全て愚かの在る儘にー2
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「ビッタ。頼めるか?」
「もちろん。経由してるけど、そっちは見えてるから」
「わかった。対処、できるだけ頼むな」
「あいあい。死なないでね」
「当然だ。全部終えるまで、死ぬ気は無い」
なんかアストラが通信した。お前が犯人だろうが!言い逃れする気か!
「気づかれたからには、殺しにかかるしかありませんねぇ」
すると店主が何か服を脱いだ。中からすっごい筋肉とヤバいくらいのとんがりみたいなのが出てる。え?マジ?お前そんなわかりやすい悪役見たいな感じする?
「撃て!」
そして彼が言うと、みんな一斉に正確な狙いでアストラを撃ち始めた。でもまあたまにはそういうことだってするじゃん、あたりまえじゃん。
アストラは金属の盾を生み出し、一つ一つをそれではじいてかわす。んでもってなんかドライバーっぽいのを作って人々の肩にぶん投げてぶっ壊した。ひでーなこいつ!お前命を何だと思ってんだ!
「ぐああああ!」
「ああああ!」
「うえっ!」
みんな痛そうにして、撃てなくなった。俺はまだ地の文攻撃できるけどな!クソ野郎!クソ野郎!クソクソクソクソファッキーン!
「……これで、仕舞いか?」
彼はまるで9行で一段落したんだが?みたいにする。でも店主はあきらめが悪そうだ。
「そんなわけはないでしょう……これからですよ!」
彼が何かいって血管を浮き出させると、みんながゾンビみたいになった。
銃を撃ってる。ガードされる。けどいくらか当たってる。
「ちぃ!そういうのもアリかよ!」
アストラがよける。それを店主が追う。いえーいえー!
「クソが!当たれってんだよ!」
店主がぶん殴る。かわしてアストラが殴る。でもそれもかわされる。
当たらない殴り合いがすごい長く続くけど、銃弾でアストラが削られて行って死にそうになりかけていった。
「終わりか!この程度か!」
店主がノリノリで顔面にパンチした。クリーンヒット!アストラが吹っ飛んだ。
んでもって飛び乗って顔面パンチ!俺はエキサイトだ!ってなるぜ!
そしてアストラが……何してんだっけ?
どこかからネットワーク上で、火花が散った。
————
見えねぇ!何も見えねぇ!
なんでか知らんけど地の文にも何も見えねぇ!どういうことだ!どういうことなんだよ!!!ぐべあ!!めがああああああ!!!!!!
そして何かが、ついに砕ける。
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アストラの見た実世界は、光に満ちていた。彼はフラッシュバンによって住民の視界を奪ったのだ————当然カメラなどもほとんど死んでいるので、誰も今彼を見る者はいない。それはあの店主も同じだった。クリーンヒットしたため、ミュータントの目はしばらく動けないだろう。
アストラは立ち上がった。そして一気に体勢を入れ替えて、お返しとばかりに店主の顔面に、能力で作ったメリケンサック付きの拳を叩き込んだ。
彼の頭蓋骨が割れ、脳に大きなダメージが入る。ナノマシン交じりの完全なる白が、路面地にしたシルクリートの上にほんの少し漏れ出た。見えてはいけない人間性が、言葉と液体とであらわになる。
「うおおおおおおお!俺の……俺のがあああああ!」
同時に我らの視界も、バカにするような簡単さから逃れる。復帰した視界の中、シルクリートの外壁の壊れた中、
白い建造物の並ぶ、庭の広い住宅街。明らかに火の燃えるそれらはどうしてか、まるで反省するかのようにしおれ歪んでいく。その中でアストラの拳が店主の右手で逸らされるが、その手すら破壊して彼は店主の体を暴力的に床の染みにする。
苦しんだままに左腕でガードするけれども、それは悲しいことに折れてちぎれ飛ぶ。完全に一方的な殴り方だった。
「俺は……俺は!」
店主は信じられないと言った様子で、自分にまたがるアストラを見た。
「俺は最強のはずだ!この能力があれば……かなうやつはいないって!」
彼は遠くを見て、ちぎれた左腕を伸ばす。助けてくれ、そんな様子だ。
その先には今しがた扇動していた、彼曰くのバカモノどもがあった。けれど今はもう違い、ただ自分を罠にはめて全部を盗んでいった詐欺師であり、アストラがそれから自分たちを救ってくれた、としてしか見られていないようだった。
「……力に飲まれた時点で、お前は俺の獲物だ…………自分を怨め」
彼は機械交じりのその体に、怒りをたたきつけて痛む。
「……そんな!」
それが信じられないと見え、店主はただオイルと人工血液を流して死にゆくのであった。なぜだ。俺は正しいことをしていたはずだ。俺が正しいなら全部正しいはずなのに、どうしてなんだ。
「恥を知れ、獣」
アストラは腰に、致命的な一撃を加えた。上半身がちぎれ飛んで、二つを繋いでいた最重要の骨格から、電脳質の髄があふれ出る。内臓からは汚物があふれ出し、酸とスカドール、インドールなどが混ざり合った。
「苦しんで死ぬがいい」
さらさらしたざらざらの平面が、それを吸い取って広げていく。命の象徴はもはや機能を停止し止まりかけていたが、それでも許せないと彼は、店主の胸に手を突っ込み、心臓にほんの小さな穴をあけ、ついでにと肺と横隔膜に穴をあけた。
気密が無くなって呼吸もできず、血液はほんの少しずつ消えていく。骨髄につながる部分も死んでいるので、生きていくことはできない————けれども、窒息か失血かで、苦しみは長く続くだろう。
機械能力で体を強化したツケが、ここで来ているとでもすればいい。なんせそうするための資金は全部、だまして殺してぬすんできたものなのだろうから。
店主は目を大きく開き、そして怨嗟の声を上げ、壊れた右腕を自分の頭蓋の穴に突っ込んだ。
「鬼畜外道が……何も俺は……!」
そして彼は、自らの機械知能を掻きだし、終わりを迎える。
「やるものか!」
「お前のセリフでは、ないだろうに」
彼は電脳の破壊を止めるために、そのパーツを蹴り砕いた。ゴトリ、文庫本ほどの塊が転がり落ちる。アストラはそれを、間違いなく確かめる。彼はあたりでつぶやかれる、『一体俺は、何をして』といった言葉を聞き逃さずに息を吐く。
「終わった、か」
このような事件が何度も起きる、異常な都市。普通の人間が、ちょいと異能に目覚めただけであたりを支配してしまう、外道まみれの世界。だけれどもそれが表に出されず、どこまでも苦しみと悲しみが続くのが、ここなのだろう————やはり倒さねばならない、この都市の裏は。
彼はタッグを持ち、ビッタから来ていた通信を見る。最初は事件について、次は犯人について。そして最後は————この情景のところどころにある、本来あり得ないはずの『私』や『俺』について。
誰かに言葉を紡がれているようでもあった。なぜ、『私』がそこにいるのだ?
「……この視点は誰のものだ?」
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彼が来ていた映像を開くと、私の視界にノイズが走り何も見えなくなる。
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アストラたちを見ていたのはステルス迷彩に隠れたドローン————神経直結した特殊機体であり、その何も見えなくなったのは、それを操る人物が斃れたから。つまりアストラの協力者、ビッタ・べリスがハッキングを完了させたからであった。
主犯たるオールワ・ミリが脳を焼き切られ、死んでしまったということであった————人間をやめたミュータントとはいえ、能力の根源自体は人間と変わらない。コンピュータのDDOS攻撃を完全に受けきることは不可能なのだ。
加速した血流で補おうとしたけれど、それも不可能だったようで、不可逆のパルスが脳髄を走っている。それに応えようとする身体は、びくんびくんと蠢くだけだった。
「アストラ。大体の結果わかったわ。悲しいことに今回は、ストレイドの絡みでも何でもないただの偶発だったわ」
クリスがビッタからのを伝達する。
「どういうことだ?管理人がクローンウォリアーの試験体まで出してるんだから……」
それが信じられなくて、彼は反駁する。
ドローンの持ち主は知らないようだったが、住民たちは皆、測ったかのようにアストラが昔見た人物と顔立ちが同じだった。身長も同じで、銃の構え方も。そしてカメラ越しでは気づけないが、特殊な塗装で額にコードが示されていることも。
それらすべてに本人たちは気づいていなくて、簡単に扇動されるのもそう作られていたからとしか思えない。クローンなのだとしか、ミュータントの彼には思えないのだ。
「あれは盗まれたもののようなの。正確にいえば、アイツの能力で脳機能を墜とされた挙句、洗脳まがいをされて上書きされてる。だから所属がストレイドの意識のまま、アイツに従っていたのよ」
「それはどっちだ?店主か?カメラか?」
「店主。カメラの方が操作してたっぽいんだけど、ハブにされていたみたい」
「それでか。あの店主、普通の犯罪者がミュータント化したにしては、無駄に機能が高かったからな、いくらかは苦労した」
最後に聞こえた言葉は、つまりはどこかから脳機能を乗っ取られたということなのだろう。そうして無理くりに遠隔操作をされ、手先になった挙句に集団で動かす、と。
「泥棒の演劇なんだけど、知らない奴を乗っけるにはいいのよねぇ。私としては癪だけど、アイツの能力は恐ろしかったから」
「劇場型の泥棒、ねぇ……ともあれ、今回は助かった」
「俺もいくらか飲まれかけてたからな」
実際アストラは幾分知能が落ちていた。通常ならさっさと殺しているはずなのだが、クローン相手にも生きているという意思が働いてしまっている。潰せるなら潰しておかないと、面倒なだけだったのに。
「お互い様よ。まあともかく、活動を続けましょうか。次のポイントなんだけど…………」
そうして一夜の気狂いは終わった。だけれども、この偶発は誰にも記録されないのだろう。ネットの世界に流されたこの映像は、どうしてか見たものにまで効力を持っている。だからそれを消し去らねば、間違ったままの情報が世界にあふれることになる
それは起こしてはいけない。アンダーシティ浄化の為に。
アンダーシティ・ケルスの夜は長い。
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