1−15
「あ、頭が……溶ける……」
「お疲れさん」
頭から煙を出しつつぶっ倒れた少年をほっておき、答え合わせに入る。
「……ほんとお前さん、記憶力いいよな」
驚異の全問正解であった。
「う〜……暗記作業には慣れてるんだよ……一回の量もそこまで多くないし」
「……さてはお前さん、悪気無しでテスト前に今回できないわ〜とか言ってたタイプじゃろ」
実際のところ、学園での筆記試験の上位にはいつもアルスの名前が乗っている……らしい(本人談)。
実技がダメダメなぶん、そこで何とか取り返しているそうだ。
(けど、実践を重視するグリムノアじゃ評価されにくい……。昔から変わらんな)
「んでお師匠様、この一週間で出されたメモは粗方覚えたけど次は何するんだ…?」
その言葉にニヤリと笑うと
「次のステップと行くか。頭で覚えたもんは次に体に覚えさせる。魔法の基本じゃろ?ほれ、ワシに掴まれ」
「……?」
若干の疑問を抱きつつもアルスはセイリオの腕を掴む。すると、セイリオは杖を振り、空中に現れた魔法陣を起動させる。
次の瞬間、アルスの目に飛び込んできたのは
「森……?」
「街から出てちょっと歩いたとこにある……まぁ端的に言うとただの空き地じゃな」
周囲は木々に囲まれ、どこを見ても人工的なものは見当たらない。しかし、不自然なほどにこの周辺だけバッサリと木々が生えておらず、一周全力で走るだけでも10分は掛かりそうなほどの大きい広場ができていた。
「こんなとこあったんだ……」
「まぁ、一般人は知らんじゃろうなぁ。結構森の奥まで来ないと見つけられんし。……ところでアルス」
「ん?」
急にセイリオがこちらの顔をジロジロと見つめてくる
「お主ここに来たとき何か……」
「……?」
「……まぁいいか。んじゃ始めるぞ〜」
「おい待ったそういうのはちゃんと答えてくれないと後々面倒になるや……」
アルスのツッコミが途中で途切れる。
その理由は単純。突如何かが襲いかかってきたからである。
攻撃を食らう直前、ぎりぎり気がついたアルスは倒れ込むように右ストレートを回避する。
「ぬおっ…なんだこいつ!?‥‥‥木の小人‥‥‥っ?」
「ただの
【絡繰人形】。魔道具の一種であり、使用者の指示を魔力が無くなるまで遂行し続ける便利アイテムである。
(とはいえ普通、荷物持ちや部屋の掃除など単純な行動しかできないはずだじゃ‥‥‥!?)
混乱する頭を無理やり押さえつけ、改めて襲い掛かってきた人形をよく観察する。赤と青の派手なトリコロールの服、人を小馬鹿にするような表情からは道化師を連想させる人形だった。そして、操り人形から糸を取っ払ったような動き方でじりじりとこちらへ寄ってくる。
「間に合わねぇ‥‥‥っ!」
魔法陣を描く暇は無かった。とっさに発動した円環魔法でいくつかの火球を生み出し、人形にぶつける。
火球は人形にぶつかった瞬間、火柱となって燃え盛る。ただの絡繰人形なら燃え尽きるまではいかなくても機能停止までは追い込めるはず……だった。
『ケッケッケッケ〜!』
しかし、まるで何事もなかったかのように人形はアルスへと拳を振りかざす。
「なっ」
ズドンッ!
木製の人形とは思えないほどの重い一撃が少年の腹を貫く。
「……ッ!」
視界がくらむ。地震でも起きているのではないかと錯覚するほど地面がふわふわとしたものに感じる。
(魔法陣の強化……?確かに普通の威力ではないけどそれだけじゃない……)
かろうじて体制を取り戻すと、勝ち誇ったポーズをセイリオに見せている人形からは服、そして腕に何かが描かれているのが見えた。
「燃えやすい素材で出来てるんじゃ。そりゃ防炎しておかんといかんじゃろ。料理とか任せられないしの?」
老人のその一言と共に、再び人形は拳を構えて容赦のない一撃を打ち込みに来るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます