1-17

修行は長かった。

 人形を相手にした実践以外にもありとあらゆる方向からボコボコにされた。例えば…


「ほーれ回せ回せぇ!どうせ全力でやっても大した威力にならんのだから、効率的な回し方覚えるのが最優先じゃあ!」

「く、くらくらする……」 

 魔力の使用効率を良くするために魔力がからっけつになるまでひたすら魔法を使用したり、


「そもそもまずは何ができないかを言葉にするべきじゃな。円環魔法は使えること以外適正なし。幼なじみには遠く及ばず。最近陣形魔法を習い始めたが効果薄……」

「教える側がやる気下げるような発言をするんじゃねぇ!!こっからだわ!」

 精神面をムチでバチバチたたかれたり、 


「これ今日のメモじゃよ〜。あ、この魔道具系は指定した店のやつで頼むぞい。いかんせん仕事が忙しくて買い物に行く余裕もなくてのぉ〜……」

「ついにただのおつかいになりやがった……。ここに人が来てるとこ見たことないんだが??」

 雑事を任されたりだった。修行じゃないだろという意見はかき消された。


「……騙されてるのでは?」

 セイリオに弟子入りしてから一ヶ月。

 一人でのんびりとセイリオの元に向かいながらアルスは呟く。

(たしかにあいつの知識は師匠として頼もしいけど……別にやってることは弟子入りする前と変わらないんだよな)

 魔力を体に回す為の訓練も、実際に魔法を使う特訓も、学園や自主練として前々からやっていた。しかし実際のところ、前より今のほうが効率よくできている自覚はあるため、なんとも言えないが…

 また、緋色の少年の頭を悩ませているのはこれだけでは無かった。

「‥‥‥こういうときにドゥに相談できたら良かったんだけどな」

 ここ数日、ラドゥの姿を見かけないのだった。

 元々、「転生者」のクラスメートという名の補佐役に選ばれた事は知っており前のように会えなくはなっていた。しかし、それでもここ数週間の様子はおかしい。学園で姿すら見ないだけでなく、しばらく寮にすら帰っていないようだった。

(‥‥‥)

 悶々と不安が募る。


 何か大けがするようなトラブルに巻き込まれたのではないか?

 親友が自分の見ていない所で差を伸ばしていっているのではないか?

 いや、ならまだマシだ。


もしラドゥが‥‥‥


「だー!うだうだ考えるのめんどくせぇ!とにかく今は出来る事をひたすらやるしかねぇ!」

 頬をパンパンと叩き走り始める。とにかく今は出来る限りの事をするしかないのだった。たとえ頼みの綱が胡散臭い爺だったとしても。




 一方そのころ

 いつも通りの町の景色の裏、暗い路地裏では息を荒げ走る少女がいた。


「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥」


 汚い路地裏を走り回っていたせいか、元々は高級な物だったのであろう顔をすっぽり隠す白いローブはところどころ汚れ、破けてしまっている。


「ああもう、邪魔なんだけど!」


 とっさに路地裏を見つけ逃げ込んだのは一時的に追っ手を撒くのには正解だったが、土地勘のない彼女にとってそのまま逃げ込むには最悪だった。

 目の前には木箱の山が積み重なり、とてもじゃないが通れそうもない。しかし、後ろからはドタバタと大人数が走ってくる音が聞こえる。


「っ‥‥‥!」


 考える時間は無かった。

(膨大な風を生み出し上昇気流を発生させ、今着ているローブを翼へ変える。そしてそのまま強化した足で一気に飛び上がる‥‥‥!)

 したい動作を思い描く。それだけで彼女の「魔法」は発動する。

 バスン!という音と共に3秒もかからず一連の動作を成功させた少女はなんとか木箱を飛び越える事に成功する。

 そして数秒後、2人男の声が聞こえる。


「いない⁉まさかどこかで見落としたっ‥‥‥?」

「いや、確かにここに来るまでにいくつか曲がり角はあったが、そこは他の奴らが見ているはず‥‥‥なんせ相手は何でもありだ。‥‥‥おい、そこの木箱をどかすぞ、手伝ってくれ!」


(まずっ‥‥‥⁉)

 このままだとバレる。

 そう考え、なるべく足音を消して少女はそそくさとその場から走り去る。


(ああもう、どうしてこうなるのよ‥‥‥なってるのよぉ!?)


 突如襲い掛かった理不尽に対する何度目になるかわからない文句を心の中で唱えつつ、少女は町を駆け回る。



その日、出来損ないの少年の世界が大きく動き出す。





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