1-7

「アルス。陣形魔法を学んでみないかの?」

 唐突に放たれたその一言はアルスの心を揺さぶった。

 目の前の爺は何を言っているんだ?

「はぁ。急に何だってのさ‥‥陣形魔法?学ぶ?」

「そうそう。仮にもグリムノアの学生じゃろ?ワシの実力はさっきのでわかってるはずじゃ」

「まぁ‥‥それは」

 もし本当にあの速度で魔法陣を描くことが出来るならそれは円環魔法と変わりはしない。むしろ、四元素を中心とした円環魔法と比べ、先程の固定化のような応用性に富んでいる分、円環魔法よりも圧倒的に優秀だと言える。

 ましてや、そんなレベルで陣形魔術を使える相手に学べる機会なんてグリムノアでもそうそうないだろう。

「何より、円環魔法でポンコツでも、陣形魔法でならある程度の結果を残せるかもしれん。魔法の限界によってで威力を出せないのなら、別の方向性で応用性を高める。よくある考えじゃろう?」

「…っ」

 考えたことが無かったわけでは無かった。

 自分の限界が分かってしまった以上、円環魔法だけでなく別の魔法も学ぶべきなのかもしれないとは薄々感じていた。しかし

「‥‥ないんだ」

「‥‥?」

「それじゃあ足りないんだ。応用力なんかじゃない、相手を蹂躙できるだけの純粋な力がないと」

 叶えたい未来のために譲るわけにはいかない。ここだけは。


「はぁ~ん」

 しかし、セイリオの反応は本当に興味なさげであった。

「あんたふざけてるのか‥‥?」

「思春期少年の自称悲壮な覚悟とやらには興味無いにきまっとろうが。それに‥‥」


「魔法陣、もとい陣形魔法に限界はない」


 その言葉には力があった。目の前の男は勢い任せの嘘を言っているわけではない。根拠のない自信から出てきている言葉ではない。



「砦を一撃で沈め、一振りで何千、何万の魔族を塵へと変える。そのくらい誰にだってできる」


 子供の頃、誰もが一度は考える魔法のイメージ。

 自分の想像を具現化してくれる力


「でもそれは」

「ああ、魔法というものには人それぞれの限界がある。その考えを認めるなら。でも、そんな事を気にする必要がどこにある?」

 無茶苦茶なジジイだった。

「ボケてるんじゃなかろうな‥‥」

「この世界の方がよっぽどボケてると思うがね。どうじゃ?気になってきたんじゃないか?」

「‥‥もういいよ。とにかく当初の目的を達成させてくれ」

「ケッケ、つれないのぅ」


 結局そのあと本来の目的であるマジックウェポンを見せてもらったが、一発で魔力切れになる代わりにとんでもない威力のパイルバンカーやどんな固い石も掘り進めるスコップ等変な物しか販売していなかった。

「まぁ魔道具‥‥マジックウェポンだっけか?こっちは趣味で作ったのを適当に売ってるだけだからのぅ。魔法陣を利用している以上効果も長続きしないしな」

 魔法陣は描いた後、付近の大地や術者等から魔力を吸い取って発動するため、元々はただの道具である魔道具とは相性が悪い。

 店主が陣形魔法使いの時点で察してはいたが、ここでもお目当ての物は見つけられそうに無かった。


「ま、うちに魔道具をお止めるのは筋違いってことじゃよ」

「店として成り立っていないぞここ‥‥っ!」


「さてアルス、そろそろ店じまいにしたいんじゃが‥‥こいつを持っていくといい」

 そういうとセイリオは一枚のカードをこちらに渡してきた。

 大きさはトランプと同じくらいで、表面にはこの魔道具店の名前が、裏には正八角形の中に三角形が3つ並べられ、その周りに魔法文字の描かれた紋が描かれていた。


「この文字は‥‥【転移】?」

「陣形魔術の応用じゃよ。そいつに魔力を通せばこの店の入り口にある魔法陣まで飛ぶよう仕掛けてある。もしワシに話があるなら、そいつを使うとよい」

 つまりは自分から魔法を教わりたいならこれを使ってもう一度来い。ということなのだろう。

「ただし、その紋の効果があるのは3日、持って4日じゃな。それまでには決めてもらうぞ」

「‥‥」

「悩んでくれているようで何より。ほれ、特別サービスじゃ。表まで戻してやろう」

 そういうとセイリオは再び杖を取り出し、

「刻まれし文字は【転移】。利用せし元素は風。この陣に乗りし物を風へと変化させ、文字が導くままに流れん‥‥」

 すると、アルスが立っていた地面が輝きだし体が徐々に薄れていくのが見える。

「なっ、おいまっ‥‥」

 アルスの声にセイリオは反応せず、詠唱に集中していて聞こえていない。


 そこで意識は切れる。


 次に目が覚めたのは、セイリオの言っていた表通りではなくどこか別の裏路地だった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る