1-18

「こんちゃ〜。……なっ」

 魔法店の扉を開けるといつもモワッとした空気と舞い上がる埃が出迎えてくれる。

 しかし、今日はそれだけじゃなかった。


「た、たす、たすけへ……」

「何で自分の家で倒れてるんです……?」


 ヨレヨレの老人(実際に老けているのだが)のようになったセイリオに肩を貸し、店の奥にあるソファーへと座らせる。


「い、いやぁすまんの……ちょっと久しぶりになれないことしたせいで魔力を無駄にからっけつにしてしまっての……」

「アンタほどの魔法使いが倒れるって何をしたんだ……?」


 そもそも魔力とは世界自体が生み出しているものであり、術者本人が持つものではない。つまり、何かしらの魔法を発動する際には自分を中継点として「魔法」と「世界」をつなげる必要がある。そして、その注げる量こそ魔力をどれだけ回せるかという術者の力量に関わっていくのである。


 そして、セイリオが言うには魔法陣を発動するためにバカみたいな魔力を注ぎ込んだことになる。それこそ自分に悪影響が出るほどのとんでもない量を。ざっと考えれば街一つくらいは潰せる程度の火力が出せる魔力量になるはず……一体どんな魔法を……


「いやちょっと荷物をどこかに落としてしまったんで探しものをな?」

「ショボすぎんだろ……」

 やっぱこの爺ダメかもしれない。

 

 床をよくよく見てみると、床を一通り使って描かれた魔法陣は確かに《探索》の効果を示していた。


「しょうがないじゃろ探しものの範囲は町中のどこかなんじゃから!!」

「そもそも町中って……ろくに店から出ないくせにいつ落としたんですか」

「わしもたまには買い物に出かけることくらいあるわい。んでついでに散歩してたら小袋を一つ落としてしまったみたいでの……」

「小袋?」

 そこでセイリオは持ってきた水をグビッと飲み、

「……ほぅ。まぁ、ちょっとばかし大事なもんがその中に入ってての。多少無理してでも探す必要があったんじゃよ」

「大事なもの?」

「ま、それはおいおいな。おいおい」

そういうセイリオは座っていても辛いのか顔色が悪い。かなり無茶したのだろうか。


そんなふうにぼんやり考えていた時だった。

「んで。お前さんに少しばかり頼みがあるのじゃが……先程の魔法で大体どこにあるかまでは特定できたから、ちょっと拾ってきてくれんかの?」

「……はい?」


アルス は お使い を 頼まれた !



「あんのジジィ……確かに動けそうになかったけども」

 魔法都市の闇、延々と伸び続ける裏路地をトボトボあるきながらこうなった理由を思い出したアルスは愚痴を漏らす。


(そもそも小袋って……こんなゴチャゴチャしてる場所で見つけろってのが無理がある)


 元々リミサの裏路地はその成り立ちからあまり表には出れない店が多くある場所だったが、セイリオに言われやってきたこの場所はそういった店が密集している「闇市」の一つであり、表側にも負けてない盛り上がりを見せている。 


「な~にが魔族側からの裏輸入だ!!エンチャント済みロングソードって名前の割に切れ味悪いなと思ったらショボい《強化》しかかかってないじゃないか!!」

「おっと旦那ぁ……返品は無しって話ですぜい?何より、魔族側から流れてきたことに間違いはねぇしな。ガッハッハ!!」


 ……まぁ、怒号と喧嘩の土煙止まぬちょっとばかし荒々しい場所のため、あまり近づきたくない場所ではあるが。

(さっさとお使い済ませて文句言ってやる……

【小袋】……確か手のひらくらいの大きさで…あれ、なんかマークが書いてあるとか言ってたよな?色は確か…赤だか青だか白だか……


 ……あれぇ?)


 そう。

 肝心の探しものの見た目を忘れていた。それもすっぽりとである。


(いやいやいや、いくらやる気なくても忘れることは無いだろ俺ぇ!そう、大きさは手のひらぐらいでなんか独特なマークがあって……)

 しかし、そこで記憶にモヤがかかる。それ以上を思い出せないのだ。


(ぐぬぬ……)

 記憶力には自身があっただけに悔しい。そんなに気が抜けてたのだろうか……?


 忘れてしまったうえ、そこまで店から離れていない以上、もう一度聞きに行くのが一番なのだろうが……


「……聴きに戻るの悔しい。それっぽいものあったら拾って帰ればいいだろ」

 少年のプライドは師匠の持ち物より重いときがあるのだった。


 そして


 少年とはまた別に同じタイミングでやってきた物もいた。


「随分と賑やかなところね……あの男たちはいないといいけど……」










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