幕間 【転生】
魔導学校グリムノア
国中から多くの学生がやってくるこの学園には、学園とは別の側面が存在する。
それは、「転生者」の召喚、管理を務める機関という側面。
学園の地下奥深くに一つの部屋がある。
何人もの兵士で固く守られているその部屋では、ある儀式が行われていた。
部屋の中央には粘土にいくつかの元素を付与し、人間の形に整えた「人形」が横たわっており、その下には大規模な魔法陣が敷かれていた。
一番内側には四角。よく見ると、その四角形は多くの細かい魔法文字で描かれていた。そして、それを囲むように全長約10メートル程の六芒星と、その隙間に無数の図形と魔法文字が散りばめられている。
大規模魔法「転生の義」
その20回目が日常の裏で静かに発動されようとしていた。
その部屋にいるのは6人の男だった。
その中の一人が口を開く。
「諸君、此度は転生の義のため集まってくれて感謝する」
およそ年齢は30〜40くらいで、高そうな白いローブに身を包み厳しい顔つきをしているその男は、ハキハキとした口調で話を続ける。
「我ら人間は、長きに渡って邪智暴虐の権化である魔王、及び愚鈍で愚劣な魔族と争ってきた。そして我々は20年前のあの儀式以降、転生者様が持つ圧倒的な力で魔族連合を蹂躙している」
聞いている魔法使いたちがどこか寒気を覚える程に威圧的な声が、儀式部屋にこだまする。
「この流れを絶やすわけにはいかない。今日、20人目となる転生者をここに召喚し、われらが勝利を確実なものとさせようではないか!」
「「刻みし文字を楔に 元素は異界へ飛ぶ。反魂の令を成立させ 操られし人形に生の自由を…」」
6人の詠唱と共に魔法陣が輝きだす。
刻まれた魔法文字一つ一つが組み合う。それらは魔法陣に刻まれた図形と共鳴し、細い糸が生え始める。糸は魔法陣の中心に置かれた「人形」へ導かれるように伸びていき、人形の顔、首、両腕、両足へ絡みついていく。絡みついた糸に吊るされるように人形は空中へ浮かんでいく
「「正しき自由を 我らに自由を」」
絡みついた糸は締め付けを強めていく…と同時に、「何か」が糸を、魔法陣を通じて「人形」へ流し込んでいく。
「「栄光を 楔に呼ばれし英雄に栄光を」」
人形へ「何か」が流れ込んでいくほど、人の形をした土塊でしかなかった「人形」の肌が肌色へと変化していく。
「人形」だった物が「人間」へと変わっていく。
土塊は完全な人間の裸体へと変化していき、ときおりビクン!ビクン!と体を動かしながらも頭からは黒く長い髪が伸びてゆく。
「穢れ無き魂は、穢れ無き我らの力とならん‥‥!」
白いローブの男が最後の一節を詠うと共に、絡みついていた糸がほどけていく。
糸から解放された人形…いや少女は床に気絶したまま倒れる。
「成功したか」
「恐らく…すぐに次の準備をいたします」
あわただしく白ローブの男以外が部屋から出ていく。
それから暫くして、待機していた女性騎士により着替えさせられ、水色のカクテルドレスを着せられた少女は目を覚ます。
「こ…こは…」
まだ完全に意識が戻っているわけではないのだろう。顔を上げ、きょろきょろと周りを見渡す少女はどこか虚ろな目をしていた。
「お目覚めになられたでしょうか」
「っ…!?」
目の前にいたのは雪のように真っ白なローブに身を包んだ男。
「私の名はグリム・エスガルド。転生者様よ。どうか我々の世界をお救いください…」
「てんせいしゃ…?」
「麗しき姫君よ、どうかその尊き名を我らに…」
少女の頭の中から、一つの文字がが浮かぶ。
朦朧とし、まだ自分の身に何が起こったか理解できない中、その名前は流れるように口から漏れる。
「かりん…遠藤 花凛…」
こうして世界に新たな救世主が降臨する。
彼女自身、自分が何者なのかを理解できないまま。
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