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「アル君大丈夫…?なんかさっきからボケ~っとしてるけど」
心配そうにラドゥがアルスの顔を覗き込む。
他にもいくつか陣形魔法に関しての本を漁ったが、新しい情報は無かった。
そんな中でも、さっきのボロ本がやけに頭に引っかかる。
「あー…ん、大丈夫。ちょっと考え事してたからさ」
「ならいいけどさ…またなんかあったら相談してよ?僕はアル君の味方なんだから」
えっへんと胸を貼るラドゥ。
「なら早速。さっきの本、マジだと思うか?」
もし本当なら魔法の常識を打ち壊す事になってしまう。
「うーん…個人的には流石に確証がなさすぎるかな。実際、そんな方法があるなら他にも__それこそ表や裏関係なく__広まっててもおかしくなさそうだし」
「だよなぁ」
いくらなんでも都合が良すぎる。大きく言ってしまえば全ての魔法使いが目指す内容がこの本以外に見つかっていないなんてミラクルがあり得るだろうか?
(だとしても…)
希望が、見えてきた。
すると突然、何かを思い出したようにはっとラドゥが顔を上げる。
「なんか思いついたのか?」
「えっと、そういうわけじゃないんだけど…今日この後予定ある事思い出したんだよね」
(…)
怪しい。目は座っていないし、変に焦っている。何か言えないことがあるのは確実である。
(んまぁ、知られたくないことくらいあるよな…)
「…わかった。じゃあ、帰るわ」
「うん、ごめんね~…」
アルスは申し訳無さそうに俯く。
「気にすんなよ。むしろこっちこそありがとな。…おかげで、覚悟決まったよ」
「覚悟…?」
学生服のポケットから一枚のカードを取り出す。
「陣形魔法、やってみる」
アルスが帰り、部屋には山のように積まれた本とラドゥだけが残された。
「…ふぅ」
ぱたり、とベットに倒れ込む。
「ごめんね、アル君」
そう呟くラドゥの手には、数枚のメモが握られていた。ボロボロの本に挟まっていた、例の翻訳メモである。
(また明日。そう言ってくれた)
明日は学校。
つまり、アルスは陣形魔法を習うと決めても彼はグリムノアを辞める気はない。そう決めているのだ。
そして、アルスという人間は一度決めたことに対して手を抜かない。きっと、自らの身をボロボロにしてでも2つの魔法の努力を続けるだろう。
こうなりそうだとは思っていた。だからこそ自分がストッパーになるべきだった。
けれど、実際にその宣言をされたときに体は、口は動かなかった。その時のアルスの目は「生きて」いた。
これまで魔法の話をするときのどこか虚ろな目とは違う、期待や希望に満ちた光。そういった物を彼の目から感じていた。
(ごめん、アル君…)
自分は、親友が傷ついて行くと知っていながら止められなかった。その先にある未来を掴み取るため、アルスは茨の道を全力で走り抜けていくだろう。自らの体に多くの傷を作りながら。
また、ラドゥにとって頭を重くさせることは他にもあった。
(学園長…初めて話した。でも、あの人は一体何を…?)
つい数時間前、学長室に呼び出されたラドゥは、「学園長」直々にこう命じられた。
「新たなる転生者様の召喚に成功した。主にはその卓越した才能を使い、彼女のアドバイザーとなってもらう」
学長室に冷たく男の声がが響く。
急に呼ばれた上、めったに会えない学園長からこの突飛な話である。当然頭の中を整理しきれない中ラドゥはどうにか言葉を捻り出す。
「て、転生者様のアドバイザー…?でも、僕はあくまで一介の生徒でしかありませんし、何より転生者様は常人とはかけ離れたスピードで成長していくものでは…?まだ僕程度の力ではとても…」
目の前の白ローブの男…学園長グリムからは、並々ならぬ迫力を感じる。
「その成長というものも元の技能や知識がなければ起こり得ないものだ。我が学園の教師陣の多くは書物を食いつくほど眺め、自分のものにしたと勘違いした知識をそのまま教え子に伝えているに過ぎん。転生者が持つその発展性に追いつくためには、それに近い才をもつ人間が必要なのだ」
つまりは、ラドゥの才能をみとめてくれているということなのだろう。それも転生者と同じレベルの才能があると。
「で、でも僕はまだ2年生です。もっと適任の先輩方がいらっしゃるのでは…?」
「彼らは来たるべき魔族との戦いに向け実戦に挑むべきであり、いくら転生者様の為とはいえ、学園に居させるべきではないと考える。そして何より…ラドゥ・ファンガ。貴殿の才、それはすでに数年程度の差を消し去り、飛び越えるほどのものであるはずだ」
「…」
褒められている…筈だ。けれど、なぜか鳥肌が止まらない。全身が何かを警告している。
「貴殿ならこの話を受けてくれると信じている。具体的な例は追って話す。…そしてここからは他言無用…私たちだけの秘密にしてもらいたいのだが…アルス・マグナル。当然知っているだろう?」
ぴくりと体が震える。なぜ今彼の名が出てくるのか。
「数日前から、彼が陣形魔法について調べ始めたという話を聞いている。その理由を知りたい」
ベットで枕に顔をうずめながらぼそりと呟く。
「アル君、大丈夫かな…」
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