1-13
それから一週間後のお昼。
学園内にゾンビがいた。正確にはゾンビにしか見えない少年がいた。
目元に深いクマを刻んだ緋色の髪の少年、アルス・マグナスである。
「うぬ、ぬぬ、ぬぬなぁ……」
意味不明な言葉を漏らしつつ廊下をふらふらと歩く彼は他生徒に怪訝そうな目で見られながらも食堂へ向かっていく。
正直食事よりも睡眠を取りたい気分ではあったが、ラドゥに久しぶりに会えるとならば行かないわけにもいかなかった。
(たったの一週間なのにな)
セイリオに弟子入りしたあの日。それ以降ラドゥは学園側からあることを頼まれたらしく授業すら中々顔を出さない日々が続いていた。当然、一緒に登校したり帰ったりも難しくなったため、今日が本当に久しぶりに顔を合わせるタイミングなのである。
「え~っと…確かこの辺で待ち合わせだったような……」
そういうアルスの手には一枚の手紙があった。
昨日のセイリオの特訓からクタクタになりつつ家に帰るとこの手紙が家のドアに挟まっていたのだった。
内容はシンプル
『アル君、話したい事があるんだけど、明日の昼休み食堂で会えないかな?』
「あっアルく~ん!こっちこっち!」
食堂の片隅から元気そうな声が響いてくる。そちらの方を向くとラドゥがぶんぶんと手を振っていた。
「お、いたいた。久しぶり。元気そうだな」
「ここ最近急に忙しくなったからね~。そういうアル君も……いや、無理してるでしょ」
じっくりと顔を覗き込まれ呆れ顔をされてしまう。
「寝込んだりしてないからセーフなんだよ」
「確実に駄目な思考へと変化してるっ……!?と、とりあえず座りなよ。本題はここからだし」
「本題……?」
ラドゥはオムライスを、アルスは購買で買ってきたサンドイッチを頬張りつつ話は進む。
「んで肝心の今日呼び出した理由なんだけど……アル君、学園長って知ってるよね?」
「流石に人の事舐めすぎだろお前」
学園長 グリム・エスカルド
泣く子も黙る学園長、二度と会いたくない学園長、そもそも人間なのか怪しい男……と変な噂を上げたらきりがないほどミステリアスな男であり、円環魔法の腕も人類一ではないかと呼ばれる程の大魔法使いでも有名だった。
「んぐ……ふぅ。で、その学園長様がなんだって?」
一息でサンドイッチを飲み込んだアルスとは逆に、ゆっくりとスプーンを動かすラドゥは声を潜めてこう言った。
「……なんかあの人に喧嘩売るような事しちゃった覚えとかある……?」
「……はぁ?」
眠気が吹っ飛んだ。
午後の授業は世界史。座学であった。この授業はラドゥも取っているため、普段なら隣にいるはずだが今は空席だ。
「つまり、王都グランマルスを中心にこの国は発展していったというわけです。ここまでは前回やった内容ですね」
どうやら今日も学園側……というか学園長からの頼まれごとで授業には参加できないらしい。詳しい内容は話せないらしく教えてくれなかったが。
「では今日はその発展の歴史についてもう少し細かく触れていこうと思います。そもそも王都グランマルスが成立し我が国「マルス王国」が誕生した時、周辺の国から多くの反感を受けました」
だが、ラドゥの話を聞いている限り「あいつすごいなー」で済ませられなくなってきた。どうやら学園長が自分の動向を探っているようなのだ
「初代国王が発見した「魔法」という技術はまだ秘匿されていた時代のため、近隣諸国から多いに恐れられ、その力を振りかざし無理やり領土を奪う形で建国したため、当然ではあります」
(なんで俺なんかを……?)
どうやら陣形魔法について学び始めたのがきっかけのようだが、グリムノアに陣形魔法を学ぶことを禁止するような校則はない。
「隣国であるイルミナリア帝国を中心とした連合軍の結成により、開戦まで秒読みとなったその時、戦争を止める事となるある出来事が起こります。え〜では……」
そして何より、ラドゥの顔が……
(思い詰めてた顔してたよな……)
「アルス・マグナルさん、起立」
「フェ!?は、はい!」
完璧な奇襲に驚くアルス。……正確には授業を右から左に聞き流していたのが悪いのだが。
「建国暦56年。今後の歴史を変える事となったその出来事はなんでしょう?」
幸いにもその年の有名な出来事は一つだけ。だてに一年目を教科書かじって過ごしていたわけじゃない。
「魔族連合の成立です」
「正解です。着席」
ふぅ、と息を吐きながら席に座る。
「すでに人類全体に被害を及ぼしていた魔族でしたが、魔族連合の成立により人類は協力せざるを得なくなった。争っていたら自分たちが滅ぶ事に気がついたのです」
「こうして今………建国歴156年にまで及ぶ人類と魔族の長い争いが始まった……ここ、テストに出ますからね〜」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます