1ー10

次の日


 トマトソースをたっぷりかけたオムライスを美味しそうに一口食べると、目の前の少女…に見える少年、ラドゥはのんびりと答えた

「ん〜と…つまりは、陣形魔法について詳しく書かれた本を僕が持ってないかってこと?」


 午前の部が終わったあと、いつも通り一緒に昼食を取ることにしたラドゥとアルスは無事食堂の一室を確保し、魔法店の出来事と陣形魔法について話していた。


 ラドゥの集めている稀覯本の中には魔術書も含まれていることを以前聞いていたアルスは、こいつなら何か陣形魔法についての本を持っているんじゃないかと昼飯ついでに聞いてみたのだった。


「まとめるとそういうことだな。できる限り情報を集めたい」

「なるほどねぇ。んじゃ、今日の帰りにでも僕の部屋に寄っていきなよ。珍しいものだと、確か陣形魔法の禁術について記されたと予想されるものがあったような…」

 禁術。

 術者への負担が大きかったり、使うだけで都市一つを滅ぼしかねない程の大威力の魔法等、文字通り使用することを禁止された魔法のことである。

 その多くが悪用されることを恐れ、王都が決めた検閲の元、歴史の変化の中で消されていった。

 だが、その中には個人的な日記に記すことで国の検閲の目を逃れたり、暗号にすることでそもそも禁術が乗っていることを知らせない等の抜け道を使って残された物もいくつか存在する。そういった物が違法魔道具と同じく裏路地に出回っているのがリミサである。


 ちなみに禁術を使用するのは勿論、知るだけでもお縄待ったなしである。つまりは


「…それ、もしかしなくても持ってるだけで犯罪もんj」

「にしてもここのオムライスは美味しいねぇ!」


 2つの意味でいい食いっぷりだった。


「ふぐふぐ…ぷはぁ。でも珍しいね〜。アル君って使えるものは何でも使うってタイプだし、そういうのはふたつ返事でOKするもんじゃないの?」

「気に食わない相手に教わるのは流石に無理があるんだよ。それに、ある程度の知識を備えてからじゃないとぼったくられそうだしな…」

「んま、話聞く限りでも怪しすぎるもんねぇそのおじいさん」

 そう言いながらのほほんとスプーンを動かすラドゥ。


(実際には他にもいくつか理由はあるんだけどさ…)

 今現在のアルスでは、グリムノアの授業にすら追いつけない。それはれっきとした事実である。 


 実際、午前の部で行われた実技でも他と比べ壊滅的なスコアを叩き出し、担当の教師には魔法系統の変更_____グリムノアは基本円環魔法に特化した学園のため、系統の変更は事実上の退学____をオススメされたくらいである。


「貴方はもう限界でしょう。ここの道だけに拘るのではなく他の道を見つめ直すことをおすすめします…か」

 教師に言われた言葉を呟きながら空になった皿をフォークでコツコツ突く。

「気にしなくて大丈夫だよ〜。別に円環魔法が全く使えないってわけじゃないんだから」

 そういうと、皿に残ったケチャップライスをかきこみ、ふぅ。と一息ついて。

「アル君がここに来た理由は「魔族から人を守るため」なんでしょ?守れる力があるなら、そこに力の強さなんて関係ないじゃない。全力で戦えばいいのさ〜」

 真っ直ぐな言葉をアルスに向ける

「…守れるならできる限りの人を守りたいんだよ、俺は」

 ラドゥが言っていることは何も間違っていない。自分が入学するときにそんなことを行った記憶もある。

 しかし、アルスにとって本当の理由は別にある。その理由はラドゥに話すわけにはいかなかった。


「ほーん…。ま、とりあえずは午後の授業頑張ろ!ごちそうさまでした!」

 食べ終わった食器をお盆に載せ、鼻歌交じりに食堂の出口へ向かうラドゥを見つめつつ、アルスは一人呟いた。


「本当だったら、頼ってる時点で失格なんだろうけどな…」


その顔には、胸の痛みを堪える自虐的な笑みが浮かんでいた。














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