1ー16

「……ほげだ(負けた)」


 ボコボコであった。

 相手は指示された命令に従って動く人形とはいえ、円環魔法は効かず陣形魔法は描く時間もない。そんな状況では魔法に頼りきりな戦闘スタイルの一般少年は為す術が無かったのだった。

「なんじゃい、情けないのぅ〜」

「ペッ……そもそも確実に初めての実践で相手にするやつじゃないだろうあれぇ!」

 鉄の味がする唾を吐きつけ、ふてくされるアルスにセイリオは

「ま、そもそも勝てると思って出しておらんしな」

「この師匠、弟子という物の扱いが雑……っ!」

「ケッケッケ。ま、のんびり座って紙の上で描くのと実際に敵を前にしながら描くのは別物ってことはわかったじゃろ?」

「それはまぁ……わかってたつもりだけど……」


 時間制限があるとはいえ、地に足を据えうんうんうなれる筆記とは違い、実践では相手の動きを予測し、攻撃を回避する。相手から距離をとり狙いをつける。そういった細かい動き全てに注意する必要がある。

 当然、そんな状態でいちいち文様を刻めるほどアルスは器用な男ではない。予想はしていたとはいえ、ここまで難易度が高いとは思っていなかった。


「結局円環魔法のほうが使いやすい……って事なのか……?」

「何を今更。そうじゃなきゃ陣形魔法使いがいなくなるわけなかろう」

 小馬鹿にした表情で人形を弄びつつ、老人は話を続ける。

「まずそもそもお前は頭を働かせ過ぎなんじゃよ。避けに徹するなら攻撃を見ろ。情報の取捨選択……必要最低限のものにだけ頭を使うようにせんかい。次に……」

 その後もクダクダと続く説教を聞きつつ、アルスは考える

(……結局咄嗟に繰り出すのは円環魔法。陣形魔法を学ぶとしても学ばないとだな…)

 戦闘中使用した円環魔法がせめて目潰し、もしくはのけぞらせる程度の威力があればここまでボコボコにされることは無かった。

(やはりどこまで行っても「才能」という言葉からは逃げられないな……)

意気込むアルス。しかし、


「なんか勘違いしてないか?」

「……へ?」


「才能、天賦なんて言葉は動かない体を無理やり動かす操り糸じゃぞ。才能が無いから諦めよう、天賦の差を埋めるために努力しよう……むやみに動かせば絡まる上、絡まった糸によって細切れになるのは人形じぶんじゃ」


 再び魔力を通し、カタカタと人形が再起動する

「限界なんてものは超えられる。しかし、それは《正しい方法なら》じゃ。履き違えるなよ坊主」

「……?」

 なんだろうか。覚えがある。自分はどこかでこの目を……


しかし、その考えは振り払われる。

「ま、夜ふかしすんなってことじゃよ。さぁ、今日は最悪でも魔法陣発動できるまでは返さんぞ?」

「……はい?」


 爆発音に打撃音、そして叫び声は真夜中まで響いたのだった。








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