事の時間だと小さく煽った。自分が到着するまで30分はかかる、それまでにうまい具合に終わってくれると嬉しいが————ミュータントまで投入しておいてダメだったならば、首がどうなるかはわからないな。脳髄だけあればよくされるか、記憶だけ抜かれるか。
何がどうであったとしても、うまいこと終わってくれることを期待するしかない。
「では、また」
現場知らずを蹴り捨てて、現場主義に声をかけて。おそらくそんなことだけで、移動時間は簡単に消えるだろうと思われた。ハードディスクを壊してくれるやつは誰がいたかなぁと、彼はさらにノーティス先を探す。
信頼できる人間か。意外といないものだ。
そして爆弾しか信じられないなと、デッドマン装置を起動する。
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この倉庫にも有益なものはなかった。これだけの警備員があるのだからどこかに弾薬庫があっていいはずなのだが、常に外にいる状態で待機でもされているのか、それとも外から送られてきているのかあちらは尽きず、こちらは限界。
敵の勢いが絶えなさすぎるので、アストラはどう動こうかと考え始める。
ここはL字型に4つの建物が並び、短い辺に管理棟が置いてある。工場棟はそれぞれが保存管理施設の面も兼ね備えており、管理棟はオフィススペースとして製品の出納を調整していた。機能面で考えられるのはそれだけ。
なら構造は?
管理棟以外はすべて同一で、外周に向けて搬出路に面した作業スペース、廊下、そして同じ設計の倉庫2つと材料保管庫で出来ていた。管理棟は作業スペースなどを変更して一般的なものにするべく壁を足してあって、金太郎あめを積み上げたようにどの階層も同じ構成だ。
こっちも特筆することはない。
「出入口は二つで、どっちも開きっぱなし…………そうわかってるから面倒だ」
移動して開いたら、今度あるのは段ボールのみ。交換用部品だのが収まっているのかズシリと重く、ザラりと動く。
「戦力はどこから…………?」
近年の消音技術はすさまじいから、エレベーター一つの音を消し去るのは楽だ。だからどこに収めておいても問題はないし、シャフト等の強度も進歩しているから、外のタワー建築はエレベーターが骨格になっているといっても過言でなくなっている。
解体の時を考えなければ、隠すことも容易。だがどこにしまってあるというのだ?全部同じ構造だったろう?
人間は無尽蔵の資源ではないのだから、どこかにしまっておかねばならない。機械で製造できるわけもないし、アサルトライフルに防具があるのだから、もろもろの保全設備を持たねばならない。
「あるなら地下だが、どこに入り口が…………?」
準備が整ったらしく、突入してくるストレイドの私兵。警備員とは名ばかりで、彼らは全員ボディアーマーを着用してライフルを構えていた。照準器は最新型で、夜間でも昼間でも物体を認識できるサイバネ式。
アストラはもう壁を抜くしかないとみて、能力でメタルのハンマーを作って壁にたたきつける。コンクリート造りでかなりの厚さはあったようだが、人外が道具を持って破壊に当たるなど考えていないため、楽に破壊され穴が開いた。
破損部に多量の弾丸が撃ち込まれ、それをとっさに伏せて避ける。数は少ないとはいえ人数はまだそれなりにあったらしい。
彼はワイヤー付きにしたブーメランを作り、投げて外の壁にぶっ刺す。さらに走って穴を抜けると同時に巻き上げジャンプし、一気に屋上近くまで体を跳ね上げる。そうして向かいの壁にとりつき、同じように壁を壊して工場スペースに体を押し込んだ。
「とにかく、失敗に近いだろうな……クソ、あの女どもめ!」
そして撤退を視野に入れて、吐き捨てる。
わらわらと群がる敵が増えるのが、アリめいて気持ち悪かった。
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戦闘が開始してから20分経った。突入から15分したら脱出するという当初の目論見は、想定以上の人員数によって崩壊していて、もはや殲滅戦。
一気に情報を奪って一気に逃げる。あわよくばミュータントのサンプルなどを手に入れるというのがこの戦いの目的だったのだけれど、監視カメラの視界を見る限り、それがうまく行くという未来はほとんど消え去っていた。
「どうする…………回線切って逃げる?それとも、エレカの群れでも突入させる?」
それを隣で見ているクリスはそう問うた。
「それでもいいんだけど……なんか悪いもん買わない?あいつは逃がせるけど、さすがにシッポ出さないかはきつそうだからさ」
「……ミュータント相手には分が悪いか」
ビッタは既に帰りのアシはあると言う。なんでも万能の運び屋らしく、金次第で誰でも何でもどこまでも、というらしい。
ポリスの時に、そういうのを見た記憶はある。確かに死ぬほど速くこっちから隠れた変なエレカがいたような、いなかったような。
「ならいいとして……見つかってないの、どうする?」
じゃあ問題はこっちでと、クリスは呟いた。
「私はロックの情報は全部送ってる。どうするかは実行の責任よ」
「……確かに、そうだけどさ」
自分のタッグにも転送してもらった位置情報を見る。何度となく確認しているけれど、確かに彼はあるべきすべての地点を探してはいた。だが移動の線で分かる通り、どれも工場として経済活動に必要な場所でしかないらしく、メインコンピューターへの侵入は一切成功していない。
経理に機材にその他もろもろ。もともと電子ロックがあって、全電力喪失までは長いという設計なのだろうか。動いているのがいくらかあるのが、元の一つだけ生きている奴へ侵入するという計画を崩している一因でもある。
ネットの穴が多すぎるのだ。どこから入ろうか悩むくらいに、どれがどれかわからないのだ。
「でも、にしてはなのよね…………隠せる場所、それ以外にないじゃないの。ロックかけなきゃ、一般人だっているんだし」
だからこそ、ビッタは何も進められていなかった。
この規模だ、どう頑張っても従業員を関係者だけでそろえることはできない。できたとしても、全員の口を閉ざさせることは、
「ドローン出していい?」
ならどうすればいいか、もう彼女には分からなかった。しょうがない、対策なんて動いてから作るもの。クリスは自分で見る方が早いと、ビッタに頼みかける。
「いいけど……」
何か見つけるの?と目で言ってから、タッグに紐づけ、適当なものを裏口にしてパケット輸送を匿名化。そうして回線の確保ののちに、ビッタはどこの奴を使うか彼女に続けた。
「使うのは近場の……ここあたり。スキャンまでは24分だからきーつけてね」
「どうせオートで切るでしょう。こっちで探すだけ探すわ……手も分けてあげないと、そろそろ限界そうだし」
「まあそうだけどさ……うん、チェックオーケー」
彼女少しだけ画面に注視し、それなりに可愛いモチーフのロボの手を振らせる。動作に問題なし、クリス側のタッグからのも、おそらく大丈夫。ビッタは操作を手渡す。
「アストラ?ちょいこっちで手助けするってさ。こいつは殴らないようにしといてね」
そしてノーティスすると、彼の返事はなんとまあ雑なものだ。
「今殴ってるものが何か分かってて言ってるのか!」
まあ仕方あるまい、敵が使う兵器をパクったのだから。後方輸送ユニットの一つなのだから。
「分かっててやってる」
「じゃあ最悪な頭してんなぁ!まあいい、そっちはやれるだけをやってくれよ!」
また移動のノイズが入る。声が切れる。
わかってる。クリスは呟いて、ドローンの操作を始める。
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