幕間 【老人】
静かな室内に、ギコ、ギコとゆれ椅子の揺れる音が響く。
ガラクタと埃にまみれ、廃墟のような悲惨な姿となっているが、一応魔道具を取り扱うお店である。当然お客は一人もいない。
「アルス。アルス・マグナル…か」
そうつぶやくのはこの静かな魔法店の主、セイリオ・マッデル。
ボロボロの黒いローブに身を包んだその老人は、何かを思い返すようにぼんやりと椅子を漕いでいた。
どこか遠い目でつぶやいたその名前は以前店にやってきたある少年の名前だった。生意気で、自分の才能に絶望し、それでも諦めず手探りで暗い道を歩いていた少年。
その後、彼からはなんの音沙汰もない。魔法陣が起動した予兆もしないため、発動に失敗してしまっていて来れない…というわけではないはずだ。
(…駄目か)
来てくれないと困るわけではない、あくまで「いつか、どこかで見た少年」に似ていたから少し手を差し伸べたくなっただけなのだから。手ほどきの結果、自分を手伝う程度にはなつけば楽になるなと思っただけだった。
だからこそ、今ここで今か今かと時間を潰す理由は何処にもない。そして何より、街に出回っている情報が確かならば…残された時間は少ない。一刻も早く行動に移すべきだった。
「決め手が足りないという理由があるにしろ、あいつの為にまだこんな暗い部屋で燻ってるってのも笑えるのぅ…ケッケッケ」
結局の所、この老人はアルスという少年に「期待」していた。何か新しい景色をこの少年は見せてくれるのではないだろうかという「期待」。
首を振る
「ワシが…俺がやらなきゃいけない事はただ一つ。忘れるなよ、セイリオ」
自分自身に言い聞かせるようにぴしゃりと言い切ると、店じまいの準備を始める。といっても、ここに客が来るわけがないうえ、家も兼ねている店の為、入口の鍵を閉めておく事くらいしかやる事は無かった。
椅子から立ち上がり、薄く埃が被る床を歩く。踏みしめるたびギシギシと音が鳴り、今にも床が抜けそうだったが老人は気にしていないようだった。
その時だった。
「…っ!?」
突然襲い掛かった胸を炙られるようなひりつく痛みににセイリオが胸を押さえうずくまる。
「これは…起動した…!」
そこでハッと顔を上げたセイリオは一歩後ずさる。その目線の先には、ついさっきまでセイリオが立っていた場所…の真上に魔法陣が浮かんでいた。
そこに刻まれた文字は「転移」
「ケッケッケ…来るんなら早く来いっての…」
老人はにやりと笑う。魔法陣はさらに光を強めていく。
そして___
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