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「ハァーイギャングさーん!唐突だけど、お前らは俺の支配下になってもらう」


 カチコミかと思って銃を抜いた彼らに、冗談めいてアストラは煽った。どこから来たヤク中かと、彼らは先に放り投げた売人にも彼らは銃を向け、人質にでもしようかとうろたえる。しても無駄とすぐに諦めると、そいつの膝をぶち抜いて黙らせた。


 なるほど、躊躇はない、ってことかい。アストラは両手を上げた状態でバカにする。


「それとも、今日のメシがシルクリートの破片になるのがお好みかい?金もやる気もねえクソギャングさんよぉ」


「ああ!?」


 すごんで来られてみても、全く恐怖というものがわかなかった。だからガンガンに油をくべる。ガソリンにしても良かった。


「落ち着けよ。そんなことしても増えるのは皺だけだぜ?脳の皺は減るけどな!」


 どうせ、組み倒すだけだから。


「おおそうかい……!ならテメーのおめめを増やしてやろうか!まともに何も見えてねーようだからよォ!此畜生が!」


 周囲にいる雑魚共の中で、最も短気な男が銃を抜いた。それを手から金属塊を放出、スナップだけで放り投げて叩き落す。続いて棒からさすまたへと伸ばすと、柄で顔を殴って捕らえ、そのまま変形させて捕縛。アストラはそれを、持ち上げ壁にぶん投げるのであった。


 轟音が響き、男が壁にめり込んで落ちる。


「もしくは、あんたさんのお上について洗いざらいしゃべってもらうかだ。いい取引だろう?そう思わないか?面目丸つぶれの雑魚ギャングさんよ」


 彼はそれがどういうことを示すか、分かっているよなと振り返った。


「それがどうした?…………有利取っているのはこっちだ」


 ギャングの一人はひるまず、奪われぬように銃を突き付けて震えた。彼が親分なのだろう、それと同時に普通の企業かのように並べられたデスクが次々と倒れ、即席の盾にされていった。明らかにこちらのタマを狙っている者以外はそれに隠れ、一陣目が倒れた時の後続になるのだろうと見て取れる。

 普段は鉄砲玉をしているらしい青年が、勇敢に近づいて額に銃を突きつける。


「そっちこそ、全部が全部吐いてもらう…………覚悟しろよ」


 彼はそのまま抑え込もうと、2人ほど呼んだ。彼らは後ろから近づき、左右の腕をつかみにかかる。両人とも筋肉質で、一般人なら抜け出すことは不可能だろう————しかし、人外のミュータントならば児戯に等しい。


 それでも幾分かはかかるので、頭を撃たれればそのときはその時なのだが。


 アストラは二人が腕をつかもうとする一瞬前に手を動かし、反応の遅れた鉄砲玉の拳銃のバレルを叩く。弾倉を軸に横回転、彼の手から離れた拳銃を綺麗に握り、そのまま脇二人の頭を撃ちぬく。

 そして蹴り倒した。


「では決裂だ」


 彼は驚きで動けない青年の頭を捕まえ、銃口を突きつけ返して宣言する。


「さっさと吐くのが楽だとだけは、言っておこう」


 けれどそんなことでひるむようならば、力で解決するマフィアはしていないだろう。もちろん鉄砲玉なのだから、帰ってくることだって。テーブルに隠れていた数人があサブマシンガンを取り出し、弾丸をばらまいて青年をハチの巣。けれどそれを、彼は一瞬で伏せてやり過ごした。


 広がる血糊と硝煙を振り払い、倒れた青年を蹴り飛ばしてアストラはテーブルに近づく。跳ね上げて3人ほどを殴って昏倒。肉の盾にして、さらに次はどうなるかと親分の方へ走り飛び込む。


「さて、これでも交渉をしてもらえないというかね?」


 そして冗談めかし、警察用拳銃ポリスアームを握りつぶした。これができる力を持っているというのは、きっとどういうことか知っているのだろう。もはやこれまでかとマフィアのリーダーらしき男は手を上げ、止まれと周りに示して銃をおろさせた。彼は仕方なくといった口ぶりで『降参だ』と砕ける。


「ジャック。茶でも出せ。ヤク入ってねえのをな————この人ぁストレイドだろうさ。裏切るわけにはいかん」


「分かってくれるならいい。ならあるだけ聞かせてもらおう」


 そうしてくれるならオーケー。彼は初めての裏の一端に、自らつき進んでいく。



 ————



 そうして適当に選んだ奴の上にいたというだけで二人を殺されたマフィアは、その圧倒的な力の差にただ納得して話を聞いた。力で商売を成り立たせているのだから、強いものには逆らってはいけないと精神で理解している。だからかなり話は早かった。


「取引先、ですか…………」


 リーダーは自分のことを、ガールザナルドと名乗った。自分のところはほんの小さな麻薬取引の問屋をしていると彼はいい、あの売人は取引相手だと言う—————あくまでここは問屋ルートを確立しているだけの場所らしい。大方嘘だろうな。しかしまあ、問屋であるというのならその上がある。ストレイドというのも、何かがある。


「あなたにも、私はあまり言えないんですよ……守秘義務は重なっていますし、バランスというものがあります。アンテルニアのを砕くのにも、いくらかそういうしがらみがあるんですよ。ですから」


 アンテルニア、というのもか。だがおそらくそれは敵対組織、問題になるのはストレイドの方だろうな。


「ならそれはそれでいい。だが見るもん見ないとこっちも上がうるさいのさ。どのくらいなら流せる?やれるだけを、こっちは欲しいんだが」


 彼は求める。多分拒否されるが、名前だけでも手に入ったならそれでいい。彼はくるり、ナイフを作り出して回す。暗な脅しを受け入れ、親分はそうさせる。


「……なら、持たせましょう」


 結局意味のない行動になってしまったが、それは織り込み済みだ。アストラは取引の書類を物理コピーしてもらい、茶を飲み干して事務所を立つことにする。


「次来るときはましな情報をつかめよ」


 そう言い放ってみたが、同じことをほかの事務所にもしてみるのだ、もう一度があるかは怪しい。


 していることはほとんどあの外道と同じなのがいくらか腹立たしい気がするが、それはそれで、どうせ悪人なんだからと彼は一度置き捨てた。今は生きるためのことだから仕方ない。


 ちょっとの間マナーモードにしていたタッグには、別の売人のノーティスが入っていた。今度は結晶体めいた物を扱うらしく、純度が高くよくキマると書いてある。精製物は値段が高いと聞くので、今度はもっといい相手になるだろうか。


 彼は手に入れたばかりのコピーを封筒に包み、配送サービスを使って自宅のロックポストに、内容証明付きで送り込んだ。開けられるまでも管理されているから、ごまかされねば情報がわかるはず。


「まあ、最初はこんなもんだ。次よ次よとこなせばなんとかなるだろうな」


 そうして彼はエレカに乗り込んで、いつものように目的地をセットする。今度はちょうど、ヴェンティセッテ・ステーションの前だった。

 アストラはそれに、いくらか顔をしかめる。



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