1−9

____陣形魔法


 魔法というものが発見されたころから存在したとされる魔法であり、今現在一般的な魔法使いたちが知っている魔法の種類の中では魔法文字を無理やり文章へ変化させ、その音をもって世界の認識をズラしていた呪言魔法と並び、最古の物だと言われている。


 そのため、長い歴史の中で一番多くの改造がされてきた魔法の一つでもある。

 最初期はそもそも陣形魔法のようにひとまとめに呼ばれず、大地に直接魔法的な意味のある文字、魔法文字を書き込み直接発動させる魔法であり、発動率や威力も安定していない他の魔法と同じ扱いだった。


 しかし、そこに図形を組み込むことにより安定させることができるという発見により、陣形魔法は今の姿へと大きく近づいていく。


 術式の暴走率を下げる円、威力や効果を上げる正八角形、文字と一緒に追加することで追加効果を付与させる四角形、安定性を上げる三角形と多くの図形を利用し、方向性を安定させることに成功した魔法使いたちはこれを陣形魔法と命名。多くの人々がこの魔法を愛用しはじめた‥‥


「ここまで読む分には凄い魔法なんだけど‥‥」


 今現在、アルスはグリムノア校内にある図書館へとやってきていた。

 確か長ったらしい正式名称が存在したはずだが、とにかくここはリミサとグリムノアが持つ魔法についての知識が集まった場所なのは確かである。


 グリムノアは基本的に円環魔法について学ぶ学園の為、書物もそれに関する物が多かったが、少し奥の方まで探したところ陣形魔法についての物が多く見つけられた。


「どんなことも廃れる時にはその理由があるってことだよな」

 そういってページをめくる。


 しかし、陣形魔法は徐々に使用者が減っていった。そう、円環魔法の出現によって。

 才能があるならば凄まじい威力と規模の天変地異を起こし、才能がなくとも世界を構築する4元素を何の準備も必要なく利用できると多くの面で陣形魔法を上回るスペックをもつ円環魔法は、リミサから瞬く間に各地へ広まっていき、最終的には陣形魔法は数人の指折りの腕利き魔法使いが使うだけの魔法となった。


 とはいえ、アルスのような円環魔法を使いこなす事の出来なかった魔法使いはこれまでにも何人かいたらしく、歴代先輩方の資料を見ていると、グリムノアでそういった人々は陣形魔法や呪言魔法といった旧時代の魔法へ乗り換えるのが基本のようだった。そのため、今現在のリミサでは陣形魔法使いは見かけてもおかしくない程度には存在するようだった。


(でも、円環魔法の使えなかった先輩たちも俺と同じく入学時の適正試験は突破している‥‥。あの試験の意味なんなんだ‥‥)

 グリムノアでは入学時、円環魔法との適性があるかどうかを確認するため筆記と魔道具を利用した試験が存在する。しかし、試験という名目ではあるがこの試験で落とされること自体まれであり、2年目にして限界が見えているアルスや魔法を乗り換えた先輩方を見ていると効果があるかどうかは怪しい物である。


 ‥‥さすがに魔道具ですら一周回って誤判定をたたき出すほどに才能がない‥‥とは思いたくない。


その後も窓の外が茜色になり、閉館のチャイムが鳴るまで様々な資料を漁って

見たものの、新しい情報を得る事は出来なかった。


「ん~‥‥正直ここにある本だけじゃ知ってる内容しかでてこないか。あしたラドゥにでも聞いてみっか」

あいつのコレクションの中ならば、もう少し詳しく陣形魔法について記されたものがあるかもしれない。


引っ張り出した本を本棚に返しつつ、昨夜の状況を親友にどう説明しようかと頭を悩ませるアルスだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る