1ー11
授業が終わり、予定通りラドゥの部屋へお邪魔することになったアルス。
しかし、最後の授業の終わりにラドゥが教授に呼び出されたことで学生寮のある地区につく頃にはすっかり太陽が傾いていた。
「にしても呼び出しって…なんかやらかしたのか?」
「…うんまぁ、そんなところかな」
「…?」
なんだか反応が鈍い。普段なら「アル君じゃないんだから~」と元気いっぱいに返してきそうなものだが。
ラドゥの部屋はアルスが借りているものよりいくつか上のランクのものであり、なぜわざわざそんな高い部屋を選んだのか以前理由を聞いてみたところ
「ある程度部屋が大きくないと、コレクションしたものが置けなくなっちゃうからね〜」
などとへろんへろんしながら答えていたが…部屋を開けたときに飛び込んできたのは驚きの光景だった。
「ちょっとまっててね…確かこのあたりに…」
「おいおい、足のふみ場すらねぇじゃねぇか…少しは整理したらどうなんだよ」
「しょうがないでしょ〜。ほしい本がどんどん増えていくんだもの。マニアってのは断捨離とは正反対の行き方するものなんだよ」
今現在のラドゥの部屋は、数十個はありそうな本棚に収まりきらず、床の殆どを本で埋め尽くす図書館もびっくりな有様であった。
また、それらの本に関しても普通ではなく、片手にすっぽり収まる手帳サイズの小柄なものから、ラドゥ一人位は簡単に押しつぶしそうなレベルで馬鹿でかいもの、耳を近づけるとかすかに笑い声が聞こえるようなそもそも本かどうか怪しいものまで存在した。
「はてさて、何時間かかるか…」
そんな中なんとなく目についた絵本を手にとってみる。題名は「封印されしタコゾヌスと伝説の勇者」
「ぶっ!おいこれ表紙めくったらなんか触手みたいの生えてきたんだけど!?」
「ああ、それはたしか…魔族を本に封印してるって名目の飛び出す子供向け絵本をリアリティある感じに改造した魔絵本だよ。物珍しさに買っちゃった〜。襲いかかることはないから安心して大丈夫〜」
「そいつは一体何の目的でこんなゲテモノを作り出したんだ…?新しい扉開いちゃったのか…?ってちょ、やめっ、服の中にぬちょぬちょした触手が潜り込んでくるんだけどぉ!?」
その後アルスは、ラドゥが目的の本を見つけるまで絵本(作 新しい扉を開いちゃった変態魔法使いさん)に暫く苦しめられるのだった。
「ひどい目にあった…」
「勝手にコレクションに触るからでしょ〜。でもめちゃめちゃされるアル君面白かったな…。今度学校もってこうかな…」
「君に人の心が無いようでアルくん悲しいなぁ!」
ふふっと薄く笑うラドゥ
しかし、やはりその笑顔にどこか違和感を感じる。ラドゥが無理して笑っているような、何かを隠しているような…そんな気がするのだ。
(…ラドゥ?)
違和感を感じたものの、そのことについてどう話そうか迷っているうちにラドゥが目的の本を見つけたらしく、大事そうに抱きかかえながら持ってくる。
「え〜と…でそれが例の?」
「うん、明確なタイトルが書いてないから名前はわからないけど、中身は主に陣形魔法…特に魔法陣の性質についで書かれてるみたい」
そういって渡してきた本はかなり古いのか、表紙も中身もところどころちぎれたり虫に食われたりとボロボロになっていた。
「みたいってのはあくまで僕がある程度解読したからなんだけど…ボロボロで読めなかったお陰か禁術が乗ってるにも関わらず廃棄されなかったみたい」
「なるほどな…にしてもちょっと力入れただけで千切れそうだな」
「材質的にはそんな古く無い…せいぜい2、30年前くらいのもののはずなんだけどね。あ、そこそこ」
そういうと、アルスは本の後ろの方についた付箋を指差す。
付箋のついたページを開いたが、そこも他と同じくボロボロだった。しかし、そこには何枚かのメモが挟まれていた。
「「陣形魔法とは無限の発展系を持った魔法であり、その最終系をここに残す…」これって」
「前にこの本を読もうとしてた人が書いたらしいメモが挟まってたんだよね〜。古本屋で適当に買ってたらすごいもの拾っちゃった」
…普通メモ挟んだまま売りに出すか…?
若干の違和感を感じつつ、メモに残された文章を読み進める。
陣形魔法の欠点、それは世界にシルシを組み上げなければいけないことと、刻まれたものに命…生命力が存在しなくてはいけないことだ。前者によって陣形魔法は素早さを、後者によって他との相性を奪われ、長きに渡り発展系を生み出すことのできない時代が続いた。
しかし、今このとき。我は完璧なる回答を手にした。これは世間一般からすれば人の心を失いし力、禁術と呼ばれし力だろう。
だが、我は諦めぬ。魔法の才に恵まれぬ者たちですら力をふるい、魔族との戦いを勝ち抜くために必要な力なのである。それこそが___
「………」
「残念だけどこれしかメモは残ってなかったし、これ以上の復元は僕には無理だったんだ…」
ラドゥは申し訳無さそうに呟く。
しかし、最後にこう付け加えた
「詳しい方法はわからない。確証もない。でも、この本を信じるなら…作者は、魔法陣には魔法っていうシステムが持つ「限界」を超えられる方法があるってことを見出したのは確かみたいだよ」
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